オビ 企業物語1 (2)

〈ヒューマンドキュメント〉

株式会社ビザスク – ピンポイントなコンサルティングで貴重な知識・経験を繋げる

◆取材:綿抜幹夫

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自分にとっての「当たり前」も、他人にとっては「宝物」

株式会社ビザスクの事業は、一言で言えば「スポットコンサルティング」。例えば樹脂に関する最新の研究成果からベンチャーキャピタルの出資を得る方法まで、ピンポイントで何かを知りたい個人・企業とその分野に豊富な知識・経験を持つアドバイザーをマッチング。1対1での1時間のビジネス相談に繋げるというもので、今まさに急成長中の会社だ。そのユニークなサービスはどこから来たのか? 創業者で代表取締役の端羽英子氏を訪ねた。

 

株式会社ビザスク/代表取締役 端羽英子氏

株式会社ビザスク/代表取締役 端羽英子氏

 

アドバイザーは「その道の」プロ

 経営、法務、戦略、IT……。コンサルティング会社は多々あれど、1時間からの「スポット」は聞いたことがないという人が大半だろう。それもそのはず。専業でこの事業を手がけているのは、恐らく同社だけだからだ。

 

 なぜ1時間限定の「スポット」にこだわるのか。それは「プロのコンサルタントを何時間、何カ月とお願いするようなプロジェクトではなく、ほんのちょっとした相談や知りたいに応えるものでありたいから。そしてプロのコンサルタントではなく普通のサラリーマンやご退職された方が、ご自身には当たり前でも他人からみたら非常に大きな価値がある、なのにこれまでなかなか活かされてこなかったその〝知見〟を活かしてほしいと思うから」だと端羽氏は言う。そんな同社のサービスで個人や企業からの「知りたい」に応えるのは、その道の第一線で活躍中の人やOB・OGなど「アドバイザー」と呼ばれる人たち。登録制で、1時間からその貴重な知見を提供してくれる存在だ。

 

 そうして「世界中の知見を繋ぐ」ことが同社の理想であり、実現をめざすビジョンにもなっている。

 

 関西モーニングピッチでの様子

関西モーニングピッチでの様子

 

出発点は23歳の決意

 このユニークなビジネス誕生の歴史は、今を去ること14年前。2001年に端羽氏が東京大学経済学部を卒業したところから始まる。

 

 就職先はゴールドマンサックス。初めての仕事は、スターバックス・ジャパンの上場時のIPO支援チームで、M&Aの提案などを行っていたが、1年後に妊娠・出産のために退職することにした。端羽氏はこの時23歳。「自分にもっと知識があれば、周りに〝ごめんなさい〟と言わずに働けるのに。スキルは自分でしっかり磨かないと」と思ったことから、0歳の子どもを抱えながら米国公認会計士の資格を取得。それから化粧品会社ロレアルの日本法人に転職し経営管理の仕事を始めるも、1年半ほどで夫の留学についてボストンへ行くことに。自身もMIT(マサチューセッツ工科大学)で学び、MBAを取得したかと思えば帰国前に離婚し、シングルマザーとして子育てを開始。起業を考えながらも、まずはしっかりとした職歴を作ろうと投資会社ユニゾン・キャピタルで働き始めたという数年間は、一見エリート街道まっしぐらのようだが、実際はかなり波乱万丈だ。

 

 「ユニゾン社での仕事は、投資前の企業リサーチと投資後の企業価値向上のための新規事業開拓やコスト削減のお手伝いが主なところ。投資前にいろいろな業界を調べるのですが、その際プロのコンサルティング会社さんにすごく助けてもらいました」と言う端羽氏。同時に、投資先としてさまざまな会社に接する中で、外から見れば貴重なスキルや知識が社内では当たり前になっており、社内だけにそのスキルがあるのはもったいないと感じていたという。だがそれらの経験が繋がってスポットコンサルというビジネスとして開花するには、1つの出会いが必要だった。

 

ビザスク創業前

ビザスク創業前

 

起業の決め手となった「ダメ出し」

 その出会いは端羽氏がユニゾン社に勤めて5年目の頃、同僚の紹介によってもたらされた。当時EC(ネットでの物販)スタイルでの起業を考えていた端羽氏に、知り合いのIT起業家を紹介してくれたのだ。そこからさらに実際にEC事業を営んでいる人を紹介され会いに行った端羽氏だが、事業プランについて一生懸命語った結果、返ってきたのは1時間に渡る強烈なダメ出し。普通ならくじけそうなところだが、端羽氏は少しだけ目の付け所が違った。「この1時間になら私はお金を出す! 物販は止めて、この1時間のコンサルティングの提供を事業にする!」とその場で決めてしまったのだ。

 

