オビ 企業物語1 (2)

株式会社ファイネス ‐ 企業の危機を救うのは常に技術と行動 「できます!」から始まるモノづくりへの挑戦

◆取材:綿抜幹夫

オビ ヒューマンドキュメント 株式会社ファイネス  金杉賢治 (1)

株式会社ファイネス/代表取締役 金杉賢治

 

溶接の高い技術力を素に、さまざまな金属パーツの加工を手がける株式会社ファイネス。1998年の創立以来、ピンチに直面する度に速やかに解決方法を模索し、危機を乗り越えて事業を拡大してきた同社は2015年1月に本社・工場を埼玉県飯能市茜台に移転。航空機の部品製造や自社ブランド商品の販売など、将来を見据えて新たなステージに進む準備が着々と進んでいる。

創業者で代表取締役の金杉賢治氏に話を聞いた。

 

 

■始まりは30坪の小さな倉庫から

金杉氏が鈑金・溶接の世界に入ったのは工業高校を卒業後、父が経営し兄2人も働く鈑金加工の町工場に就職したことに始まる。数年間鈑金・溶接の職人として技術を磨いた後、「自分で会社を興したいから辞めさせてほしい」と父に直談判したのが22、23歳の時だったという。そして、ようやく許可が出たのが27歳の時だった。

父の工場がある東京都昭島周辺を避けて埼玉県入間市に借りた30坪の小さな倉庫に置いたのは溶接機1台のみ。経営ノウハウも営業ノウハウも会計知識もなく、あるのは溶接・鈑金加工の技術だけというかなり無鉄砲な船出だった。

 

株式会社ファイネス  金杉賢治 (2)

「頑張っていればなんとかなるんじゃないかと思っていて、普通行うべき根回しや営業を全然考えていなかったんです。当然最初は仕事はまったくなくて、月十数万の倉庫の家賃を払うのに四苦八苦していました」と金杉氏は当時を振り返る。

父の会社に頼ることもできず、あまりの仕事のなさに知り合いの会社を訪ね、発注されてもいない仕事を勝手に作って持っていったこともあるという。「もちろん怒られました」という結果だったが、そうして一所懸命奮闘する金杉氏に思わぬ助け舟がやってくる。

 

「隣の倉庫でやっている鈑金屋の社長さんがものすごくいい人で、仕事をくれ、設備も使わせてくれ、足りない材料までくれました。また起業の噂を聞いたからとドリルなんかをただでくれる工具屋さんもいて。なぜそこまで助けてくれたのかは分かりませんが、そうやっていろんな人がいい方向に導いてくれたことが今につながっているんです」

 

■「できます!」の即答でチャンスを掴む

そうしてとにかく「声がかかった仕事は何でもやる」と苦戦を重ねていた金杉氏の下に、起業から半年ほど経ったある日、千載一遇のチャンスが訪れた。

知人と偶々知り合いだった精密機械加工会社の人物から、医療用レーザー発振器のカバーを鈑金加工で作れるかという打診があったのだ。技術的に非常に難しいものでいくつもの工場で断られたというその話を聞いた金杉氏は、次の瞬間には「できます!」と即答。塗装やシルク印刷などほかの注文にも同じく即答し、この仕事を任されることになった。

もっともその時点では塗装屋や当てもなく、シルク印刷については聞いたこともない状態。しかしそこから「どうすればできるか?」に全力で取り組み、力を尽くして作った製品は大好評。次のプロジェクトとして半導体検査装置の部品製作をやってみないかとの話にもつながり、もちろんすべてを引き受けることとなった。

 

「その方が多くの仕事をうちに投げてくれたんですが、当時こちらは僕ともう1人のみ。当然やりきれないのでそこの会社の従業員をうちに派遣してくれて、そこから一気に開けました」と金杉氏は振り返る。

チャンスの女神には前髪しかないというが、その貴重なチャンスをモノにできた時の見返りはまた大きい。仕事の増加と共に同社の規模は順調に拡大し、2000年には法人化して社名を有限会社ファイネスと改め、それまでの溶接中心から鈑金加工も充実させる変更を実施。新たにレーザー切断機やプレス機も導入するなど、自社で一通りの金属加工ができる体制作りに乗り出したのだ。

 

■ピンチを機に体制を見直し

しかし半導体は好況不況の浮き沈みが激しい業界。その波は大きなうねりになってできたばかりの同社にも襲い掛かり、設備投資を進めていた中で企業からの注文がストップするという危機的状況に見舞われてしまう。

だが金杉氏はピンチもチャンスに変える発想で、これを機に一業界一社集中をやめて食品や医療機器などさまざまな業界の仕事を受けるようにしたほか、若い社員のレベルアップにつながりそうな単価は安いがそれほど高い精度は求められない仕事も取るようにするなど、従業員の育成体勢も整備。堅実な経営を続け、起業から10年目の2008年には入間市内に新しい工場を買って移転した。

