オビ 企業物語1 (2)

【この経営者に注目!】

賃貸住宅限定リノベーション!

オーナーも入居者も満足する居心地のいい住環境づくりとは?

 

ハプティック株式会社/代表取締役 小倉弘之氏
◆取材:綿抜幹夫

通常、賃貸住宅をリフォームする場合、リフォームは専門業者が、入居者の募集は不動産会社がそれぞれ請け負う。ところがハプティック株式会社では賃貸物件のリフォームから入居者の仲介管理まで一貫して行っている。大手企業ではなし得ない、オーナーと住まう人の両者を満足させる原動力とはなにか? これからの住まいのあり方にも一石を投じるような考えに迫った。

 

大手ではできないことを提供するために

ハプティック株式会社01ハプティック株式会社 代表取締役 小倉弘之氏

 私たちが暮らしていく上で欠かせない〝衣食住〟について考えてみよう。我が国の場合、〝衣〟の部分でいえば、海外で活躍するデザイナーもいるし、個人で良いブランドを立ち上げたりすることも一般的だ。〝食〟に至っては、日本では世界各国の料理が食べられる上に、世界文化遺産にも登録された日本料理に代表される成熟した文化を形成している。

 

 ところが〝住〟環境はどうだろう。地方には地元の木材を使って住む人に寄り添った住宅を提供する建築会社もあることはあるが、それはあくまでも少数派。全国的には大手ゼネコンが開発するマンションや大手住宅メーカーが販売する住宅によって、我々の住む場所が提供されている、といっても過言ではないだろう。

 それも往々にして工場でつくった部材を使っての画一的なものになってしまうため、居心地の良さを求めることが住まいの本筋とするならば、それとは遠ざかったところに着地しているのが現状だ。

 「たとえば、今ある建物を生かしてリフォームしたほうが費用はかからないにしても、大手では新築を建てた方が儲かるわけですね」(小倉社長、以下同)

 

 次々に壊して建て直ししたものが、住む人にとって良い住環境にあればいいが、そうとも言えない部分も多々ある。フローリングの部材ひとつとっても、大手では無垢の木は使わず、新建材と呼ばれるビニールのシートを張ったものやプリントを施したフローリングを使うことがベースになっているという。本物の無垢の木を使えば住む人の健康には良いが、冬場など乾燥した後に水分を吸って膨張するなど伸縮してしまうために、新建材に比べてクレームを受ける可能性が高い。大手の発想には、お客様に喜んでもらう以前にクレームを受けないことが大事だったりするのだ。

 

 「家というのは、人がいる時間が一番多い場所ですから、少しでも良い住環境を作りたい。そういう思いがあって、今の会社を立ち上げました」

 東京大学経済学部卒業の経歴を持ちながら建築への憧れや夢を抱いて、同期ではただ一人、大手建設会社、ゼネコンに就職。大手の実情を知り、満たされない気持ちを抱えていた小倉社長だからこその決断だった。

 

ハプティック株式会社02

施工例(笹塚)

 

賃貸住宅のリノベーションから仲介まで

 小倉社長が起業したハプティック株式会社は、賃貸住宅のリノベーションに特化した会社だ。分譲マンションや建売住宅は営業範囲外である。それにはいくつか理由があるのだが、のちに述べる〝これからの住まい方〟にも関係している。

 

 さて、ハプティックのセールスポイントは『どこにもない、ふつう』。賃貸住宅のオーナーがリフォームを検討する場合は、入居者の健康を気遣う人も一部には存在するが、往々にしてコストはあまりかけずにリフォームし、空き部屋を埋めたいと考えるケースが多い。

 「私どもは本物の無垢の木を使ったフローリングを、お手頃なお値段で提供できるようにしています。オーナー様にしてみれば同じ値段であれば、よりいいもの、入居者の方に喜んでもらえるものを選択するのは当然の成り行きですよね。従来と同じような値段でいい素材の無垢のフローリングを届けられるようにしたいと思ったところから、『どこにもない、ふつう』なのです」

 そのために資材はまとめて大量発注し、手頃な値段を貫くためにあえてパターンパッケージ化してコストは抑えている。居心地の良さに重点をおくため、ドアの色を変えたいというような個別の要望には対応はしないが、その分相談する時間も減らせて、コストダウンに結びつけることも可能になった。

 

 もうひとつ同社には小倉社長が〝上流から下流まで〟と表現する特徴的なセールスポイントがある。それは自社で資材を調達して自社でリフォーム工事するだけでなく、入居者の仲介まで請け負っている点だ。具体的には自社独自でスマートフォンのサイトを立ち上げ、リフォーム中の賃貸物件の借り主を募集する。これまでならリフォームは工務店が、入居者募集は大家あるいは不動産会社が、それぞれ住み分けてきた仕事を、トータルで行うのだ。そうすると、工事中にもかかわらず、入居者が決まることが多くなる。

