オビ 企業物語1 (2)

災害時にも頼れる充電器レンタルネットワーク構築を目指す

株式会社MIS/代表取締役 石井淳一氏

オビ ヒューマンドキュメント

 

 

小さな携帯充電器が社会を変える!?

SNSにニュース閲覧、電話、メール……と、1台で情報収集とコミュニケーションが可能なスマートフォンは、普段の生活でも災害時でも、非常に頼もしい存在だ。

しかし肝心な時に限って電池切れで、歯がゆい思いをしたという人もまた多いのではないだろうか。

そんなスマホの電池問題に一石を投じようとしているのが、株式会社MIS石井淳一社長

小型充電器「PowerShuttle」と無停電電源装置「PowerUPS」を、社会インフラとして流通させることで、「誰もが電池を気にせずに過ごせる世界」を目指している。

 

 

 

携帯型充電器が持つ可能性に注目

スマホの充電器といえば、コンビニエンスストアで売っているような、個人向けのものを連想する人がほとんどだろう。

しかし、同社の「PowerShuttle」及び「PowerUPS」は、個人向けに販売しているものではない。

石井氏が目指しているのは、これらをセットで駅や店舗などに設置することで、誰もが必要な時に充電器をレンタルできるようにすることだ。

 

2つの機器についてもう少し説明を加えよう。

「PowerShuttle」は、スマートフォンのような形状の携帯型充電器。120gと軽量ながら、約1時間でスマホのフル充電が可能。

1回満タンにしておけば、一般のスマホなら約2回充電でき、またUSB端子が2口あるので、これ1台でスマホ2台を同時に充電することもできるという優れものだ。

 

一方「PowerUPS」はこの「PowerShuttle」自身を充電するための専用装置で、1台で16台の「PowerShuttle」が収まる収納ボックスのようなもの。

無停電電源装置(UPS)を内蔵しているので、災害などで電気が止まっている時でも、普段蓄積した電気を使って充電することができ、16台の「PowerShuttle」を5回フル充電できるスペックを持っている。

 

つまり、施設や店舗に「PowerUPS」が設置されていれば、スマホ利用者は個々の「PowerShuttle」をレンタルすることで、自分のスマホを好きな時に充電できるというわけだ。

 

これがどう役立つかというと、平時の便利さもさることながら、最も注目すべきは、災害時における安否確認の連絡や情報収集、記録、情報発信などが非常にしやすくなることだろう。

災害時は、それらのことにスマホを使う上、非常に繋がりにくい状態なので、電池はあっという間になくなってしまう。

そんな時に、例えばキヨスクで充電器を借りられれば、落ち着いて家族と連絡を取ることもできるし、自治体単位なら被害の記録や救援の情報発信、職員同士のやりとりを行うのにも役に立つ。

災害対策として最も重要な、初動に大きな違いをもたらすかもしれないのだ。

 

 

文系から半導体デバイスの営業へ

このように、充電器という新しい社会インフラの創設を目指す石井氏だが、実は大学時代の専攻は商学部経営学科と文系科目。

それが技術の結晶とも言える充電器に関わるようになったのは、まず就職がきっかけだったという。

 

「大学を出て、半導体製造装置なんかの開発を行っている東京エレクトロン株式会社に入りました。

けれど、社員3000人中、日経優良企業ランキングで2位になった年の先輩が500人もいて。

ここでやっていくのは絶対無理だと思って、1年ほどで時計のセイコーに転職したんです」

 

そうして移った先は、セイコーホールディングス下の半導体研究所兼メーカーである日本プレシジョンサーキッツ(現:セイコーNPC株式会社)で、扱うモノは、低消費電力化を可能にする特殊な低電圧デバイス。

文系だった石井氏に予備知識があろうはずもなく、最初の3年間は、専門書を丸暗記するほど読みふけり、ひたすら勉強の日々だったという。

ただ、ここで得たのは、単に本からの知識だけではなかった。

 

「小さな会社だったので、実際に工場の中や装置の中に入って、自分で全部いじれたんですよ。門前の小僧じゃないですが、そこで勉強させてもらいました」

 

と、自ら学び続け、ポケベルからPHS、携帯へと通信機器が大きく変化していく時代の中で、通信機器の基幹部品であるPLL(位相同期回路)の国内営業担当として活躍。

相馬に工場や事業所があったアルプス電気株式会社やいわき本社のアルパイン株式会社など、東北の企業とも親交を深めていった。

 

 

アジア勤務で出会った生涯の友

そうして働くこと5年あまりの1995年頃、新たな転機が訪れる。

1ドル80円水準の円高を受けて、日本企業のアジア進出が加速。

そのサポートのために、海外事業部アジア専門職が必要となり、技術が分かり、フィールドエンジニアの仕事も営業もできる石井氏が選ばれたのだ。

 

「大手商社とも協力して、各国にローカルと日系の代理店さんを作り、お客さんを見つけ、技術説明をして売り上げを上げるという仕事でした。

シンガポールと香港を拠点に、北は中国からタイ、マレーシア、シンガポール、南はオーストラリアまで全部1人でやらされまして。

ジャングルの中をネクタイして、アタッシュケースを持って工場まで歩いて行ったこともあります」

 