株式会社ファイネス (4)

見た目にも美しくすっきりした工場に移ることで、感覚的にも精密な部品を任せても安心だと顧客に伝えていくのがその狙いで工場見学も積極的に働きかけ、注文を出してもらえる環境作りにも力を入れていった。

 

■原点回帰で開けた「組み立て」という道

だがそうやって軌道に乗り始めた同社を今度はリーマンショックが直撃し、またも一気に仕事は減少。工場の借金はあるが仕事がない状況で金杉氏は、少しでも利益がでるならほかより安くして何でも仕事を取ってくるという道を選択するが、それは「間違った経営をしてしまった」のだという。

 

「そうすると当然、会社の中は忙しいのに売り上げは全然上がりません。従業員には大変苦労をかけてしまいました」

このピンチもチャンスに変えられなければ将来はない。この正念場で金杉氏が取ったのは、同社の原点でもある方法だった。「潰れないためには下請け、孫受けの中でやっている仕組みを直受けに変えるしかない」と考えた金杉氏はその方法として部品製造だけでなく装置の組み立てまでやる〝アッセンブリ製品〟を扱うことを決断。早速営業に行き仕事をとってきたのだ。

 

当然同社には、この時点で鈑金加工の部品製造技術はあっても、それに続く機械の加工や組み立てのノウハウはない。それでも図面を頼りに組み立てを完成させ検証し、その方がより大きな仕事を受けることもできると判断して導入を決めると、工場近くに専用の工場を借りて本格的に機械の加工や組み立てに取り組んだ。

その判断に狂いはなく、7年経った現在では同社の事業の柱の一本に成長。場所も手狭になったことから工場を移転・統合し2015年1月に移った飯能市茜台の新工場では、それに加えていくつか未来を見据えた新しい取り組みも始まっている。

 

■未来を見据えての経営方針

その取り組みとは、まずは安くて良い物を求める顧客ニーズに応え価格が安いものでもきちんと利益が出るような仕組みを作ること。そしてエネルギーや航空機など将来性が見込める分野の仕事を積極的に受注することだ。これらの仕事は短納期のものが多く、今までの仕事を行っている方が今は楽に利益が出せる。

しかしそのメリットを多少捨ててでも、将来性のある業界の仕事を自分たちのものにしていくことが重要だと金杉氏は話す。

 

「今考えているのは例えば航空機の部品製造。そこでいかに効率のいいやり方を作りあげることができるかがこれからは大切になっていくと思います」

さらにもう一つ、「メーカーとして自社ブランドの製品を販売する」という試みも2016年1月にスタートしたばかりだ。栄えある商品第1号は、食品や飲料の生産ラインなどで使われる金属フィルター洗浄用の超音波洗浄機。フィルターの製造も手がける同社ならではの商品で、これまでの数年間OEM形式で行い経験を積んだものをいよいよ自分たちのブランド商品として売り出そうというものだが、目的は単に自社ブランド製品の創出と拡大ではない。

 

「製造を手がけているというとっかかりがあったのでこの商品になりましたが、一番の目的は自分たちがメーカーとして販売したらどういうリスクがあるのか、どんな問題に直面するのかを知ることです。一度体験しておくことで、将来新しい商品を作ろうとした時に必ずその経験は活かせると思います」と、ここにも未来を見据えた思惑が込められているのだ。

 

■仕事とは考えてチャレンジすること

株式会社ファイネス (3)日本トップレベルにあると金杉氏が胸を張る同社の溶接技術

現在同社を支えているのは、創業時から磨き日本トップレベルにあると胸を張る溶接、同社の基礎を築いた鈑金加工、7年間で成長を遂げたアッセンブリ製品と現在進行形で挑戦が続く成長産業への参入と自社商品の販売だ。同社が危機を乗り越える度に徐々に拡大してきた各事業は技術を土台に展開した関係でもあるが、それぞれが一本の太い柱となっている。

 ◇

 「〝モノづくりの可能性に挑み続ける!〟が当社のモットー。やってほしいというお客さんがいるのに、できないというのはあり得ません。仕事はできるかできないかではなく、やるかやらないか。もらってから一生懸命考えて、チャレンジするのが仕事です」

最後に話してくれたその一言に金杉氏の生き様がありありと感じられた。

 

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◉プロフィール

金杉賢治(かなすぎ・けんじ)氏…1970年10月生まれ。東京都昭島出身。昭和第一工業高等学校卒業後、父の営む鈑金加工工場に就職。溶接・鈑金技術を習得し1998年に27歳で独立、金杉精密を創立。2000年に有限会社ファイネスを設立し、代表取締役に就任。2004年には株式会社ファイネスに組織変更し現在に至る。

 

株式会社ファイネス

〒357-0069 埼玉県飯能市茜台3-5-4

TEL 042-978-7406

http://www.finessecorp.com

 

 

2016年1月号の記事より
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