オビ スペシャルエディション

FCEトレーニング・カンパニー代表安河内亮が注目企業に切り込む!

伸びる会社の人材育成術

第4回:有限会社富久屋

 

「伸びている企業の秘密は人材育成にあった!」

成長を遂げている企業の経営陣は、どのようにして人材育成を行っているのだろうか。

これまでに4,500社を超える企業の研修・教育を行ってきたFCEトレーニング・カンパニー代表、安河内亮が伸びている成長企業を取材し、人材育成のポイントを探る。

 

有限会社富久屋

〈DATA〉

有限会社富久屋(社員数:40名/アルバイト含む)

本社:埼玉県東松山市松本町2-8-7

TEL:0493-22-0510  FAX:0493-22-0834

http://www.rakuten.co.jp/mamekuzu/

 

創業100年を超える和菓子屋「富久屋」。家族経営を続ける中、催事やネット販売を拡大していく過程で、社員間のコミュニケーションが希薄になってしまったという。しかし、あることをきっかけに、効率的なコミュニケーションが生まれ、社員一丸となって支え合える組織に変貌した。その変化について、河合店長と國島店長に現場目線でのお話を伺った。

オビ インタビュー

─数年前から外部の研修に参加するようになって、お二人の考えが変わってきたと伺ったのですが、どのようなきっかけだったのですか?

 

(國島)富久屋は今年で創業103年目なのですが、外部の研修に参加し始めたのは、ちょうど創業100年目の時でしたね。当社はずっと「家族経営」で、店舗は少ないながらも催事部門だったり、インターネット販売をする部門だったり、新しい役割が会社に増えてきたところでした。

そのように社内の変化が多い中で、「社員同士がもっと組織的に効率的なコミュニケーションを取っていった方がいい」という社長の想いから、外部の研修に参加するようになりました。工房でお菓子を作る職人さんや店舗のアルバイトさんも含めて、どうやって組織を形成していくかを研修で学び始めたという感じです。

 

─初めて外部の研修に参加してみてどう思われましたか?

 

(國島)「仕事の合間にわざわざ研修にいくなんて…」みたいな気持ちは正直少しありましたね(笑)。最初は研修の意図がいまいちわからなかったんです。わざわざ時間をかけて参加して、業種が違う人たちと話して何の意味があるんだろうと思っていました。

 

(河合)そんな中、社長から「そのうち研修に通うのが当たり前になるから、とにかく行き続けなさい」という言葉がありました。「研修に参加していればそのうち見えてくるものがあるから」って。その言葉を信じてなんとか通い続けていたという感じですね。あと、「研修では一番前に座って、質疑応答の際には一番先に手をあげなさい」と社長に言われたんです。

それが研修の参加に対して前向きになれるコツだからと。意見を言うのも先に言いなさいって。

 

(國島)そういうことを続けていくうちに、最初は言われた研修を受講するという状態だったのですが、半年後くらいには、自分たちから受講する研修を選ぶようになっていました。

 

─実際に研修を受けてみて行動に何か変化があらわれましたか?

 

(國島)研修に通い始めてからしばらくして社長にお願いし、新しく会議を始めました。もともと月に1回、社長と各店舗の店長とで会議を行っていたのですが、そこに工房の工場長とパートリーダーが加わることになりました。

研修で「マネージャー(中間管理職)は会社のコミュニケーションの中心だ」と習ったので、上と横の情報共有がされた方が店舗で働くスタッフさん達も誰に何を聞くべきかわかりますし、時間効率がよくなるのではと思ったんです。

 

─会議の効果はありましたか?

 

(河合)今では本当にやるべき、欠かせない会議になっていますね。研修で会議進行のスキルも学びましたし。

 

(國島)社内の皆さんに会議に出席してもらい情報共有をしてもらってよかったと思うことがたくさんありました。職人さんの商品に対する想いや工夫がよくわかるようになったんです。それによって店舗でも「売る工夫」ができるようになりました。

正直なところ、これまでは、工房から送られてきたものをただ店頭に出して売るだけだったのが、職人さんの想いや工夫がわかると、ただ商品を売るのではなく、プレゼント用に個別パッケージをしたらどう?といった提案がどんどん生まれ、売り方が変わったんですよね。

