オビ 企業物語1 (2)

東大発ベンチャーが開発・紙のデータ集計を効率化する「アルトペーパー」が業界の常識を覆す!?

◆取材:綿抜幹夫

オビ ヒューマンドキュメント

株式会社情報基盤開発 (2)

アルトペーパーの利用シーン

 

すでにオフィスにあるPC、レーザープリンタ、コピー用紙、スキャナを使って利用できるマークシート「Altpaper(アルトペーパー)」。従来のマークシートに比べ、初期導入コストの大幅な削減を実現した。開発・提供するのは東大発ベンチャー、株式会社情報基盤開発。CFOの千保理氏を取材した。

 

◎データ集計を効率化する「アルトペーパー」

 「アルトペーパー」で紙からデジタル化

株式会社情報基盤開発/CFO(最高財務責任者) 千保 理株式会社情報基盤開発/CFO(最高財務責任者) 千保 理

IT化が進んだ現代でも、「紙」はさまざまなところで使われている。特に企業や法人内で使われている紙類は、その取り扱いが非常に大変だ。たとえば申込書、アンケート、勤怠表、タイムカード……オフィス内にまだまだ大量に溢れている紙は、一向になくなる気配がない。

とはいえ、多くの人が働く社内でデータを迅速に処理し、スピードアップや効率化を図るためには、やはり計算機に入力する必要がある。この手助けをするためのサービスやソフトウェアを開発し、顧客に提供するのが同社の事業だ。

現在の主力商品「アルトペーパー」の利用用途は、アンケート調査票、申込書、出勤簿、帳簿作成、データ入力・集計、グラフ・統計レポート作成まで多岐にわたる。

 

データ入力作業を行う非正規雇用者を減らしたい

日本には、派遣社員などの非正規雇用者が多く存在する。市場規模としては3兆8000億円に上るという彼らの半数が、データ入力作業に携わっていると言われている。これから働き手の数がどんどん減っていく日本社会にあって、データ入力のような単純作業はできる限り省力化していくことが、より高付加価値な他の作業に労働力を集約するためには必須だろう。

アルトペーパーの導入企業を増やすことで、「機械に任せられる単純作業は機械に任せ、本来の日本が得意とする稼ぎ方に従事する働き手を少しでも増やしたい」というのが同氏の思いだ。そのためにもアルトペーパーを広く普及させ、売り上げを伸ばすことが同社の当面の至上命題だ。

 

紙のデータ集計を効率化する「アルトペーパー」

「アルトペーパー」は、「橋守 Eagle-eyeシステム」(後述)に続く2本目の柱として7年前に開発したソフトウェアだ。従来、企業がマークシートを導入するときには1000万円前後の初期導入コストがかかっていた。それだけのコストがかかると、使用枚数が月に1万枚というボリュームではとてもペイしない。

センター試験のように、何十万枚、何百万枚というボリュームでなければメリットがなく、とても中小企業に負担できるものではない。

同社はこの初期導入コストを下げるべく、まずマークシートをMicrosoft社のWordで作成できるようにした。次に、読み取りについても、オフィスにある複合機で行えるシステムを開発。厚手の紙に赤や青で印字されているマークシート用紙を思い浮かべればわかるように、従来のマークシートは専用の紙、専用の読み取り機械が定められており、そこでも特定の業者が独占的な商売を行う業界だった。

同社の「アルトペーパー」なら、すでにオフィスで使っているソフトウェアでマークシートを作成し、すでにオフィスにある複合機で読み取りまで行える。

必要な作業は、スキャンした画像データを同社のコンピューターに送信することだけだ。これにより、初期導入を数10万円単位で、場合によっては100万円というレベルで削減することも可能だ。導入作業をすべて顧客が行えば、わずか数万円のコストでマークシートを始められる。

 

 

◎2015年12月、ストレスチェック義務化で飛躍を

 ストレスチェック法令化

株式会社情報基盤開発 (1)AltPaperストレスチェックキットのフロー

アルトペーパーの利用方法のひとつとして、ストレスチェックの診断表への入力がある。というのも、ストレスチェックが法令化され、今年12月から50人以上の事業者を対象にストレスチェックの実施が義務付けられるのだ。

昨今の労働環境を取り巻くトピックのひとつとして、うつ病などメンタルヘルスに不調を来す人が増えているという問題がある。多忙や人間関係により心を病んでしまい、回復後の復職にも苦労が多い。こうした社会状況に対する施策として、厚生労働省は従来の健康診断に加えて労働者の精神状態のチェックも実施するようにと法令化に踏み切ったのだ。

57項目の質問が定められているため、アルトペーパーでこれらに回答するためのマークシートを作り、広く利用してもらおうというのが、今後の同社のビジネスだ。

 

