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円満な相続のために準備しておくこと

◆文:仁保修(税理士・一般社団法人相続対策相談ネットワーク東京 代表理事)

 

いよいよ税制改正により、来年1月1日以降の相続については、基礎控除額が現在より4割もカットされます。

「東京23区の申告割合は現行の20%程度から30%~40%程度にまで上昇する」との試算もあり、相続税対策に対する関心が急激に高まってきています。

 

しかし、私に寄せられる相談の多くは圧倒的に親族内のトラブルに関するものです。相続争いというと、ドラマでよく目にする、「資産家の家族が多額の遺産を巡り骨肉の争いを繰り広げる」イメージが強いと思います。 しかし、裁判所の調停に持ち込まれた争いのうち、遺産額1億円超の事案は全体の11%にすぎません。

 

一方、5,000万以下の事案は全体の74%で、1,000万円以下の事案でも全体の31%を占めています。(平成22年司法統計より)文字通り、相続については「金持ち喧嘩せず」といった状況なのです。

 

ここで言えることは、「うちは財産が少ないから揉めるはずがない」というのはまったくの思い込みであって、相続人が不満に感じる分割であれば、「資産の多寡にかかわらず相続争いは発生する」ということです。そして、その原因のほとんどは財産をあげる側である被相続人の認識不足や準備不足によるものです。

相続財産は、愛する家族のために残すものですので、一家断絶などしないよう、しっかりと準備しておく必要があると思います。

 

(1)最初に確認すべきこと

まず第一に、自分の全財産を洗い出して記録しておくことです。そして、基礎控除額を超えることが確実で、不動産や自社株もある場合は、費用は多少かかりますが、税理士に依頼して相続税の試算をしてもらうことをお勧めします。というのは、宅地等の不動産や自社株は、相続税評価額の計算が複雑で、評価額も高額になることも多く、ここで評価を誤ると相続対策にも致命的な狂いが生じてしまうからです。

なお、試算の結果、税額が発生した場合は、相続税の圧縮のために、次の点についても必ずアドバイスを求めるようにしてください。

 

①「小規模宅地等の評価の特例」の適用があるか。

②適用がない場合は、適用を受けるためにはどのようにしたらよいか。

③生前贈与により相続税の課税財産額を減らす必要があるか。

④「評価が高い財産」から「評価が低い財産」へ組み替える必用があるか。

⑤一次相続と二次相続トータルで納税額を低くするためにはどのように財産を配分したらいいか。

⑥自社株の評価を下げるためにはどのような方法があるか。

⑦自社株の評価額が高額の場合、納税猶予を適用できるか。

 

なお、全財産を記録したリストは、万が一の際にご家族の方がわかる場所に保管しておくことが大切です。「親が生前に預金が5,000万円あると言っていたけど、通帳もカードもないため、どの銀行に預けたかわからない」等という相談が後を絶ちません。個人情報保護法の関係もあり、正確な口座情報が分らない場合、口座を探し出すことは本当に大変です。

また、銀行借入等の債務がある場合は、元気なうちに家族と「万一の時の対応」について打ち合わせしておいたほうがいいでしょう。相続開始を知った日から3ヵ月を過ぎると、マイナスの財産はプラスの財産と一緒に相続人に無条件に引き継がれてしまいます。相続開始から3ヵ月以内であれば、家庭裁判所に対し、債務のうち相続財産を超える部分の返済義務を引き継がない「限定承認」や、プラスの財産も含めたすべての財産の受取を拒否する「相続放棄」の申述をすることができます。

また、被相続人が経営している会社の借金について連帯保証人になっている場合にも同様の対応が必要になりますので、会社の財政状態等についても確認しておいたほうがいいでしょう。

 

(2)遺言書を作る場合は慎重に

近年、財産を確実に承継させるためには、遺言書を作成することが王道であるかのような論調が多くみられます。しかし、財産の移転だけを最優先して遺言書を作成してしまうと、相続税を減額するための特例を受けられない内容になっていたり、誰かの遺留分を侵害している場合には、遺留分を超えて財産を取得した方が、遺留分を侵害された人から訴えられてしまう可能性もあります。

 

相続人以外の方に財産を承継させたり、本来の相続分以外の配分で財産を譲ろうとする場合、確かに遺言書は法律的に大きな力を発揮しますが、そこには不平等だと感じた相続人が決して我慢することのできない「無理」が生じてしまいがちです。やむをえず、不平等な分配になってしまう場合は、事前に専門家に相談し、家族内の話し合いで粘り強く理解を求める姿勢が大切です。

そうすることにより、過分な財産を受け取ることになる相続人が現金などで不足額を補てんする「代償分割」や、「被相続人が自らを被保険者とする生命保険契約に加入することで不足分を保険金にてカバーする」といった打開策が自然と出てきます。

生前から家族内で話し合いお互いの気持ちを確認し歩み寄れていれば、相続が開始した後も大きな禍根は残らないものと思います。

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仁保修 税理士

仁保修(にほ・おさむ)…早稲田大学法学部卒業後、株式会社損保ジャパン入社。10年の勤務を経て退社後、2012年税理士試験合格。

2013年「仁保税理士事務所開設」。相続に関するあらゆる相談に対応できる総合窓口が必要と考え、2014年6月に相続対策の専門家グループ「社団法人相続対策相談ネットワーク東京」を設立し、現在に至る。

 

お問い合わせ先

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〒108-0074東京都港区高輪3-24-21DK品川ビル2F

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2014年11月号の記事より
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