オビ 企業物語1 (2)

一徹な職人の心を動かした若き社長の情熱

鉄道車両整備業界から経営革新の風を起こせ!

〈千代田ビジネス大賞(経営革新部門)受賞〉

堀江車輌電装株式会社/代表取締役 堀江 泰氏

オビ ヒューマンドキュメント

horiesharyo01堀江車輌電装株式会社/代表取締役 堀江 泰

世界に誇る正確なダイヤと高い安全性──そんな日本の鉄道産業を下支えしているのが鉄道車両整備業界だ。

M&A、ワンストップ体制の構築、障がい者支援事業部の立ち上げ……一徹な職人が多いこの業界において、設立から49年目を迎えた堀江車輌電装株式会社は新事業を次々と成功させている。

36歳の若き社長・堀江泰氏のその手腕と情熱に迫る。

 

改革と社内の反発

horiesharyo02鉄道車両の点検・整備の様子(写真上)/床敷物貼り替え工事の様子(写真中央:いずれも車両部)/ビルメンテナンス事業部による定期清掃の様子(写真下)

交通はその国の経済を支えるもっとも重要なインフラのひとつだ。中でも日本の鉄道は正確なダイヤ、膨大な輸送量、安全性の高さなど、世界有数の技術と文化を誇る。

そんな鉄道産業を下支えするのが鉄道車両整備の世界である。

 

「自動車の車検のように、鉄道車両にも同様の義務があります。メトロや私鉄といった各種の鉄道車両を整備、点検するのが当社のメイン事業となります」

 

そう語るのは東京都千代田区に本社を構える堀江車輌電装株式会社の4代目代表取締役・堀江泰氏だ。

同社は従業員48名の小さな組織でありながら、1968年の設立以来、鉄道車両整備一筋で業界内の確固たる信頼を勝ち取ってきた。その48年の歴史の中で、ここ数年、ある変化が表れている。

今年で36歳になる同氏が常務に着任したのが2007年のこと。その頃からさまざまな事業改革に乗り出し、この5年間で売り上げが1・65倍に伸びているという。2012年、32歳の若さで代表の座に就いた同氏が遂行する改革とは?

 

「私が常務として経営に関わるまで、当社は鉄道車両の中でも電装系1本でやってきました。しかし、車両というのは客室の内装もあれば、骨組みなど車体の強度を担う構体もあります。

ならば、鉄道車両にまつわるあらゆるサービスをワンストップ体制で提供できないかと考えました。1つの窓口ですべての対応が行えれば、お客様にとって大きなメリットだと思ったのです」

 

そこで着手したのが鉄道車両内装業者と連携した床敷物の貼り替え工事だった。ところが、最初のつまずきは程なくして訪れる。社内から反発の声が上がったのである。

 

「この業界は職人の世界です。現場の人間は自分の仕事にプライドを持って一徹に取り組んでいます。当時の代表は父でしたが、父をはじめ、多くの社員から『電装しかやったことのない会社が床の貼り替えなんてできるわけがない』と言われました。

何度も話し合いを持ち、賛同してくれる社員を少しずつ増やしながら、どうにか現場をまとめました」

 

 

家族経営が培った継承すべき社風

確かにワンストップサービスは発注側にとっても受注側にとってもメリットが多い。しかし、業務拡大はリスクの増大と表裏一体だ。何よりも電装1本でやってきたこだわりが顧客からの信頼と評価に繋がっていることは事実であった。

社員の誰もが共有するそうした懸念や矜持に対し、同氏はどんな働きかけを行ったのか。

 

「当社は家族経営を続けてきた昔ながらの日本的企業であり、それは良い意味で社員やお客様や地元の〝人〟を大切にする社風を培ってきました。

父は義理堅く、お金を優先するような経営を嫌う人で、そうした精神は私も受け継がなければならないと考えています。だからこそ、現場にコミットしながら、話し合いを通じて私の考えや思い、将来の展望を親身に伝えました。

当社の創業者は私の祖父です。そこから父の代までに築き上げてきた技術やお客様との信頼関係は継承すべき財産です。しかし、時代のニーズに応えるためには広い視野や柔軟さも不可欠です。

我々の業界の現状や将来を鑑みたとき、やはり革新すべき部分は革新しなければならないと、経営に携る者としての判断を伝えました」

 

 

目指すのは受注型から提案型のビジネス

少子高齢化が長らく続く日本では、中長期的に見て人口減少は不可避であり、国内マーケットも縮小傾向にある。

運賃収入で成り立つ鉄道会社の収益はいずれ下がることが予想され、そうなれば、鉄道車両整備業界に支払われる修繕費や設備投資額は必然的に削減される。

実際に近年、メンテナンスを含めた営業コストの低減が鉄道業界では叫ばれている。

また、鉄道車両産業においては省メンテナンスの取り組みが進められ、安全性や耐久性の向上などから重要部検査および全般検査の周期が伸びている現状がある。

 

「少しずつ需要が縮小していく中、社員の雇用や生活水準の維持、向上に尽力するのは経営サイドの責務です。そのためにはワンストップ体制の構築、あるいはこれまでの営業エリアを関東圏から全国へと広げるといった新たな事業戦略に着手する必要があったのです」

 

こうして床敷物の貼り替え工事から始まった他社との連携は、お客様からの依頼を1つの窓口で対応できる現在のワンストップ体制へと繋がっていく。

 