 そして事業内容が決まった後の動きは早いの一言。その場でアメリカやヨーロッパではすでに同種の会社があることを教えてもらうと、早速調査を開始。スペシャリスト自身が自分の技術に疎いことや副業の壁があることなど、日本に同方式が広まりづらい理由に気づきチャンスだと感じた。さらに2013年度に経済産業省が募集していた「成熟産業から成長産業へ知識・経験をどう橋渡しするか?」をテーマにした「多様な〝人活〟支援サービス創出事業」の委託先公募に応募。見事に選ばれ事業資金を受け取ると共に、経産省の調査という旗を得てさまざまな企業に直接話を聞き、市場ニーズや課題を知ることにも成功する。その成果を元に2013年10月にはサービスを開始。翌2月にはサイバーエージェント、ベンチャーユナイテッドというベンチャーキャピタルからの資金調達も叶い、そこからの流れが現在の右肩上がりの成長にも繋がっているというわけだ。

 

合宿での集合写真

合宿での集合写真

 

大事なことは「フェアであること」

 同社のサービスにおいて大事にしていることは「フェアであること」へのこだわりだ。「フェア」とは単に平等というだけでなく、大前提には、「アドバイザー」という呼び方にも現れたその人だけが持つ知識・経験を敬う気持ち、そしてマッチングにより起こってくる結果を大切にする思いが敷き詰められている。

 

 「〝フェアである〟とは、まず個人も中小企業も大企業も関係なく、一つひとつの相談事に対して誰でもアドバイザーさんにアクセスできること。またアドバイザーさん側は、1時間の相談料もご自身で設定できるようになっています」と、同社のシステムは登録制のアドバイザーを非常に大切にする設計。話すのはあくまでアドバイザー本人の体験・意見とし、サービスの作り方も工夫している。

 

 「私たちが追求しているのは、本来非常に価値がある知見を、それを必要とする人に繋ぐこと。そのためにはフェアであることは大切です。知見が繋がることでイノベーションが生まれ、困っていることが解決する。あるいは〝ありがとう〟と言ってもらえることで自分の価値に気づいて、仕事への活力が生まれる。そういうことがおもしろいと思えるメンバーが、これからどんどん入ってきたらいいなと思っています」

 

1対1マッチングは「相対的」に

 現在同社では海外での事業展開の第一歩として、シンガポールをはじめ東南アジアへの進出計画も進んでいる。アメリカやヨーロッパ諸国などいわゆる「先進国」ではなくシンガポールを選んだのは、そもそも1対1のマッチングというビジネスが、相対的なものであることと無縁ではなさそうだ。

 

 アドバイザーは業界の第一人者ではないかもしれないが、その分野の業務を実際に経験したことがある人の話なら、十分相談する価値がある。同じように、国全体では先進国、新興国、発展途上国などと言われても、ある一分野や1人の人材に関しては新興国や発展途上国と呼ばれる国の方が優れている部分もある。重要なのは、あくまで「その1人がほかの1人より詳しいのかどうか」なのだ。

 

1周年記念の様子

1周年記念の様子

 

誰もが依頼者でありアドバイザーでもある 

 同社のサービスにアドバイザー登録しているのは2016年2月現在で1万人超。その顔ぶれは現役の技術者に経営者、退職した元人事担当者などさまざまなポジション・分野に跨っている。報酬の受け取りを振込、ギフトカード、寄付から選べるのも、本業がある人でも参加しやすくする工夫の一つだ。

 

 「1対1のマッチングがおもしろいのは、あることについては依頼者側でも、別のことに関してはアドバイザー側になれるところ。日本人の気質なのか、自分から〝できます〟という人は少ないですが、モノづくりに代表されるような、すごく深い知見を持っているのになかなか発信されることが少ない分野ではアドバイザー、販路開拓については依頼者、ということも珍しくありません。日本でお仕事されている方全員に登録してほしいです」と端羽氏。

 

 自分にとっては当たり前の知識・経験を宝物と言ってくれる誰かとの出会いは、活力ややる気を引き出してくれる。それがあちこちで起こるようになれば一体どんな変化が起きるのか? 楽しみだ。

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プロフィール

 

端羽英子(はしば・えいこ)氏…

1978年7月生まれ。熊本県出身。三姉妹の末っ子。

2001年に東京大学経済学部を卒業後、ゴールドマンサックス、日本ロレアル株式会社での勤務を経て、2007年にマサチューセッツ工科大学にてMBAを取得。同年ユニゾン・キャピタル株式会社に入社。バイアウト投資に携わる。

2012年に退社後、同年株式会社ビザスクを設立し代表取締役に就任。現職。

 

株式会社ビザスク

〒160-0023

東京都新宿区西新宿6-15-1 ラ・トゥール新宿703

TEL 050-5551-7485

http://visasq.co.jp/

https://service.visasq.com/@eiko848

 

◆2016年2・3月号の記事より◆

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