売り方が変われば、当然売れる数も変わりますし、何よりそうやって売れたことを職人さんに報告するとすごく喜んでくれるのが嬉しくて。

 

わたし達だけでなく、会社も変わってきているんですよね。例えば、毎月29日は「富久屋の日」と言って、その日限定の季節を感じる和菓子を企画販売します。ある日、新人の職人さんのデビュー作となるお菓子が店に並びました。「社長に何度もダメ出しされながらも、想いを込めて作ったお菓子だから、絶対にみんなで頑張って売ろう!」って一丸となりたくさん売りました。

職人さんにその結果を報告すると「ありがとうございます!」って本当に喜んでくれるんですよ。それを見てさらにみんなで祝福するということが起きて…。本当に嬉しかったです。話しているだけで、ちょっと目頭が熱くなってしまうくらい(笑)。

 

(河合)何年か前には社内にこんなことはなかったんです。それが今ではこのようなチームワークが生まれて、「なんだろうこの一体感!」と思うことが日々起こっていて。それが今の楽しさですね。実は、昔は自社のことを他社に紹介するのが少し億劫だったんです。でも、今は堂々と胸を張って言えるんですよね。「本当にこの会社で働けて幸せだ」って。

 

─今後の目標について教えてください

 

(河合・國島)先日社長が「二人は研修で知識を得て〝行動〟が変わるのと同時に〝意識〟も変わったのが大きいんじゃないか。昔は、私にどうしましょうって聞いてくるだけだったのが、自分からこういう風にしたいって言えるようになったと思う。二人は計画性を持って話すことができるようになったよ」とも言ってくれました。

でもまだまだです。わたし達が会社のコミュニケーションの中核にいるのであれば、もっとその役割を果たしたいと思います。これまでになかったコミュニケーションが生まれて、目標が明確になりました。大変な時にはみんなで支え合えるようになってきたので、さらにいい「組織」にしたいと思っています。

  オビ スペシャルエディションFCEトレーニング・カンパニー代表・安河内亮の一言

 

FCEトレーニング・カンパニー 安河内亮

今回は連載開始後初めて企業トップではなく、管理職・リーダー層の方にインタビューしました。富久屋の事例を紹介したのは、まさに組織が変わっていくその流れを、管理職の方々の目線で追いかけることで、そのポイントを取り入れやすくなるのではないかと思ったためです。

今回のポイントは以下の3点です。

 

①経営者からリーダー陣への働きかけ

②組織の変革はトップランナー(リーダー)作りから始める

③組織の変革、成長には時間を要する

 

まず、社長から研修に向かうリーダー陣に対して「行き続けなさい」「一番前に座り、一番先に手をあげなさい」といった働きかけがあったからこそ、半年後には「自ら研修を受講したい」と思い、自ら研修を選ぶというリーダー陣の姿がありました。リーダーが真っ先に持つべきマインドである「主体性」を醸成した、素晴らしい働きかけだと感じます。そして、次にその「リーダーシップマインド」を持ち始めたリーダー陣が牽引する形で、会社内の会議やコミュニケーションが変わり始めます。そもそも、組織全体を一気に変える、というのはとても難しいことです。

しかし富久屋のように、まず数名のリーダーに変化が生まれ始めると、その輪が徐々に広がり、いつの間にか組織全体に大きな変化が生まれるという循環ができます。組織変革は、こうした「トップランナー」をいかに作りだせるかが成否を決めるポイントになってきます。

このように組織の変革・成長とは、初めは徐々に変化が生まれ、気づいたら当初とは全く違う組織に変わっていくことに気づくような、時間がかかるものでもあります。

だからこそ、経営者が粘り強くトップランナー作りを行い、その輪を波及させ、組織の空気を変えていく必要があります。今回は、その組織の変革・成長を生み出す過程がよくわかる、まさにお手本のような好例でした。

 

オビ スペシャルエディション

FCEトレーニング・カンパニー

代表/安河内 亮

東証一部上場企業にて、大手小売チェーン等の経営支援に携わり、その後、人財開発部門へ。就職人気企業ランキング日本50位へランクイン、「働きがいのある会社」ランキング入賞など実績を残す。その後FCEトレーニング・カンパニーを創業。自らも人財コンサルティング、社内大学構築等を実施。嘉悦大学非常勤講師。

https://www.training-c.co.jp/

 

2015年11月号の記事より
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