オビ コラム

超訳『社会人基礎力』Vol.3

『働きかけ力』 海外生活経験者というブランド人材活用のススメ

◆文:鈴木信之(株式会社エストレリータ)

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~〝超・採用難時代〟を迎えるこれからの人材育成と人材採用を考える~

株式会社エストレリータ代表の私、鈴木信之が、改めてこの『社会人基礎力』の超訳(再定義)に挑んでいく連載3回目。 企業経営者の皆さまには人材育成や人材採用の観点から、そして、子を持つ1人の親としてはご自身のご子息・ご令嬢への教育の観点から、“これから”を考える1つの契機としていただければ幸いです。

 

【第3回】実行力

今回は第3回目。『実行力』について考えていきたいと思います。

『実行力』:目的を設定し確実に行動する力(経産省の定義)

「言われたことをやるだけでなく自ら目的・目標を設定し、失敗を恐れず行動に移して、粘り強く取り組む」ということですが、変化の時代にこれだけ必要性を叫ばれている『実行力』の習得を阻んでいるものは何なのでしょうか? どうしたら本当の意味の『実行力』を身に付けていくことが出来るのでしょうか?

私が考える『実行力』のキーワードは3つ。「リスクテイク」「2つの悩み」「幼児のチカラ」です。

私たちは今ICTの発達により、瞬時に沢山の『情報』を手に入れられるようになりました。それは、これから取り組もうとすることに付随する沢山の『リスクの情報』も取得できるようになったことに他なりません。リスクが見えれば、飛び出そうとする足に躊躇が生まれ、なかなか実行に移せなくなるのです。

しかし、どんな『挑戦』であっても、それが『挑戦』というコトバに値するものなのであれば、必ず『リスク』を伴います。最初は100%に見えたリスクを、『調べて、尋ねて、学んで』を繰り返し、20%まで減らしていく。そして、その20%のリスクを抱えて飛ぶ。それを『実行力』と呼ぶのだと思います。100%のリスクが全て無くなるまで待っていたら、0%になった時には「棺桶の住人」です。

 

2014年8月にインターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢を設立した小林りんさんが、国際的に通用する人材のキーワードは「多様性」「問題設定能力」と、この「リスクテイク」の3つだと仰っていました。

『ジャンプ』をすることは不安です。でも、不安じゃなければ『ジャンプ』ではありません。トイレに行くことは『ジャンプ』ですか? 自動販売機でジュースを買うことは『ジャンプ』ですか? 普通これらの行為に、不安を感じはしないでしょうから、これらが出来たとしても「わたしは『実行力』があります!」とは言わないんです。

では、リスクテイクをするためにはどうしたらいいのでしょうか?

世の中には2種類の『悩み』を持っている人がいます。1人はAとBの2本の分かれ道の分岐点にいる人。もう1人はその分岐点の手前50mにいる人です。

分岐点の手前50mにいる人は、悩んでいるんじゃないんです。単に『情報不足』なんです。だから、あと50m『調べて、尋ねて、学んで』を繰り返し、分岐点まで歩を進める必要があります。そう、この人はまだ『悩む資格すらない人』なんです。

では、何とか50m進んで分岐点に差しかかりました。「Aの道に進むべきか、Bの道に進むべきか?」と、いよいよ本当に悩みます。この時に大切なのが『決断力』ですが、この『決めて(もう一方を)断つ力』を持つためにはどうしたらいいでしょうか?

それは「Aの道かBの道のどちらかが正解で、どちらかが不正解」という考えを捨てることです。正解がどちらかにしかないのであれば、足がすくんで当然です。でも、「AでもBでもいい。選んだ道を正解にできる自分と不正解にしてしまう自分がいるだけだ!」と信じることができれば、飛び出すことができます。どちらにも正解がある、否、正解は自分で創るものであって、予め決まっているものではないと定義し直すのです。もちろん、その分岐点まで調べに調べた上で辿りついた岐路であればですが。

最後のキーワードの「幼児のチカラ」ですが、TEDという有名なプレゼンテーションの番組で、トム・ウージェックが「マシュマロ・チャレンジ」について発表していました。スパゲッティーの乾麺、90㎝のテープと1つのマシュマロを使って1番高い塔を建てるゲームです。

