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Business Column イマドキのビジネスはだいたいそんな感じだ!

美味しくなくていい。美味しくないほうがいい

◆文:佐藤 さとる

 

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少し前に、地方都市の「地域産業振興プロジェクト委員」というものをさせてもらったことがある。地域産業の振興と言うとなんだか壮大な感じがあるが、要は観光客向けのお菓子と旅館で出す料理を考えることだった。

初会合の席には地元の観光協会会長をはじめ、商工会議所会頭、菓子協会の長など地元お歴々の方が並んだ。冒頭、お歴々の方は「わが地にはこれこれという素晴らしい野菜や海の食材がある」とアピールした。その熱弁は、オバマ大統領に教えてやりたいほど情熱的だった。

曰く、「日本一、世界一だと思っている」。

ワタシは国立大学の准教授という方や某大手旅行代理店の部長に挟まれ、かしこまって座っていたが、その演説を聞きながら「そんな話は聞いたことがない。ありえない」と舌打ちしていた。なぜならワタシはその地元で生まれ育っており、親や親類も友人もいて一度たりとも、「世界一のこんなものができた」とか「日本一が生まれた」という話など聞いたことがなかったからだ。

 

実は地方に行くと「日本一だ、世界一だ」と語る名士の方は多い。けれど、たいがい本人が思っているだけで、ほとんど根拠がない。あっても甚だ希薄だ。件のお歴々の方もその類だ。

 

ワタシはその“オバマ大統領演説”のあとに率直に申し上げた。

「悪いが、あんたらの言ってる内容では日本一は無理だ。だいたいそんな食材や菓子類は、トウキョウにはいっぱいある。あんたら、トウキョウのデパ地下というところに足を運んでみたことがあるのか? デパ地下には日本一、世界一が沢山ある。きっとあんたらが行ったら、卒倒するだろう。つまりあんたらが呼ぼうとしているお客はそういうところに住んでいる舌も目も肥えた人なのだ。寝ぼけたことを言ってもらっては困る。町内会の味自慢コンテストではないんだ」という内容を、もちろん丁寧に申し上げた。

 

会場はたちまち、ワカゾーが何をいうという気配を残して、静まり返った。ワタシは、その空気を読みつつもリンカーン大統領のように話を続けた。

「日本一をつくりたいなら、他にないものをつくれ。例えば、この地では毎年秋になると鮭が上ってくる。その鮭を塩漬けにして身をほぐし、中に餡と混ぜあわせた『鮭まんじゅう』だ!」

ワタシの鮭まんじゅう発案に対して、すぐに地元の観光協会長が、「そんなまずいものは売れん!」と吐き棄てた。

ワタシは「つくってもいないのになぜまずいという? アナタの味覚やセンスが消費者を代弁しているのではない。大事なことはオンリーワンをつくることだ。だからまずくてもいいのだ」

すると隣の国立大学の栄養学の先生が、「でもおいしくないとまずいんじゃないですか」と問うてきた。

もちろんおいしければいい。でもデパ地下にも行ったこともない人たちが、「おいしい」とか言ってる程度のおいしいはたかが知れてる。

そもそも観光地で買う土産に品質は不要だ。本来観光地の土産はすべからくコミュニケーションツールとして存在する。行って、体験して「変だった」「わけがわかんなかった」ほうが話のネタになる。

「だから中途半端にうまそうなものより、恐いくらいまずそうなもののほうがいい。美味しくなくていいんですよ、先生」

国立大学の先生は、合点がいかないふうであったが、言わんとしていることは分かったようだ。

 

さて、どっちが魅力的だろう。

「味に自信があります。10個入り元祖◯◯(地域名)まんじゅう」

「マズさは折り紙付き! 鮭の切り身とこしあんのありえないコラボ! 鮭まんじゅう」

ビジネスは、いつもだいたいそんな感じだ。

 

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