オビ コラム

ついにジャパニーズ・ドリームは実現した!〜iPod特許侵害訴訟の勝利〜

◆文:西郷義美(西郷国際特許事務所所長・元弁理士会副会長・国際活動部門総監)

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(写真=pixabayより)

 

この9月9日に知的財産の驚くべき判決が最高裁で確定した。

個人が持っている特許権を武器に、巨象、アップルに挑み、約3億6千万円の勝訴判決をものにしたのである。しかも、日本人である。勝訴したのは東京の個人発明家の齋藤憲彦氏である。

 

IT関連会社を経て、ソフトウエア開発の会社を立ち上げ、最盛期には50人の社員がいたが、バブル崩壊で会社は傾いた。結局、一人だけでやらねばならなくなり、「自分の頭一つに頼るしかない」と、電子機器の便利アイデアをひねり出す日々が続いた。

 

そして、ついに今回の発明が完成し、特許出願をした。

似ている構成をアップルが使っていたが、私の方がいいと齋藤氏が売り込みに行くが、売れない。しばらくして、特許流通アドバイザーの会社がその発明に興味を示し、仲介をすると、申し出てきた。齋籐さんは、よろこび、歓迎し合意した。しかし、特許流通アドバイザー会社は、多くのメーカーを回るが、全く相手にされず、頓挫した。

 

メーカーは言う、「クリックホイールの操作は、節度感が無くヌラリとする感触ではユーザーがいやがる」ダメだと。

アップルは平成13(2001)年10月iPodを発売し、平成15年までに5機種を出した。が、入力装置はクリックホイールのように小さく扱いやすいものではなかった。

そこで齋藤氏はまだ権利化前だったが、アップルにこの発明を売込みに行った。しかし、話はまとまらなかった。

 

ところが平成16(2004)年7月、齋藤氏が売り込みに行ったクリックホイール構成とそっくりの機構のiPod miniが発売された。

そこで、戦略的素養の強い弁理士に相談し、当初出願からの分割出願をして内容を明確化した。なお、分割出願は、すでに出願した中の内容を持ち出すだけである。後出しジャンケンは許されず、特許されない。

平成18(2006)年9月15日(分割出願が)特許第3852854号として特許された。

平成19(2007)年3月アップル社に対し特許権侵害に基づく損害賠償請求の訴訟を提起した。この分割出願は、構成を「iPod」のクリックホイールを含むものであることを明確にしたものである。左図は問題の核心部分である。

 

(齋藤氏の「接触操作型入力装置およびその電子部品」の特許第3852854号の特許公報(第21図)から)

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齋藤氏は改めてアップル社とライセンス交渉をしたが、アップル社は本件特許を侵害しないとの立場を崩さず、交渉は決裂した。しかも、齋藤氏の訂正は違法であるとも言い放った。

そこで、平成19(2007)年3月アップル社に対し、特許権侵害に基づく損害賠償請求の訴訟を提起した。まず、東京地裁である。

 

その結果、平成25(2013)年9月26日の東京地裁は、「アップル敗訴」の判決を下した。

これを不服として、双方は知財高裁に控訴した。

そして、平成26(2014)年4月24日、知財高裁は東京地裁の判決内容をほぼ全面的に支持する判決を下した。

 

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原告の齋藤憲彦さんは判決後、東京・霞が関の司法記者クラブで会見し、「権利が認められたことには感謝しているが、(賠償の)金額には満足がいかない」と、賠償額の上積みを認めなかった控訴審判決に悔しさをにじませた。

これに対し、双方とも最高裁に上告した。

そしてついに平成27(2015)年9月9日付けで、最高裁第2小法廷(小貫芳信裁判長)は、双方の上告を退ける決定をした。つまり、アップルによる特許侵害を認め、約3億6千万円を齋藤さん側に賠償するよう命じた二審判決が、確定したのである。

 

当の齋籐さんは言う、「多くの日本の中小企業、発明家に夢と希望を与えたかった」とし、今回の訴訟に踏み切ったのだと。また、「日本で出願したから、この程度(の賠償額)になってしまった。最初に海外で出願すべきだったかもしれない」と反省を込め振り返っていた。

 

そこで結論として、「前車の覆るは、後車の戒め」、知財戦略として、こんな教訓が言えよう。

 外国出願を適宜の時期にしていれば、世界各国で損害賠償金が取れただろうし、日本の裁判所も、世界にならい、高額な賠償金を言い渡したはずである。戦略に長け、かつ有能な弁理士を初めから使えば、その闘いはもっと有利に運んだはずである。いわく、先達はあらま欲しきものなり。考えが全てを変える。

クリックホイールの操作は、節度感が無くヌラリとする感触ではユーザーがいやがる。ダメだなどと、メーカーが勝手に考える、この先見の明の無さ。これが発明、新技術普及の大きな「敵」である。

一方、アップルらは、大組織に慢心し、力を過信し、いつものように恫喝訴訟でねじ伏せうると、多寡をくくっている。彼らは常にそんな態度である。我々中小は、食われないようにする必要がある。地獄に行っても鬼に負けないためには、居直る度胸も必要である。必ず勝てる。

 

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西郷義美 西郷国際特許事務所 (2)

西郷義美(さいごう・よしみ)…1969 年 大同大学工学部機械工学科卒業。1969 年-1975 年 Omark Japan Inc.(米国日本支社)。1975 年-1977 年 祐川国際特許事務所。1976 年 10 月 西郷国際特許事務所を創設、現在に至る。

《公職》2008 年 04 月-2009 年 03 月 弁理士会副会長、(国際活動部門総監)

《資格》1975 年 弁理士国家試験合格(登録第8005号)・2003 年 特定侵害訴訟代理試験合格、訴訟代理資格登録。

《著作》『サービスマーク入門』。商標関連書籍。発明協会刊 / 『知財 IQ」をみがけ』。特許関連書籍。日刊工業新聞社刊

西郷国際特許事務所(創業1975年)

所長 弁理士/西郷義美 副所長 技術/西郷竹義

行政書士/西郷義光

弁護士・弁理士 西郷直子(顧問)

事務所員 他7名(全10名)

〒101-0052 東京都千代田区神田小川町2丁目8番地 西郷特許ビル

TEL : (03)3292-4411(代表) ・FAX : (03)3292-4414

Eメール : saipat@da2.so-net.ne.jp
Eメール : saigohpat@saigoh.com

http://www.saigoh.com/

2015年10月号の記事より
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