◆文:冨田和成(株式会社ZUU 代表取締役社長兼CEO)

マスメディアでしかできなかったこと

 マーケティングでは以前、「ブランディングはマスで、レスポンスはWebで」という使い分けがされていました。テレビ、新聞、雑誌などのマスメディアはブランド認知や好意度、イメージを獲得するツール、Webはそれを受けて直接的かつ短期的に購買行動に結びつけるものと役割分担がなされていたのです。

 

 しかしブロードバンド、スマートフォン、アドテクノロジーなどによって、Webはマスメディアに劣らない、ブランド認知やイメージ獲得に欠かせない存在となりつつあります。

 既に広告費の規模でも、テレビメディアに次ぐ規模であることが既に広く知られています。電通による2014年推計によると、テレビメディア広告費が1兆9564億円で、ネット広告費は1兆519億円。すでに新聞(6057億円)や雑誌(2500億円)を大きく上回っています。

 またアドテクノロジーなどの進化により、様々な手法が採れるようになり、かつてマスメディアで行っていた「ブランディング」に、Webマーケティングで取り組む企業が増えています。

 

■ブランディングできている企業

 日本でWebマーケティングを積極的に行い成功させている企業の一つとして挙げられるのが、「無印良品」の良品計画です。基本的にはマス広告をほとんど実施せず、全国に展開する店舗とWebにマーケティング活動を集中しています。マーケティングの基本戦略はずばり、「ブランディング」です。単なるブランドイメージの醸成や世界観の発信を指すのではなく、顧客を巻き込み、リッチなブランド体験を提供することを意味します。

 

 その中心となるのが、Web上に開設している「くらしの良品研究所」です。顧客は主に2種のコンテンツを通してブランドを体験します。一つは、商品に関して顧客の意見を吸い上げ、一緒に商品開発する「IDEA PARK」です。ここで顧客は、自分が欲しい商品の意見や要望を伝えることができます。他者の意見も自由に読めますし、意見がどう活かされたかも確かめられます。

 もう一つは、日本のモノづくりやよりよい暮らしについてのコラムや記事です。定期的に更新されているこれらの記事は、単なる「いいモノ紹介」にとどまらず、製作・創作の背景や関わる人々の考え方を伝えています。一見、無印良品の商品に関わらないものを採り上げているようでも、結果として無印良品の「シンプルで質の高い良い暮らしを求める」というブランド価値を伝えているのです。

 

 こうしたWebマーケティングによって、より深いブランド体験を提供することで、ブランドへの共感と信頼感を得るとともに、企業と顧客が共に「無印良品」というブランドを育てていくことに成功しています。こうした体験はWebマーケティングなくしては行えないものばかりです。

 とかく最新のテクニカルな手法に目が行きがちですが、細分化したメディア環境の中で顧客接点を増やし、ブランディングをよりリッチに、効果的に行うことができるもの、ととらえるのがWebマーケティングの本質的な理解です。

 「ブランディング=より目立つ露出」という発想から抜け切れず、大型広告枠への出稿、動画などリッチアドの利用などをあげる企業はいまだに多いようですが、より広い視点でWebマーケティングをとらえる必要があるのです。

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●筆者プロフィール/冨田和成

神奈川県出身。一橋大学在学中にIT分野で起業。2006年大学卒業後、野村證券株式会社に入社。本社の富裕層向けプライベートバンキング業務、ASEAN地域の経営戦略担当等に従事。2013年3月に野村證券を退職。同年4月に株式会社ZUUを設立し代表取締役に就任。

〈お問い合わせ先〉 info@zuuonline.com

 

◆2016年2・3月号の記事より◆

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