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事業主が知っておきたい外国人労働者雇用の基礎知識

◆文:四ノ宮 美紀子 (四ノ宮行政書士事務所)

 

政府は4月4日、外国人の技能実習生の受け入れ期間を2年延長して5年とする緊急の時限措置を発表しました。

東日本大震災からの復興工事、さらには2020年の東京オリンピック開催に伴うインフラ整備などの需要を見越して、建設業界では人手不足が叫ばれています。今回の既存の外国人技能実習制度を利用しての時限措置は、この建設業界の人手不足対策としての意味合いが強いです。

 

外国人技能実習制度とは、外国人実習生を一定期間日本で研修、現場実習を行い、技能の移転を図ることで発展途上国の経済発展を担う人材の育成を目的とした制度です。本来は日本での就労そのものを目的としたものではありませんが、今回の措置はこの外国人実習制度を応用する形で運用する方針です。

 

これまで日本では外国人労働者の就労は非常に限定的な範囲で許容されるにとどまり、肉体労働中心の、いわゆる単純労働とされる就労を目的とした滞在は認められていませんでした。ただ、昨今では、建設業に限らず、人手不足に悩まされている業界・職種は少なくありません。日本人労働者だけではなく、外国人労働者の力も借りて労働力を確保したいと考えている企業は多くなっています。しかし、外国人労働者の採用は、日本人労働者の採用と同様、労働関係法令などの適用に加え、入管法(*1)に規定される外国人の労働範囲を正しく理解する必要があります。

 

外国人

外国人の方が日本で適法に滞在するためには、滞在目的によって全部で27種類に分けられた「在留資格」、一般的に「ビザ(*2)」と呼ばれるもののうち、どれかひとつを取得している必要があります。この27種類の中で、就労を目的として発行されるビザが、日常でよく「就労ビザ」あるいは「労働ビザ」と呼ばれているものに当たるわけですが、これらの就労ビザは、たとえばシステムエンジニアやコンピューター技師等の技術者として活動するための「技術」ビザ、料理人など熟練した技能を活かして活動するための「技能」ビザといった具合に、職業内容により更に類型化され、各ビザを取得するに相応の学歴や職歴、資格等が求められています。

 

では、こうしたビザとして類型化されている職業以外では、外国人が就労することはできないのでしょうか。確かに、就労目的で発行されるビザでは日本で活動できる職業内容が限定されていますが、27種類あるビザの中には就労制限のないビザも存在します。「永住者」や「日本人の配偶者等」、「定住者(日系人等)」などがそうであり、いわばその方の身分関係に基づいて発行されているビザについては就労制限がないため、純粋に労働力が必要な単純作業に従事してもらうことも可能です。

 

その他、就労目的のビザではありませんが、「留学」や「家族滞在」のビザを持つ外国人については、「資格外活動許可」と呼ばれるアルバイト許可を取得することにより、週28時間以内(「留学」の場合、教育機関の長期休業中に関しては一日8時間以内)の時間制限はありますが、風俗営業を除く業種で就労することが可能になります。

 

たとえば製造工場で採用する場合、ライン作業を目的として発行される就労ビザはないため、正社員として採用することは難しいものの、資格外活動許可を持つ留学生や家族滞在者をアルバイトとして採用することは問題ありません。ただし、前述のとおり就労時間は週28時間以内です。近年、特に留学生が週28時間を大幅に超えアルバイトをしていたことが原因で、ビザの期間更新が不許可になる例は多く、雇用主としてはこの点を十分に踏まえてシフト調整をしなければなりません。

 

外国人従業員の滞在やビザについては、外国人自身の問題として、つい本人に任せきりになってしまいがちですが、採用時にビザ取得状況の確認を怠った場合、外国人従業員の持つビザの活動範囲を超えた就労を行わせてしまった場合など、雇用主として不適切な管理を行っていた際には不法就労助長罪として雇用主も処罰の対象となります(3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、又はその両方)。中長期間適法に日本に滞在する外国人については、在留カードと呼ばれる身分証明書が発行されており、就労の可否が記載されていますので、採用の際には必ずこの身分証明書を確認しましょう。

 

入管法は平成21年に大幅な改正がされている他、今年3月11日にも更なる改正案が国会に提出されており、新しいビザ制度の創設等、外国人労働者のより柔軟な働き方が検討されています。まだまだ限定的ではありますが、こうして少しずつ雇用の機会が広がりつつある一方、雇用主としての責任、コンプライアンスは今後一層問われることでしょう。

 

*1…出入国管理及び難民認定法。外国人の出入国や滞在に関する法律。
*2…厳密に言うと「在留資格」と「ビザ」は異なりますが、本稿では「在留資格」≒「ビザ」として説明します。

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プロフィール写真 四ノ宮先生

【プロフィール】

四ノ宮 美紀子(しのみや・みきこ)

埼玉大学教育学部総合教育科学専修 卒業

平成23年1月 行政書士試験合格、同年「四ノ宮行政書士事務所」開設

 

【お問い合わせ先】

四ノ宮行政書士事務所

〒105-0013 東京都港区浜松町一丁目23番2号山下ビル5階

TEL.03-4455-3367

http://www.office-shinomiya.jp/

info@office-shinomiya.jp

 

 

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