オビ 企業物語1 (2)

マーケティングに新たなITイノベーションを。拡張現実ARが集客を変える

株式会社プラージュ/代表取締役 磯 浩一郎氏

 

オビ ヒューマンドキュメント

IT技術の進化は電光石火のごとく進んでいる。

モノ同士が繋がるIoT、人間に変わるAIなど数々のITイノベーションのうねりの中、今注目されているのが、映像によるデジタル情報と現実の融合「VR(仮想現実)」や「AR(拡張現実)」だ。

中でも、主に医療現場、ゲームに使用されてきたARは、昨今のスマホの普及により、急速にビジネスマーケティングの利用へと広がりを見せている。

 

早くからこの「AR」に着目し、AR作成クラウドサービス「ARcube」を開発提供している株式会社プラージュ代表取締役・磯浩一郎氏に、ITイノベーションを起こす視点の在り方と、ARの可能性について伺った。

 

 

現実世界に情報を付加するAR

ARは、Augmented Realityの略であり、日本語では拡張現実という。

VR(バーチャルリアリティ・仮想現実)との違いは、VRが仮想情報の中に人間が入り込むことに対して、ARは現実の中に情報を取り込むことにある。

例えば、VRでは仮想の部屋に自分が入り、仮想の椅子に座る。ARでは現実の部屋に仮想の椅子を配置する。

見えている世界は、VRが仮想でARが拡張された現実だ。

 

写真(マーカー画像)にスマホをかざすと3Dになって表示される

 

 

このARは1992年に空軍研究所によって最初に開発されて以来、主に軍事や航空製造、医療のシミュレーションのために使われた。

2000年代になると、携帯端末の普及に伴い一般消費者向けのサービスが始まるようになった。

ゲームのほか、位置情報システム、テレビや映画、雑誌などのエンターテイメントにも利用され、昨年はスマホゲーム「Pokémon GO(ポケモン・ゴー)」に採用されて、ARは一気に身近なシステムとなっている。

 

このARにいち早く注目し、集客マーケティングへの利用を推進しているのが、株式会社プラージュの代表取締役・磯浩一郎氏だ。

「お客様が何を求めているのかを考えて見出したものがARの活用でした」と語る。

 

 

3年で独立、パソコン1台で起業

同氏がIT分野で起業したのは2001年。NTT-MEに入社して3年が過ぎた頃だった。

 

「NTT-MEでの担当業務はウェブサイトの作成やシステム開発でした。その時にITは面白いと感じたのが、独立のきっかけです」

 

27歳での独立だった。

 

「もともと独立志向だったのです。在学中から経営者の著書や、お金持ちになる方法などの本を読み漁っていましたね。

NTT-MEを3年で辞めたのは『石の上にも三年』で、お客様やIT関連の人脈を増やし、確固たる繋がりを作るためでした。

今でも当時のお客様との関係は継続しておりますし、NTT-MEからもご契約いただいております」

 

独立当初の資産は、開業資金の300万とパソコン1台のみ。

 

「お金をかけないで起業しようと思ったのです」

 

パソコン1台から始まった同社は、以来今日まで16年間継続し、社員数も売り上げも増加している。

ITベンチャー企業が5年未満で消えていく中、10年以上企業を継続させAR部門でのシェアはトップクラスだ。

顧客は大企業や大手メディアが名を連ねる。起業は大成功だと言えるだろう。

その成功の秘訣を問うと「経営者であった叔父の言葉です」と同氏は言う。

 

 

IT分野のストックビジネスで 継続成長

独立当初は前職と同じ、ウェブサイトの作成やシステム開発を行っていた同社。

日本中に数多あるウェブサービス企業の中で、生き残ることができたキーワードは「ストックビジネス」だ。

 

「自分は技術屋だったので、技術さえあればなんとかなると思っていました。

しかし、ビルメンテナンスの会社を経営していた叔父に『ストックのあるビジネスをしなさい』と言われていたのです」

 

ビルメンテナンスは、継続的なメンテナンスサービスで収益を得る。

同氏も同じように、ウェブサイトやシステムの毎月の保守・管理の課金制サービスを提供し、定期的な収入を得るビジネスシステムを採用した。

 

「保守があれば、たとえ新規案件がなくなっても収入は継続します。

最初の切り口は低料金でも、保守で収益を出せるビジネスモデルを続けていたことが、継続できた要因だったと思います」

 

こうしてサイト構築やアプリ開発業務を行いながら、同氏はスマホアプリを使ったARに着目する。

着目したのはエンターテイメント用途ではなく、ビジネスツールへの導入だった。

 

 

お客様の声から生まれた集客ツールとしてのAR

「発想の原案は、お客様からの問い合わせです」

 

ARをビジネスツールとしてスマホアプリで利用する提案は、従来のマーケティング手法に革新をもたらした。

 

「企業ですからイノベーションを起こしていかなくてはなりません。

それにはお客様のニーズを知ることが大切で、できるだけお客様と密に情報を共有するようにしています」

 

こうして開発されたのが、集客マーケティングツールとしてのARアプリだ。

動画や3Dコンテンツが、スマホの画面上で現実世界に反映される。

用途は、雑誌や書籍、カタログや名刺などの販促ツール、商品プロモーション、シミュレーション、観光ガイドなど多岐にわたる。

 

名刺やカタログにスマホをかざすとアプリが起動し、3Dキャラクターや動画が動きだす。

カタログなら、アプリをかざすと画面上で試着やお試しなどのシミュレーションができ、画面からECサイトへ移動してそのままショッピングをすることも可能だ。

また、史跡や名所でスマホをかざすと流れる説明動画、ご当地ゆるキャラと写真が撮れるアプリなど、観光ガイドとしての需要も高い。

地域活性化のツールとしてARを導入している自治体は、年々増えているという。

 