という何とも大変な生活だが、ある日、石井氏は一人の香港人と出会う。

その相手とは、当時香港加賀電子株式会社に勤めていた・Wylie SO(ウィリー・ソウ)氏。

電池一筋できた技術者で、後にグローバルに電池パック事業を展開するBMT Pow Ltd.を設立し、「PowerShuttle」「PowerUPS」を作りあげる人物だった。

 

それ以来、家族ぐるみでかれこれ22年の付き合いになるという石井氏とソウ氏は、今や「お互いに何を考えていて何をしたいのか全部分かるし、一言でいえば全部理解してやれる」仲だ。

 

実は、「PowerUPS」はハード・ソフトウェアの製作から製造ライン、最後の検査装置に至るまで、すべてソウ氏が自社で製造している。

それについて、石井氏は、「彼はよく〝このすごさを理解している奴はいないよ〟と言いますが、

半導体、ソフトウェア、製造工程、検査装置と全部理解した上で、彼が何ができるかを分かって、マーケットに商品を出せるのは僕だけです」と自信と信頼を示し、

ソウ氏は、この事業に億を超える投資を行いながら「投資は出してもらっていないとさえ言わなければ、返すのはどうでもいいよ」と応える。

「PowerUPS」の社会インフラ化事業は、深い信頼に支えられて進んできたのだ。

 

 

電池のことを気にしなくていい社会を

だが実際問題として、一度災害を経験した人はともかく、まだまだ「充電はコンセントですればいいじゃないか」と考える人が多いようにも思える。

例え「PowerUPS」がどんなに優れた製品であったとしても、充電器を社会インフラ化するという構想は本当に実現可能なのだろうか?

 

その点石井氏は、熊本の震災や北海道の台風被害、更には2016年に大ヒットしたスマホアプリ「ポケモンGO」などの影響もあって、

スマホを充電しながら持ち歩ける携帯充電器の必要性は徐々に認められてきていると実感しているという。

その上で、現在の目標として掲げているのが、平成30年度予算での自治体への「PowerUPS」導入と町や駅のコンビニエンスストアでの「PowerShuttle」レンタル開始だ。

 

「いざ大規模な災害が起きた時、電池は個人が家族と連絡を取ったりするのにも重要ですが、いち早く情報を手に入れて、迅速な対応をすることが求められる自治体職員にも、

情報収集や現場の記録、職員同士又は民間消防団などとの連絡用にと電池が必要な場面は必ずたくさんあります」との話は、

「PowerUPS」をモニター利用中の東日本大震災で被災した福島県浪江町や昨年台風16号により大きな被害を受けた鹿児島県垂水市、沖縄県南大東村などの現場担当者も同意するところ。

他の自治体でも導入を決めるところが出始め、2017年2月13日から現在までの間に既に2カ所で導入を完了し、さらに増加する傾向も見えている。

 

PowerUPS導入風景(写真左)/MIS石井社長と、福島県浪江町役場の担当者(右)

 

 

一方、一般人向けのレンタルの方は、現在街中や駅のコンビニエンスストア、空港、バス会社などに導入を打診。

本体に広告を付けることで、100円レンタルを実現できないかと提案している。

理想は、例えば東京駅のキヨスクで借りて横浜駅で返す、羽田空港で借りて広島で返すなど、日本全国で自由にレンタルと返却ができること。

 

「気軽に借りられてすぐ返せれば、日本人だけでなく、海外からの観光客にも便利ですし、コンセントを探して歩く必要もありません。

まずは、みんながどこかで電池のことを気にしている今の状態を変えること。

そして、ポケットの中に充電器があるのが当たり前になれば、いざ災害が起こった時にも自然に対策ができる。そういう風にしたいんです」

 

 

海外でも国内と同じように携帯やスマホが使えたら……。

数年前までそんな願いは夢に過ぎなかったが、今や空港受け取り・返却の海外対応Wi-Fiレンタルサービスは常識になった。

スマホの充電器をレンタルし、持ち歩くことが常識になる日も、結構すぐそこまで来ているのかも知れない。

 

オビ ヒューマンドキュメント

●プロフィール

石井淳一(いしい・じゅんいち)氏…1964年生まれ。1990年、日本大学商学部経営学科を卒業し、東京エレクトロン株式会社に入社。後、半導体メーカーである日本プレシジョンサーキッツ(現セイコーNPC株式会社)に移り、当初は国内営業、後にアジア地域総括として活躍する。退職後、2011年8月に株式会社MISを創業、同代表取締役に就任し、現在に至る。

 

●株式会社MIS

〒141-0031 東京都品川区西五反田1-17-1 第二東栄ビル4F

TEL 03-5759-4500

http://www.jp-mis.com

 

 

 

◆2017年4月号の記事より◆

WEBでは公開されていない記事や情報満載の雑誌版は毎号500円!

雑誌版の購入はこちらから