1位はさすがに建築家のチームだったのですが、MBAの学生の2倍もの高さの塔を、保育園に通う幼児たちが創り上げたのです。そこに私たちが学ぶべきものがあります。

MBAの学生たちは高い塔を建てるにはどうしたらいいか、計画(Plan)にじっくり時間を取ります。やっと実行(Do)に移して何とか建てたのですが、倒れてしまって時間切れ。逆に幼児たちは、すぐに建て始めました。何度も倒しながら、ああでもない、こうでもないと創りなおします。そして高い塔を完成させた訳です。

私たちは就職すると『PDCA(Plan-Do-Check-Act)』を学び、これが正しい仕事の進め方の全てだと思ってしまう人もいます。確かに『PDCA』は大切なことです。でもあまりにこれを偏重するため、もう1つの大切なチカラ『Try & Error』『Prototype & Refine』を忘れてしまっています。「まず、やってみようか!」というチカラです。何度も何度も試作を繰り返す力です。

『計画』が完璧に出来るのは、先行きが透明で分かり易い世の中の時だけ。今のように激動の時代の中では、計画通りに進むことの方がまれです。その時に必要なのが「まずやってみる!」という実行力。1回で上手くいくことはないかもしれませんが、試行の度に精度が上がるでしょうし、正解に辿りつくのも、かえって早まるのかもしれません。

3つのキーワードについて挙げましたが、実行力のある人材を育てるためには、「実行させてあげる」「結果を出させてあげる」「結果が成功であれ、失敗であれ、その結果から学びを得させてあげる」そんな周囲が必要です。頭の中だけでは、リスクだけ指摘して「実行」させない環境の中だけでは、この『実行力』が育たないのは分かり切ったことですよね。

企業人事としては、この『実行力』を発揮し、「不透明で不便で不慣れな世界」に飛び込んでいった海外生活経験者たちを、今度は貴社にとっての「不透明で不便で不慣れな世界」への挑戦を担う大切な戦力として活用することができるのではないでしょうか。

そして1人の親としては、行動した上で、成功という結果からも失敗という結果からも学べるチカラを、ご子息・ご令嬢に授けてあげてはいかがでしょうか? 行動しなければ成功も失敗もできませんから。

 

 

◉超訳『社会人基礎力』その3:実行力

目的・目標を達成する上でのあらゆるリスクを洗い出し、『調べて、尋ねて、学んで』そのリスクを20%まで減らした上で、その20%のリスクを抱えたまま「まずやってみようか!」と未知に飛び込んでいけること

 

 

 

〈Information〉

株式会社エストレリータでは、海外生活経験者だけが登録できる【Est Navi】という採用サイトを運営しています。利用できるのは、“超・採用難時代”に大きな不利益を被りながらも果敢に挑み続ける中小ベンチャー企業のみ。

ご興味のある方は ml@estrellita.co.jp または、 ☎03-5348-1720 までお問い合わせ下さい。

 

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代表取締役社長 鈴木 信之(すずき・のぶゆき)

1972年9月6日生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。中学受験の老舗企業「四谷大塚」で講師人事・企画を担当。次に当時〝世界のBig5〟と言われたデロイトトーマツコンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社。HRコンサルタントとして、吸収合併した会社の事業再生や子会社の人事部長として実績をあげる。その後、パソナグループの子会社パソナテックに入社。人事統括や企画責任者を歴任。大手企業の採用コンサルティングや大学でのキャリアセミナー講師を担当。2007年7月に人事コンサルティング企業エストレリータ設立。企業での研修・セミナーや大学などでの講演は年間200本超。日本に99名しかいない国家資格・一級キャリアコンサルティング技能士の1人(2015年5月現在)。

株式会社エストレリータ

〒164-0003 東京都中野区東中野3-8-2 矢島ビル4F

TEL 03-5348-1720

http://www.estrellita.co.jp

http://www.kaigaiseikatsu-supli.jp

https://www.est-navi.jp/

 

2015年8月号の記事より
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