今までの集客ツールは、アナログとデジタル、紙媒体とウェブのように別々に機能していた。

しかし、ARによって顧客の最終アクションへの導線が作られ、これらの集客ツールは一体化する。

今までの集客モデルは、ARの出現により大きく進化しているのだ。

 

しかし、このARアプリ開発は多額の費用が必要とされる。

導入できるのは資金力のある大手中堅企業に限られ、資金力の差が集客力の差となってしまう。

 

パソコン1台で事業を始めた同氏は、この課題をクラウドサービスで解決した。

そのサービスとは、現在トップクラスのシェアを誇るAR作成サービス「ARcube」だ。

 

フィッティングにも応用可能。指に付けたマーカーにかざせば、まるで本物を試着しているような感覚に!

 

 

AR作成を簡単に早く!「ARcube」の差別化とは

「ARcube」は同社が開発したAR作成クラウドサービスだ。

何百万もするアプリ開発を業者に依頼することなく、自分でARの作成を行うことができる。

しかも、読み取るためのマーカー画像とコンテンツを用意して、アップロードと登録を行うだけという簡単さ。10数秒でARアプリの完成だ。

 

使用できる機能数は、同業他社が提供するサービスよりも断然多い。

また、導入費用、月額使用料金共に安価なことも大きな魅力となっている。

業界の中でも早期にARに着目していたからこそ提供できる技術と料金設定だ。

 

高機能・低コスト・低料金の課金システムサービスは、中小企業やベンチャー企業に喜ばれ、同社にとっては定期的な収益、いわゆるストックビジネスとなる。

企業と顧客のWin-Winを構築するビジネスモデルだ。

 

そして、「ARcube」がトップシェアであることは、高機能低料金だけが理由ではない。

 

「繋がりを大切にしています。できるだけお客様の立場になって、経営や商品開発、営業を行っていることが差別化に繋がっているのかもしれません」

 

この考え方は、同社の企業理念「私たちは、世界の人々に喜びと感動を与えるサービスを提供します」に基づいている。

しかし、起業当初はそこまでの意識はなかったと同氏は言う。

 

「技術さえあれば良いと思っていました。そんなとき社員が一気に辞めてしまい、『自分のやっていることは正しいのか、このままで良いのか』と自問自答したのです」

 

 

必死に客と向き合うことで 見えてきた企業のあり方

学生時代から独立志向だった同氏は、経営や起業方法、儲かるビジネスなどの成功法則を模索してきた。

しかし、実際に起業してみると、書籍のように順風満帆なだけではない。

机上の空論化した理論と技術だけを信じ、会社を大きくして儲けることだけが目的となったとき、社員は離れていった。

 

「何のために経営しているのかと色々な社長様に聞きました。

もっと簡単で楽な方法や、お金だけが目的ではないとか、そういった答えがあるのかと思っていたのです」

 

すると、返って来た答えは「そんなことを聞いている時点で、君は甘ちゃんだよ」という一言だった。

 

「どうやったら利益が出るのか、どうやったら売上が上がるのか、どうやったら社員が定着するのか、そんなことをぼんやりと考えている暇は、経営者にはないんです。

自分はまだ動いていない、必死になっていないんだとわかりました」

 

この悟りが大きな転機となった。

できるだけ多くの人と会い、話し、繋がりを持つことを意識するようになったのだ。

 

「喜んでいただくことは当たり前。さらに感動していただくことを大事にしています。

お客様の要望にそのまま応えるだけでは感動は与えられません。何かをプラスアルファすることで、感動が生まれます。

感動が生まれることで、自ずと人は集まり、売上も上がるのです」

 

プラスアルファによって感動は決まる。

何をプラスアルファにするかは、人と会い話し、共感することでしか引き出されない。

それはビジネスだけではなく人間関係も同じだ。

 

「感動を与えられる人間になりたいと思っています」

 

 

ARで世界一の企業に

サイト制作、システム開発から始まった同社は、16年経ってARアプリ作成サービスでは国内トップクラスの企業へと成長した。

それでもまだまだ試行錯誤で道半ばだと、同氏は言う。

 

「最終的な目標は、まだわからないですね。目標を探すのが経営者なのか、人生なのか。毎日もやもやしています。

現在17期目ですが、創業した当初に思い描いていたのは、今頃もっと規模が大きくなっている姿だったはずです。

途中の迷いもありましたが、それでもやはり、事業を拡大したいという思いはあります。

そのためには、常に革新していくことが必要だと感じています」

 

先見の明を以て見出したARが持つ集客力に、同氏はさらなる可能性と革新を見ている。

 

「ARで世の中に喜びと感動を与えたいと思っています。ARで世界一の企業になることが今の目標です」

 

今持っている目標は、経営者と企業の成長に応じて、やがてさらに大きな目標へと育っていく。

ARが変えていくビジネスとライフスタイル。

磯氏とプラージュが巻き起こすイノベーションを、世界は楽しみに待っている。

 

 

オビ ヒューマンドキュメント

●プロフィール

磯 浩一郎(いそ・こういちろう)氏…1974年東京都生まれ。玉川大学工学部卒業。1997年、株式会社NTT-ME入社。同社情報システム部にて、ウェブサイト構築やネットワーク構築、システム開発を担当。同社退社後2001年有限会社インイン・ドットコム(現・株式会社プラージュ)を設立、代表取締役に就任。

 

●株式会社プラージュ

〒141-0022 東京都品川区東五反田1-20-7 神野商事第2ビルB2F

TEL 03-5420-1280

http://www.prage.jp/

 

 

◆2017年4月号の記事より◆

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