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【今、この人に訊きたい】越境EC

中国向け越境ECのポイントは、中国の消費者の情報源「ソーシャルメディア」と、増え続ける「訪日中国人」

日本企業の中国向け越境ECを支援し、日中交流を活性化させたい。

●ウィ・ジャパン株式会社/代表取締役社長 李 剛氏

◆取材:加藤俊/文:五十川正紘

オビ 企業物語1 (2)

 

■中国市場をターゲットとした越境ECを支援

 

海外消費者向けにECサイトを制作し、海外店舗の運営コスト・リスクを省いてグローバル市場を開拓できる越境EC。その越境ECで中国市場の開拓を目指す企業を支援しているのが、ウィ・ジャパン株式会社。同社自身も中国市場をターゲットとした越境ECに取り組んできた、業界のパイオニアでもある。同社の李剛社長に、中国向け越境ECについて、成功に導くためのポイントや、今後の展望をうかがった。

 

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◎中国の消費者は、ソーシャルメディアの情報をもとに日本製商品を購入

・中国向け越境ECを成功させるには、何が一番のポイントになるのか?

 中国人はどのような商品を買うのか、ということを把握すべきです。その参考になるのが、いわゆる〝爆買い〟です。訪日中国人は日本製の商品を何でも大量購入する印象を持たれがちですが、実際の訪日中国人たちは、日本に居住する〝ソーシャルバイヤー〟たちの情報を参考に爆買いしています。

 

 ソーシャルバイヤーとは、海外に居住し、現地で購入した商品の感想や情報をソーシャルメディア上にアップし、それを見た中国国内の人々からの依頼で、その商品の購入を代行する人たちです。以前、日本製の紙おむつが中国で大ブームになり、日本の店頭でも品切れが相次いだのは、日本に住むソーシャルバイヤーたちの大量購入の影響でした。そして、中国人の海外旅行者も、ソーシャルバイヤーたちの情報をチェックし、現地での買い物の参考にしています。

 

 つまり、中国人は、ソーシャルメディアで紹介されている商品を買います。実は、私自身、それを実感したことがあります。中国に住む私の友人が、日本で買った、最高級の炊飯器でごはんがとてもおいしく炊けたことをソーシャルメディアにアップすると、翌日、その友人と私、両方とソーシャルメディアでつながっている共通の友人たちから、日本にいる私に、その炊飯器を代わりに日本で購入してほしいというメッセージがたくさん来ました。

 

 このように、中国国内の消費者は、日本製の商品を直接見たり、触れなくても、ソーシャルメディアで得た情報を信用し、日本製の商品を購入しています。

 

◎中国でソーシャルメディアの信用度が高いのは、消費者心理の表れ

・中国の消費者は、なぜ、そこまでソーシャルメディアの情報を信用するのか?

 中国では、企業の食品偽装や衛生管理のずさんな実態が大きく報道されたことなどから、消費者たちは中国製商品の品質に疑問を持っています。そのため、実際に商品を購入・利用した人の声や、家族や友人などの信頼できる人からの情報をとても頼りにしています。

 

 そのような頼れる情報を簡単に得られるのが、ソーシャルメディアというわけです。見たことも触ったこともない日本の商品でも、ソーシャルメディアで知り合いが紹介しているから買う…という行動は、中国の消費者心理をよく表しています。

 

 そして、当社は、中国の消費者に大きな影響を持つソーシャルメディアを活用した越境ECに取り組んできました。越境ECでは、ユーザーは購入前の商品をチェックできませんが、商品の購入・利用者たちから、ソーシャルメディア上でポジティブな内容の口コミが拡がれば、それを見た人々は口コミの内容を信用し、その商品の購入につながります。つまり、越境ECサイトの商品情報をソーシャルメディア上で拡散させて集客につなげるのです。

 

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◎中国版LINE「微信」のユーザーをターゲットとした越境ECを展開

・具体的にどのような越境ECに取り組んできたのか?

 中国国内で普及しているSNSアプリ「微信」(中国語読み:ウェイシン、英語:WE Chat、ウィーチャット)を活用した越境ECです。

 

 微信は、中国の大手ネットサービス企業のテンセント社が提供しており、中国版LINEとも言われ、無料通話、チャットのほか、多彩な機能を備えています。その登録アカウント数は約13億人、月間利用者数は約7億人にも達します。

 

 当社は、テンセント社と提携し、微信と連携したECモール「微購物」に、日本の商品を扱う「日本館」を出店しています。つまり、日本館のターゲットは、微信の中国人ユーザーです。そのため、微信上で日本館の商品の口コミが拡がれば、その口コミを信用した微信ユーザーたちが日本館の商品を買う。さらに、その日本館の商品を買った微信ユーザーたちから新たな口コミが拡がり…という流れをつくりだせます。

 

 要するに、微信を活用すれば、口コミの拡散による販売拡大を図れます。そして、その日本館の運営で得られた経験やノウハウを活かし、越境ECサイトの制作、プロモーション、決済、配送、カスタマーサポートなどをワンストップで提供しています。

 

◎訪日中国人の口コミを増やすO2O戦略を実施

・具体的には、どのようなクライアント事例があるのか?

