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宿泊予約の「キャンセル料問題」はこれで解決!? 日本初の宿泊権利売買サービス「Cansell」登場

Cansell株式会社/代表取締役 山下恭平氏

オビ ヒューマンドキュメント

 

急用や病気のために、せっかく予約した旅行の取り止めを余儀なくされるのはつらいこと。 その上、ホテルや旅館のキャンセル料金がかかってきた日には、踏んだり蹴ったりで泣きたくなる。

そんな地味だけれどダメージが大きい「キャンセル料問題」に新しい解決法を提示するのが、2016年1月に設立されたCansell株式会社が提供する、国内初の宿泊予約の権利売買サービス「Cansell」だ。

そのサービスの概要と秘められた可能性を、Cansell株式会社の創業者で代表取締役山下恭平氏に聞いた。

 

 

出品者、購入者、宿。みんなが得をする仕組み

同社の社名である「Cansell」は「キャンセル」と読み、「取り消し」や「解約」を意味するキャンセル(cansel)を、売ることができる(can sell)ということからつけられた。

一瞬「それが社名に?」と驚かされるが、「〝名は体を表す〟じゃないですが、うちのサービスをそのまま表している言葉。社名についてはいろいろなアイデアが出ましたが、一番シンプルで分かりやすいものに決めました」と山下氏は言う。

その言葉の通り、同社が注目するのは誰もが見過ごしていた「キャンセル」について。キャンセルせざるを得なくなった宿泊権利の売買という国内初のサービスを提供している。

 

 

同社のサービス「Cansell」が役立つのは、旅行をするつもりでホテルや旅館の宿泊予約をしたものの、何らかのアクシデントが発生。予約を取り消したいが、キャンセル料が発生してしまう場合だ。

 

そんな時、宿泊予約をしているユーザーは、「Cansell」に宿泊する権利を出品(第三者に販売)し、購入者が現れれば、同社を通じて売却代金を受け取ることができ、支払わなければならなかったキャンセル料の節約ができる。

なお、転売目的での出品防止のため、宿泊権の販売価格は宿泊施設からの購入価格より高く設定することは禁止。

出品者は直接予約をキャンセルした場合に比べてキャンセル料が削減でき、購入者は通常の宿泊価格より安くホテルに泊まれ、宿泊施設は空室を作ることなく客室の稼働率を上げることができる。

 

同社は、宿泊施設への予約の確認をはじめとする出品審査と購入成立後の予約の変更手続き代行を行い、売買成立時の手数料(販売代金の15%)を得るというポジションで、関係者全員が利益を得るWin-Winのビジネスモデルとなっているわけだ。

出品は無料で、オークションサイトと違って出品者と購入者が直接やりとりをする必要はないため、忙しい社会人でも利用しやすいことも強みの一つといえる。

 

宿泊予約は、例えばディズニーホテルでは、宿泊の14日前以降のキャンセルにはキャンセル料金が発生するし、繁忙期のリゾート地や宿泊特典付き予約などでは、もっと前からキャンセル料金がかかることも多い。

また、交通機関とホテル宿泊がセットになったパッケージツアーの場合、格安料金は魅力だが帰省や友人宅の訪問などに使いたい場合は、そもそもホテルは不要という場合もある。

そんな時「Cansell」を通じて宿泊権を販売すれば、無駄な出費を押さえ、また誰かの役に立てるというわけだ。

 

 

経験の有無に縛られず必要とされるサービスを作る

「宿泊予約権の売買」という、今までありそうでなかったアイデアは一体どこから出てきたのだろうか?

一昔前までの感覚では、創業と言えば会社勤めの経験を積む中で勤め人のままでは実現が難しい理想やビジョンに直面し、その実現のために同じ業種か近しい業種で独立するというのが定石だ。

けれど、今のベンチャー企業は必ずしもそうとは限らない。山下氏の場合、創業の最も大きなきっかけは単純に「おもしろそう」だと感じたことだという。

 

「就職活動中から起業には興味があり、最初の就職の後、再上映のリクエストが多い映画をもう一度映画館で上映するサービスを提供する〝ドリパス〟を運営する会社に、後に同社がヤフー株式会社に買収されたのでヤフーに移り、Yahoo!映画やGYAO!など映画関係のサービスに携わっていましたが、ずっとサラリーマンで働くよりも自分で事業をやった方がおもしろいと思っていたんです」

 

と、ドリパスでスタートアップ起業に必要な業務の流れをすべて経験したことを活かして、2016年1月にインバウンド向けの飲食店予約サービスを提供するグルメハント株式会社を創業。ただまもなく、利用者を増やせる見込みは少ないと判断し、抜本的な見直しを決断する。

そこから再び、社会の課題を解決する様々なサービスのあり方を模索し、辿り着いたのが「Cansell」だ。

 

「いままでの経験を活かすのも一つの道ですが、それに縛られる必要はないかなと。重要なのは、世の中にたくさんあるであろう未解決の課題を解決するものだということ。自分が作ったサービスが必要とされ、困っている人たちに受け入れられて、使ってもらえたら嬉しいなということです」