 「オーナー様がリフォーム工事を希望する場合は、『一旦空き部屋になったところにいち早く新しい入居者に入っていただきたい』『家賃収入を確保したい』と依頼されるわけですから、私どものシステムによってその望みを叶えることができるわけです」

 

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写真上下…いずれも施工例(上:祖師ケ谷大蔵、下:笹塚)。

フローリングに本物の無垢の木を使うことで居心地の良さを追求している。

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働き方提案:

下請けではなく直接雇用という選択

 同社のさらに特徴的な点は、アウトソーシング主体の大手ゼネコンとは異なり、大工を直接雇用していることだ。賃貸住宅のリノベーションに特化しているため、経験が10年も必要な一般的な大工とは違い、リノベーションにかかわる技術であれば1年ほどで一人前になれることなどが直接雇用に踏み切った要因だという。

 「大工さんの仕事は肉体労働ですから、50代60代になっても若い頃のように働くことはむずかしいでしょう。20代30代はバリバリと働いて、40代は人を指導する。50代には現場管理をする。年齢によってキャリアを深めていく方法があってもいいと考えました」

 

 まわりからはリスクになるから外注にした方がいいなどという声も聞こえたが、「会社が成長して、大工さんも長く働けるような仕事環境を確立し、リスクを吸収すればいいわけです」ときっぱり。しっかり雇用して同じ工事をしっかりできれば、スピード感もアップして生産性も利益率も高くなる図式だ。

 

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「大工さんも長く働けるような仕事環境を確立する」ため、同社では大工を下請けではなく直接雇用している。写真下は塗装中の物件。

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住まい方の提案:

時代に合わせて住み替える生き方

 小倉社長1人の状態から事業をスタートして今期で6年目。社員も60名ほどに増え、業績も右肩上がりのハプティック。今年度の売り上げは8億円、この1年で300部屋ほどの工事を請け負ってきた。営業エリアも当初は東京だけであったが、現在は大阪・名古屋まで広がり、当然ながら全国展開も視野にある。その成長の原動力のひとつは、業種の特異性にあるともいえよう。

 「リノベーションの工事は着手金をもらって工事が終わったら全額いただくわけで、あまり資金繰りに困るということはありません。ベンチャーというと、はじめに投資して回収はその先になる世界ですが。私どもの場合はちょっと違うかもしれません」

 

 さて、これからは少子化や人口減という明るくない未来が待ち受けている。今後の展望として小倉社長がその要因に挙げるのは、空き家問題だ。確かに少子高齢化が進んでいるが、それでも新築住宅は供給され続けている。一方で東京の多摩ニュータウンなど高度経済成長期に建てられたマンション群は、居住者の高齢化が進み、空き家が増えているのも事実だ。そこへきて若い世代での住まいに関するマインドも変わってきているらしい。

 「以前なら郊外の庭付き一戸建て住宅が憧れで目標だったと思うのですが、最近は『年代によって生活が変わっていくので住環境も変わっていけばいい』と考えている人が増えていますね」

 結婚当初の夫婦2人だけの時は都心に住み、子供が生まれたら自然のあるところで子育てをして、子供が独立したら、また都心に移り住むということだ。

 

 建物は一度所有してしまうと、時代時代によって住環境を変化させていくことは難しい。賃貸ならば、その時々の暮らしに合わせた住環境を求めることができる。

 「私どもは建物を壊して新しく建てるのではなく、空き家を上手くリフォームやリノベーションして、お客様が建物を所有しなくても、上手く借りながらお手頃価格で心地よく暮らす住環境をお届けしたいのです」

 大手ではできないことを提供したいという若き小倉社長の、さらなる手腕に大いに期待したいものだ。

 

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同社では、リフォーム物件の入居希望者に向けた最大級のおしゃれ賃貸サイト「goodroom」を運営。店舗は東京・渋谷と大阪・梅田にあり、渋谷店は同社のナチュラルリフォームと同じ仕様でリフォームされている。

 

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小倉弘之(おぐら・ひろゆき)氏…1980年5月東京生まれ。東京大学経済学部卒業。建築への想いから竹中工務店に入社。住宅・オフィス・商業施設の企画、収益モデル構築、地権者対応等を実施。その後、ボストンコンサルティンググループにて、大手企業の新規サービス立ち上げ、小売店舗改革、経営計画策定支援等を実施。2009年12月、日本の住宅の質向上を目指し、ハプティック株式会社設立。

 

ハプティック株式会社

〒150-0002 東京都渋谷区渋谷3-2-3 帝都青山ビル5F

フリーダイヤル0120-954-451 TEL 03-6433-5660

http://www.haptic.co.jp

 

◆2016年4月号の記事より◆

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