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庄内の文化が薫る庭園寄暢亭

◆取材:綿抜幹夫 / 撮影:寺尾公郊

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山形県酒田市が誇る庭園『寄暢亭(きちょうてい)』。別名『風を観る庭』とも呼ばれ、地元で愛されている。しかし、前オーナー企業が倒産した時には、東京の大手デベロッパーへの売却が検討されたそうだ。そこに地元の名士・新田嘉一氏が待ったをかけた。酒田の宝を県外の企業に渡してはならない。ましてや潰してマンション建設などもってのほかと、大いに男気を発揮、平成18年にこれを買い取った。

よくぞこれだけの庭園を残してくれたものだ。それほどこの寄暢亭は素晴らしい。

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下世話な話で恐縮だが、取得費用は莫大だっただろうし、維持管理費だって決して安くはないはずだ。だが、それだけの価値が寄暢亭にはある。

今回、新田氏のご厚意により、見学させていただく僥倖を得た。

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地域の財産として守り育て、後世に伝える──。

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山形県酒田市の通称浜畑(御成町)に、小山家別荘『寄暢亭』が建てられたのは明治23~24年頃。施主の小山家当主・小山太吉(2代目)は、廻船問屋で財を成した素封家で、庄内有数の大地主でもあった。旧荘内銀行の創設者であり、酒田市商業会議所初代会頭や町会議員などを歴任。一方古書画、園芸などに通じた粋人でもあり、その財にものを言わせて作り上げた別邸が寄暢亭というわけだ。

造園にあたったのは、地元で第一人者とされた庭師・山田市十郎(号:挿遊)。挿遊作の代表的な庭は、浜田の『清亀園』、加茂屋秋野家、八幡町前川大滝勘太郎家、遊佐町石垣茂左ェ門家など多数あるが、その中でも名園の誉れ高い『寄暢亭』こそ最高傑作だと言われている。

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現在は残っていないが、完成当時は池の周囲に、庭園を座観できる別荘・寄暢亭、茶室、2階建の四阿があり、後年、婚礼会場などに使用された貸荘や、戦後、ここに居を移した小山家の居宅も旧国道に面して建てられていた。

昭和56年に株式会社本間ゴルフの所有となり、研修施設などに活用されていた。その本間ゴルフが建設した迎賓施設だけが建物として唯一残っている。

現在は株式会社平田牧場が所有。平田牧場会長・新田嘉一氏は取得当初、無料で一般開放するつもりだったそうだが、そのために必要な安全面での配慮(ロープや柵の敷設、動線の確保など)が景観を損ねるといった事情で非公開となっている。

池の周囲を歩いて散策できる池泉回遊式と、座敷から座って眺める座視鑑賞式を組み合わせた約1250坪の広大な庭は東北でも屈指。晴れた日には、遠く鳥海山を借景として望めるそうだ。

四季折々の美しさはもちろんのこと、迎賓施設内の芸術品、調度品にも心を奪われる。これらは新田会長自慢のコレクションの一部とのこと。

この寄暢亭や、老舗料亭・相馬屋を蘇らせた相馬樓といった、酒田の至宝が現存するのも、新田会長の「地域の財産として守り育て、後世に伝えていかなければならない」という願いからだ。酒田人の熱い思いが息衝く『寄暢亭』。もしあなたに見学の機会が訪れたなら、決して逃してはならない。

〈寄暢亭〉  所在地:酒田市御成町

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「東北全体に売上規模100億円以上の会社をもっと増やしていきたい。私のような起業家が増えれば、地域の雇用も増えていくのです。我が社(平田牧場グループ)は地元を中心に1000人を雇用しています。私の友人に、中村恒也セイコーエプソン名誉相談役(山形出身)という方がいますが、この会社(東北エプソン)が3000人雇用している。つまり我々二人がこの地域の雇用を下支えしているわけです。事業に対して夢がある人間、そしてそれをやり遂げられる人材を、これから公益大で育て上げていきます」

東北公益文科大学 理事長・平田牧場グループ 新田嘉一会長 地域振興にはまず人材育成。 今、注目!東北が誇る〝知の巨人〟 『東北公益文科大学』