「我々の業界は受注型のビジネスです。毎年組まれる鉄道会社の予算ありきで発注が決まるため、新規事業と言っても限界があります。

ワンストップ体制を作り、ほかの企業とアライアンスを組むことで、それぞれの得意分野を活かした提案型のビジネスを展開させ、協力会社さんとも鉄道会社さんともWin-Winの関係を築くことを目指しています」

 

 

学歴コンプレックスをエネルギーに変えて

ところで、一口に経営革新と言っても、4代続く同族企業で、ましてや職人気質が社風に反映されるような企業において、それを成し得るには並々ならぬエネルギーが必要だ。その源泉はどこから来るのか。

 

「実は私、高卒なんです。高校はいわゆる進学校でしたが、大学へ行く意味が見出せず、受験勉強もしないでサッカーばかりしていました。卒業後はフリーターをしながら、やりたいことは何なのかを模索する日々でした。

20歳のとき、父親に頭を下げて当社に就職し、その日から現場に放り込まれました。大学へは行きませんでしたが、学ぶことは元来、好きなんです。

だから、現場のイロハを覚えるのとあわせてビジネス書などを常に鞄に入れて、独学で経理や企業経営について学びました。

32歳で代表になりましたが、『ボンボンが継いだ』と思われるのがとても嫌で、学歴コンプレックスもあったため、堀江車輌電装の名前と歴史、社員の生活を絶対に守ろうと決意しました。

そして、公共性の高い仕事をやっていることを世間に発信し、今まで以上に誇りを持って仕事に取り組める職場環境を作る、広く深く社会に貢献する企業として当社を成長させる、そんな目標を持って尽力してきました」

 

 

M&A、そして、障がい者支援事業

horiesharyo_foot知的障がい者サッカーの国際大会を偶然目にしたことが、障がい者支援事業部を立ち上げるきっかけとなった(写真:日本知的障がい者サッカー連盟・ブラジルW杯より)

同氏が取り組む経営革新をさらなる高みへと引き上げる出会いが2013年に訪れる。それはインターネットで偶然見かけた知的障がい者サッカーの国際大会であった。

 

「障がいのある選手が必死にボールを追いかける姿に感動しました。何か協力できないかと、すぐに日本知的障がい者サッカー連盟にメールを送りました。

最初はボランティアとして合宿の手伝いをするなど個人的なつき合いから始まり、コーチや選手たちと交流を深める中で、就労意欲があるのに雇用の受け皿がないことなど障がい者が抱える悩みを知りました。それが障がい者支援事業部を立ち上げた経緯です」

 

同事業部では障がい者と障がい者雇用に意欲のある企業とを結ぶ雇用促進事業のほか、インターンとして自社内に障がい者や福祉に興味のある一般大学生を受け入れ、就業体験の場を提供している。

 

「接客や電話の応答など実際の業務を手伝ってもらい、就職する際にはどういう業界が向いているかなどのフィードバックをしています」

 

horiesharyo03障がい者支援事業部では雇用促進事業をはじめ、自社内に障がい者や福祉に興味のある一般大学生(写真上)をインターンとして受け入れ、就業体験の場を提供。こうした取り組みなどが評価され、2015年度の千代田ビジネス大賞(経営革新部門)を受賞するに至った(写真下)

さらに同社では2015年、ビルメンテナンス会社を買収し、清掃業務などを行う正社員として障がい者を雇用、特別支援学校への協力も開始した。

 

「福祉業界と民間企業の壁を少しずつ壊して結びつきを深めながら、誰もが生きやすい社会の実現に貢献したいと思っています。

当社のように小さな企業であっても社会に広く深く貢献ができる、面白くてインパクトのある事業が展開できる、そんなことを世間に周知できたらいいなと思っています」

 

同社は車両系事業におけるワンストップ体制の構築や障がい者支援の取り組みなどが評価され、2015年度の千代田ビジネス大賞(経営革新部門)を受賞した。

鉄道車両整備という公共性の高い事業に加え、設立当初から受け継がれる人を大切にする社風、そして、同氏の時代を読み取る柔軟な発想力が着実に次世代のビジネスモデルとして形成されつつある証である。

 

革新すべき古い慣習や障がい者に対する偏見など、世の中にはまだまだ多くの壁が存在している。今後もその壁を壊しながら、同社は世の中のために「面白くてインパクトのある事業」を展開し続けていく。

 

オビ ヒューマンドキュメント

●プロフィール

堀江泰(ほりえ・やすし)氏…1980年、埼玉県生まれ。高校卒業後、フリーターを経て、2000年に堀江車輌電装株式会社入社。現場での経験を積んだ後の2007年、常務に就任、2012年より4代目代表取締役としてM&Aなどを成功させ同社の事業を拡大、現在に至る。
●堀江車輌電装株式会社

〒102-0072 東京都千代田区飯田橋1-5-5 IWOビル2階

TEL 03-5213-4728

http://horie-sharyo.co.jp/(コーポレートサイト)

http://www.tryangle.jp.net/(障がい者支援事業部)
http://www.h-bps.jp/(ビルメンテナンス事業部)

 

〈日高作業所〉

〒350-1253 埼玉県日高市台462-1 西武鉄道株式会社 武蔵丘車両検修場内

TEL 042-982-2198

〈横浜作業所〉

〒227-8540 神奈川県横浜市青葉区恩田町704 東急テクノシステム株式会社 長津田工場内

TEL 045-984-3564

 

 

 

 

◆2016年8月号の記事より◆

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