競合は4桁、それでも勝算あり

法令化というこの上ないチャンスを目前にしている同社と「アルトペーパー」だが、実は、競合は非常に多い。法令化をスタートラインとすれば横一線であるとも言えるが、従業員からの相談窓口をサービスとして提供している医療機関など、すでに同じようなビジネスを提供してきた業者は多いのだ。同氏の見込みでは、競合他社の数は4桁に上るという。同社ははじめから競合する覚悟で、法令化のチャンスに賭けているのだ。

 

ITよりも紙を求める業種業態がある

同社の勝算は「紙」にある。法令化の動きが始まった昨年の時点で、メーカー2社から「紙でできないか」との相談を受けたのだ。ともに1000人規模、それぞれ2000人と3000人という大企業だ。

相談を受けたとき、「なぜITで行わないのか、大企業ほどITでやるのではないのか」と不思議に思ったという同氏。そのうちの1社は製造業だったが、話を聞いてみると、工場には1人1台パソコンがない。さらに、情報漏洩を防ぐために携帯電話を工場内に持ち込むことを規制している。

こうした環境では、紙で配って回収できる方法が有り難がられるのだ。もう1社は化粧品メーカー。百貨店の美容部員たちのバックヤードは狭く、やはり1人1台パソコンがあてがわれているような職場環境ではない。彼らも、ストレスチェックは紙で行いたいのだ。

同社はここに勝機を見出した。ホワイトカラーばかりのオフィスではITが優先され、同社に勝ち目はないだろう。しかし、このメーカー2社の前例から考えれば、サービス業全般、飲食業、マッサージ業などにも需要があるだろうと、同氏は肌感覚で感じている。紙のデータ入力であれば、同社には自信がある。「紙」でのストレスチェック実施にニーズがある業種業態の顧客を確実に獲得していくことで、競合の多い中で勝ち残っていけると読んでいるのだ。

 

 

◎東大発ベンチャー

東大の土木系研究室から生まれたベンチャー

同社の創業は、橋梁の保守点検記録を蓄積する「橋守 Eagle-eyeシステム」の実用化によるものだ。東京大学大学院の「橋梁研」という土木系の研究室で、メンテナンス記録を溜めることでその橋の寿命を予測する研究をしていた同社代表の鎌田長明氏。

大手鉄道会社との共同研究の成果を実務運用に移すにあたって、システム運用の受け皿となる会社として設立されたのが同社だった。「橋守 Eagle-eyeシステム」の運用を最初の事業として創業された同社、現在は2本目の柱として、「アルトペーパー」が主力商品となっている。

 

大学発ベンチャーは優遇されるか?

「大学発」という括りを付けたとしても、ベンチャーキャピタルから出資を受けられるベンチャー企業は1割ほど。残り9割は他の方法で、融資なり出資なりを受けなければならない。同氏によれば、同社にも公庫や銀行の世話になって「食いつないでいた」時期があったといい、その意味ではオーソドックスな方法で戦ってきたと言える。

巷に蔓延るファンドたちは盛んに「お金を出しますよ」と甘い言葉を囁いて参加企業を募り、「勉強会」を開いている。そうした場がきっかけとなって出資を受け、成功を手にする例ももちろんあるだろうが、そうならなかった残り9割のベンチャー企業の苦しみを、同社も身をもって味わってきた。

 

生保SEから東大発ベンチャーへ

1980年、青森県西津軽郡鰺ヶ沢町で生まれた同氏。東京大学経済学部の修士課程で企業金融を学び、資金調達や事業投資を専門とする。前職は生命保険のSEとして、保険証書を発行したり、支払審査をしたりといった契約管理システムを開発していたという。

同社代表の鎌田氏と東京大学での同期だった縁から誘いを受け、2010年に同社に転職。最高財務責任者として資金周りの業務を主に担当するかたわら、自ら営業や広報の前線にも立つ日々を送る。

 2015年8月現在、アルトペーパーの導入社数は500社を超え、一部上場の大手企業も名を連ねる。12月のストレスチェック義務化でどこまで飛躍できるか。マークシートといえば、誰もが厚紙に赤や青のインクで印刷された同じものを思い浮かべる。そこもまた利権の世界だ。東大発ベンチャーの頭脳が、業界を覆すことになれば面白い。

 

オビ ヒューマンドキュメント

千保理(せんぼ・ただし)氏…1980年 青森県西津軽郡鰺ヶ沢町生まれ。東京大学大学院経済学研究科企業・市場専攻修士課程修了。ニッセイ情報テクノロジー株式会社を経て、2010年に株式会社情報基盤開発入社。CFO(最高財務責任者)。

 

株式会社情報基盤開発

〒113-0033東京都文京区本郷7-3-1 東京大学アントレプレナープラザ

TEL 0120-922-552

http://www.altpaper.net/

 

2015年10月号の記事より
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