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アップルやコンバースに学ぶ、製品デザインを保護する「意匠権」の活用法

◆文:西郷義美(西郷国際特許事務所所長・元弁理士会副会長・国際活動部門総監)

 

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ある中小企業が技術のボス兼社長を中心に、当たりそうな商品を苦心の末に作った。

社員会議を開くと、「特許などの知的財産権を取った方がいい」との話が持ち上がったので、社内で話し合いを持った。ところが「特許権だけでいい」という意見や「意匠(いしょう)権の方がいい」「いや、特許と意匠の両方を出した方がいい」という意見もでて、収拾が付かない。特許、意匠の違いも、それらのメリットもよく分からない。

そこで、その新製品を持って、社長と技術者が当方の特許事務所を訪れた。「特許と意匠の両方を取った方がいいと言う考えもありますが、どうでしょうか」。「費用もかさむので、できれば、一件で済ませたいのです」とのことである。本当に意匠なんかも出す必要があるのか、とのホンネもあるようだ。それに意匠とは何だ。余りなじみがない。

 

そこで、説明した。簡単に言えば、異なる権利には、それぞれ異なる守備の範囲がある。特許は製品の「技術的な側面」を保護し,意匠(いわゆる米国の、デザイン・パテント)は製品の「デザイン的な側面」を保護する。武器は,その特徴を知って、使用すれば絶大な力を発揮するものである、と。

 

今回の相談の結果は、技術内容的にもおもしろく発想がすばらしいので、特許出願を勧めた。さらに、デザイン性も良く、特許ではそのデザイン性の良さまではカバーできないので意匠の出願も勧めた。決して、儲け主義からではない。他のビジネス同様、お客様の立場を親身になって考えての行動を取らなければ、結局は失墜する。それもあるが、発明好きの身には、世に出て行かんとする「発明」に対する、大袈裟にいえば、冒涜である。

 

具体例をもう一つ。意匠権には意匠権でしか保護し得ない重要な側面があるという例である。アップルとサムスンの訴訟である。一昨年(2012年)8月、北カルフォルニア地裁でのアップル対サムスン訴訟で、サムスンに約10億ドルという巨額の賠償金支払いを命じる陪審員評決がされたことはよく知られている。しかし、その10億ドルの内訳のほとんどは意匠権侵害に関するものであったことまではあまり知られていない。特許権侵害による賠償額は約1,000万ドル(1%)にすぎず、残りのほとんど(99%)は意匠権侵害によるものだった。つまり、アップルの強力な武器となったのは意匠権なのだ。

 

つい最近も、意匠権をめぐる争いはあった。米スポーツ用品大手ナイキ傘下の靴メーカー、コンバースは2014年10月14日、同社の主力商品「チャックテイラー・オールスター」に類似した靴が製造、販売され、意匠権が侵害されたとして、日米など6カ国の31社をニューヨークの連邦地裁と米国際貿易委員会(ITC)に提訴したと発表した。提訴されたのは、米小売り最大手ウォルマート・ストアーズ、米高級ブランドのラルフローレンなど。日本のノーウェア(東京都渋谷区)も含まれている。

問題としているのは、靴の先端がゴムで覆われている部分やシューズの周りのストライプなどコンバースが登録したデザイン。コンバースによると、2008年以降、こうしたデザインの類似品が多く出回るようになったとしている。(2014/10/15-10:20、ニューヨーク時事)。

 

意匠権に関しては私自叙勲の勲章と賞状を入れる額身の事例も面白い。叙勲の勲章と賞状を入れる額(写真)であるが、このいろいろのバリエーションを特許,実用新案で取ろうとしたが、技術的効果を見いだせず取れない。そこで、意匠権をねらうことに。その結果、出願人は年間数億円の大規模な稼ぎができた。つまり、特許では取れない、カバーしきれないところを意匠で取る。意匠制度は、取りこぼしを防ぎ、創作者の汗に報い、ねぎらう,いい制度であると思う。

 

意匠制度は、あまりなじみのない制度であるが、当然に重要な分野を知財の世界で担っている。ちなみに、意匠権が保護するデザインとは、単なるデザインではない。※工業デザイン(インダストリアル・デザイン)である。そして、意匠権を有するデザイン製品は、意匠権者によって独占的に生産する権利が与えられる。また、その権利範囲は、意匠登録されたデザインに類似したデザインをも、意匠侵害として排除する権利も認められる。この独占排他権こそが産業財産権の大きな意義と言える。

 

※工業デザインと一般的なデザインの違いは、簡単にいえば、量産ができるものか否か、である。工業デザインの製品は大量生産を当然の前提としているのである。意匠権で保護される具体的なデザインとしては、例えば、自動車、家電製品、衣服、指輪などのアクセサリー製品、おもちゃなどその保護域は広い。殆どありとあらゆるものがその対象になる。

 

最後に、現在の意匠制度の特異な側面を紹介する。

組物の意匠制度

組物の意匠とは、システムキッチンなどのように複数の品物が組み合わされ、ワンセットとして販売され、使用される物品のデザインを指す。法改正前は13種類の組み物の意匠に限定とされていた。法改正後は56種類に増加され、例えばゴルフクラブセットなどにも組物の意匠として認められるようになっている。

 

部分意匠制度

部分意匠は、全体意匠の中の一部分であるが、独創的で、重要なデザイン部分に対して発生する意匠権である。法改正以前は「デザイン全体を模倣するのはダメでだが、一部分ならまねても良い」という制度であり、部分の模倣が野放しであった。法改正により「部分模倣も当然に模倣である」とされた。当然と言えば、当然である。

 

関連意匠制度

工業デザインの創作においは、複数のデザインが生み出され、たまたまその中の1つを選択した。関連意匠制度は、そのような創作活動の段階で作成されたデザインをも、意匠として保護する制度である。法改正以前の制度では、この制度に似ているものとして類似意匠制度があった。だが、類似意匠権には模倣デザインに対する拘束力が発生しなかったという経緯があったので,不十分で有り、その欠点を解消した。

 

なお、上でお話ししたアップル対サムスン訴訟では、その威力を戦場であるアメリカで発揮したアップルの権利は、当然にアメリカの意匠権である。残念ながら、日本ではまだこの分野の法整備が十分ではない。日本は、いわゆるスマホなどの画面に現れる「画像デザイン」が、十分に保護されていない。法整備がなされつつあり、近々実現する見通しである。ソフトウェア技術者やIT関係者にとっても、「意匠権」は日本でも今後ますます重要になって来ている。

 

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西郷義美 西郷国際特許事務所 (2)

西郷義美(さいごう・よしみ)…1969 年 大同大学工学部機械工学科卒業。1969 年-1975 年 Omark Japan Inc.(米国日本支社)。1975 年-1977 年 祐川国際特許事務所。1976 年 10 月 西郷国際特許事務所を創設、現在に至る。

《公職》2008 年 04 月-2009 年 03 月 弁理士会副会長、(国際活動部門総監)

《資格》1975 年 弁理士国家試験合格(登録第8005号)・2003 年 特定侵害訴訟代理試験合格、訴訟代理資格登録。

《著作》『サービスマーク入門』。商標関連書籍。発明協会刊 / 『知財 IQ」をみがけ』。特許関連書籍。日刊工業新聞社刊

西郷国際特許事務所

〒101-0052 東京都千代田区神田小川町2丁目8番地 西郷特許ビル

TEL : (03)3292-4411(代表) ・FAX : (03)3292-4414

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2014年12月号の記事より
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