 

2016年9月にプレビュー版をリリースした「Cansell」は徐々に利用者を拡大。ベンチャーキャピタルにも注目され、2017年1月には4社から計4000万円の出資金を得た。

 

 

サービスの認知度アップと内容の充実が同時進行中

サービス開始から8カ月を経た現在、「まったく新しい取り組みですし、事業自体簡単ではありませんが、スタート地点が底辺なら後は上がるだけ。ポジティブに考えながらしっかりこのビジネスを伸ばしていきたい」という山下氏が今最も力を注いでいるのは、1人でも多くの人にサービスを認知してもらうこと。

中小企業専門のPR会社・ベンチャー広報を使ったPR活動を中心に、インターネット、SNS、新聞、テレビなど、媒体を問わずさまざまな分野への露出を増やし、あらゆる手段を尽くしてサービスを知ってもらうことに努めている。

その根本にあるのは、「このサービスは人に必要とされるサービスだ」との確信だ。

 

「事業をやる上で大事にしたいのは、楽しんでやることと、人に必要とされるものを作っていくこと。もし僕たちのビジネスが人に必要とされるものではないなら、他のもっと社会の課題を解決できるビジネスを始めます。けれど、このサービスは必要とされているものだと思うから、しっかり育てていきたいし、もし失敗するなら、それはただ僕の力不足というだけです」と言い切る。

 

「一にも二にもサービスの認知を広げること」に注力する一方、より使いやすいサービス、より洗練されたビジネスモデルを目指して試行錯誤を繰り返すことも忘れていない。

「Cansell」は2017年2月には、世界最大のホテルの口コミ評価プラットホームを提供する「Trust You」と提携して各ホテルページで口コミを見ることが可能に。同3月にはそれまでホテル単独の予約のみだった売買対象となる宿泊権利が、新幹線や飛行機などの移動権利と宿泊権利がセットになったパッケージツアーの宿泊権利分にも拡大し、試験的に出品が可能になっている。

もちろん現在も改良が重ねられ、日々さらに使いやすいサービスへの磨き上げが進んでいる。

 

 

大きな可能性を感じつつ一歩一歩、前へ

宿泊権利売買サービスは今までになく、市場規模も未知数なだけに、今後の展開次第ではさまざまな方向への派生の期待が高い分野だ。

例えば、今は旅行やバカンス目的で個人が行った宿泊予約の売買が一般的だが、ビジネスシーンにも応用できるかもしれないし、団体旅行を取り込めればさらに使い勝手はよくなることも考えられる。

また、飛行機や船、夜行バスといった各種交通機関を利用する権利やイベントへの参加権、飲食店の予約など、宿泊以外の分野への拡大も考えられる。

そのような将来の可能性について、「ワクワク感は大きい」とする山下氏だが、今はまだそんなに先を見据えても意味がないとも言う。

 

「将来の可能性は魅力ですが、現地点では絵に描いた餅。今そこを深く考えても仕方がありませんし、それより重要なのは〝どうしたら今サービスを使ってくれる人を増やせるか?〟ということです。僕たちが今フォーカスしているのはそこですね」

 

同社が2017年に重点的に取り組むのは、予約の出品数を増やしていくこと。そのために、おそらく多くいるであろうキャンセル料に困っている人々に広くサービスの存在を知ってもらうことだ。

キャンセル料が発生しているにも関わらず、払わないまま宿泊先と音信不通になる利用者が問題になっていることから、発生件数で考えると、キャンセル料で問題を抱えている人は、かなりの数がいるはずだと山下氏は言う。

同時に、そうやって浮かび上がってくる問題を解決するのも今後の課題だ。

 

「僕らの事業にビジネスとしてやれるだけの規模感があるのかは、これから証明していくしかありません。まだまだどうなるか分からないけれど、ここに期待して掛けてみたいなと。投資を受けた以上、株式公開か売却は投資家への恩返しであり目指すべき一つのゴールです。この事業に全力を尽くし、それからどうするかはゴールに到達した時に考えます」

 

同社の挑戦は、二次流通界にどんな風を巻き起こすのか。今後も目が離せなくなりそうだ。

 

 

オビ ヒューマンドキュメント

●プロフィール

山下恭平(やました・きょうへい)氏…1985年生まれ。神奈川県横浜市出身。大学院修了後、2010年にシステムインテグレーション会社のネットワークエンジニアとしてキャリアをスタート。後、ドリパスに移り、2013年3月に同社がヤフー株式会社に買収されたことでヤフー株式会社に移籍する。2015年12月に退社し、翌1月にグルメハント株式会社を創業、代表取締役に就任。2016年7月にCansell株式会社に社名変更。現職。

 

●Cansell株式会社

〒150-0022 東京都渋谷区恵比寿南3-5-7 デジタルゲートビル2F

TEL 03-4571-0901

https://cansell.jp/

 

 

 

◆2017年5月号の記事より◆

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