 例えば、ジェエリー製造・販売の株式会社サダマツです。具体的には、日本館での商品発売、ソーシャルメディアでの情報拡散、主力ブランドの中国語版公式サイトの制作・運営などを行っています。また、そのブランドのイメージモデルに中国で大人気の日本人俳優、古川雄輝さんを起用しました。古川さんは、2014年に中国版Twitter「微博(ウェイボー)」のフォロワー数が100万人を超え、若い女性たちの間で憧れの存在〝男神〟と言われています。

 

 さらに、訪日中国人を日本の販売ショップに集客する施策も実施しています。その狙いは、ソーシャルメディア上で、日本の販売ショップで爆買いした訪日中国人の口コミを増やすことです。そして、その口コミを見た中国国内の消費者が越境ECサイトで商品を購入する…という流れをつくるのです。これは、いわゆる〝O2O〟の戦略です。つまり、店舗集客など、WEB外のオフラインの領域とクロスオーバーさせたWEBマーケティングを行います。

 

 具体的な施策としては、日本の販売ショップ向けに、中国で急速に普及しているスマホ自動決済サービス「WE Chat Payment」を提供しています。その仕組みは、来店ユーザーが微信に銀行口座情報を登録しておけば、商品の支払は、その微信アカウントのスマホ画面上で表示されるQRコードをショップ側のiPadに読み込ませれば口座からお金が引き落とされて支払完了、というものです。

 

 なお、WE Chat Paymentでは、決済時、来店ユーザーのスマホ画面に、企業公式の微信アカウントへのフォロワー登録を促すメッセージを表示します。微信の企業向けアカウントでは、フォロワーへセール情報やクーポンなどを配信できます。その配信情報がフォロワーにシェアされれば、その各フォロワーの知り合いたちにも情報が拡散されます。

 

 また、その他のO2O戦略として、中国の最大手のネット旅行代理店、Ctrip(シートリップ)社と提携し、同社運営のECサイト「全球購」で、来日前や来日中に日本製商品を購入した中国人に、その商品をホテルや空港まで届けるサービスも提供しています。

 

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◎拡大を続けるインバウンド需要を活かすべき

・今後の展望として、中国向け越境ECでは、どのような取組みを行うべきか?

 当社が訪日中国人の集客も重視したO2O戦略に取り組んでいるように、円安や訪日ビザの発給要件緩和などを背景に拡大を続ける、日本のインバウンド需要を活かすべきでしょう。例えば、去年1年間の訪日中国人数は、2014年の2倍超、ほぼ500万人に上ります。このトレンドを活かさない手はありません。

 

 そして、当社は、O2O戦略をさらに強化します。例えば、日本館で扱っている商品を店頭販売するショップブランド「Butler(バトラー)」の1号店が、JR海浜幕張駅前の商業ビル「プレナ幕張」内で1月にオープン予定です。ラインナップは、医薬品、化粧品、日用品など、日本館での人気が高い、美容や健康に関わる商品がメインです。なお、去年、日本館でヒットした商品は、北海道産の馬油と、青汁です。

 

 また、旧暦の正月「春節」にあたる2月8日ごろまでに、ECモールの微購物に越境ECサイトを出店するクライアントを3社募集する予定です。その3社にO2O戦略を提案し、当社独自のビジネスモデルとして確立させたいです。越境ECサイトの出店費用は、初期費用ゼロで、売上の6%の手数料のみかかります。なお、中国では毎年、春節の前後1週間が祝日です。その休みを利用して、大勢の中国人が日本に訪れます。募集期限も、それを計算に入れてのことです。

 

◎組織体制も越境ECの成功を左右する

・数年前、相次いで日本の大手ECサイト各社が、中国向け越境ECサイトを起ち上げたが、いずれも2年も経たずにサービス終了となってしまった。その失敗の原因はどのように考えるか?

 業界では、日本サイド中心の体制にした結果、中国の消費者たちの興味・関心を捉えたECサイトづくりができなかったと言われています。しかし、私を含め、創業メンバーに中国人がいる当社にとっては、中国の消費者心理の把握は、得意とするところです。

 

 また、その失敗事例の当事者から直接聞いた話では、言葉や文化、商習慣の違いから、日本人スタッフたちと中国人スタッフたちとの連携がうまくできなかったそうです。しかし、当社では、日本人スタッフの担当業務と、中国人スタッフの担当業務を完全に分けています。各業務間の連携が必要な場合は、役員たちがコーディネーターとなり、しっかり調整を行います。

 

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◎日中交流の活性化に貢献したい

・そのような組織体制に至るまでの歩みは?

 まず、私の経歴ですが、留学で来日して以来、20年近く日本で勉強・仕事をしてきました。起業以前は、日本の大手情報システム企業2社で就職・勤務していました。そして、2009年に、スマホアプリ開発や、中国市場向けのWEBマーケティング支援を行う、株式会社ネットスターズを起業し、2013年には、ウィ・ジャパンを立ち上げました。

 

 その中で、新技術が次々に生まれるWEB業界のスピードについて行くには、適材適所の組織体制がベストだと考えるようになりました。その意味で、当社の組織体制は、新しい技術を取り入れる試行錯誤の中で出来上がったものだと思います。

 

 なお、当社の中国人の創業メンバーは皆、日本滞在歴15年以上です。私も含め皆、ビジネス以前に日本が大好きなんです。今後も変わらず、一人の経営者としても、一人の人間としても、日中交流の活性化に貢献できればと思います。

 

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●李 剛(り・つよし)

株式会社ネットスターズ代表取締役社長。ウィ・ジャパン株式会社代表取締役社長。1974年生まれ。2009年、株式会社ネットスターズを設立。世界屈指のインターネット・サービス企業である中国テンセント社と提携し、WE Chat(微信)の日本展開をサポート。インバウンド向けのFree Wi-Fiサービス「WE Chat Wi-Fi」やコンシェルジュサービス「案内家」、日本初のWE Chat決済システム「WE Chat Payment」の導入開始など、インバウンドソリューションに特化したサービスを積極的に展開している。

 

●ウィ・ジャパン株式会社

〒104-0032 東京都中央区八丁堀3-22-11

TEL 03-3523-9868

http://wejapan.jp/

◆2016年4月号の記事より◆

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