株式会社茜谷 代表取締役  茜谷 聡氏

 

東北山形の雄・茜谷聡氏が率いる株式会社茜谷考案の「ジオダブルサンド工法」が、2015年2月の東北経済産業局「異分野連携新事業分野開拓計画」(新連携計画)に認定されたのに続き、このたび国土交通省の新技術情報提供システムNETIS(ネティス)に登録された。

 

地盤の液状化現象の対策として編み出された工法で、まさに飛躍の年を迎えた株式会社茜谷。茜谷社長と吉宮特販部課長のおふたりにこれまでの歩みに加えて、今後の抱負と意気込みを聞いた。

 

変化しなければ、チャンスは訪れない。

施工性に富み、早い・安い・強い工法で、地震時には液状化の水分のみを透水管に導き、水圧を抑制し、砂の隆起を抑える。自然のエネルギーを「逃がす」というまったく新しい発想の工法(平成23年10月5日特許出願済)。半永久的にもち、工事や改良が可能。

日本海に面する山形県最大の港町・酒田。冬は厳しい荒波と最上川スワンパークに集まる白鳥の姿が印象的な土地である。この日本海に注ぐ最上川の河口に株式会社茜谷はある。

建築用資材や金物鋼材などを取り扱い、屋根の工事や板金加工、防水工事など建設工事全般を請負う企業だ。

 

「私はこの世になかったものを創造するのが大好きです。ベンチャー企業は成功するまで時間がかかるし、日の目を見ずに失敗するケースが少なくありません。それはベンチャー企業が新しい商材を開発した時点で売れると勘違いしているからです。

開発した努力を10とすれば、売れるまでにはそのまた10倍の努力が必要なのです。当社はベンチャー企業ではありませんが、本業をベースにしてベンチャー企業的な要素も保持しているのです」と茜谷社長。

 

その手腕は経営革新やチャレンジに注がれている。茜谷は1915年創業、100年を迎えた老舗企業である。だが四代目は老舗の看板にあぐらをかいているわけではない。とかく老舗は革新やチャレンジは苦手と言われるが、「CHANGE・変わるという言葉があります。CHANGEのGの中には小さなT(トラブル)が潜んでおります。そのトラブルを取り除いてあげればGがCになります。そうしますとCHANGEがCHANCEになります。つまり変化しなければチャンスは訪れないのであります」

 

 

 

真っ当なモノづくり」を支える亡き母・照さんの教え

さて四代目の社長として辣腕を振る茜谷氏は、事務所の中でもひときわ元気で目立つ存在だ。身長も189センチである。その高さを活かして学生時代にはバスケットボールの選手として活躍。30歳まではバスケットに夢中で青春を謳歌していた。笑顔でいることも信条のひとつだ。

 

「私は日本中、世界中に笑顔を届けたいと思っています」

茜谷のホームページには〝社長の秘密の部屋〟があって、そこをクリックすると…なんと出るわ出るわオヤジギャグが満載なのである。実は茜谷社長はオヤジギャグをいつも制作している。きっかけはロンドンオリンピック、国名にからめたオヤジギャグを考えたことから始まった。

いまでは様々なオヤジギャグがランキングでも見られ、投票も受け付けている。なんとも遊び心のあるオヤジである。

 

「子供の頃は今とは逆で、どちらかと言うとおとなしく控えめな性格でした。30代40代と歳を重ねたくさんの失敗や恥をかいてきたことによって、経験値が豊かになったと言いますか、50代になった頃からいろいろ人生がわかってきまして、パワーがみなぎるようになりました。今この世の中にないけれども、あったらいいなを実現するまっとうなモノづくりを本気でやっていきます」

 

仕事の進め方にも一家言がある。「小さな会社だからできることがあります。大手企業のように何回も打ち合わせや会議をして、何人ものハンコを押さないと通らない企画はいつ実現するのでしょうか。我々は今すぐ実現して欲しい技術や人助けになる技術があれば、一日で動き出します」と中小企業のフットワークの良さを強調する。

 

二人三脚で茜谷を引っ張っている特販部課長吉宮氏の茜谷社長評は?

「ひと言で言えば変わり者でございます。杓子定規では測れない、ぶっ飛んでいるような人でもあります。発言ひとつとっても端から見れば綺麗ごとや偽善的に捉えられることも多々ありますが、そばにいると、社長が本気でそう思っていることがわかります。『夢にまっすぐ、どんな障害もなんのその』ですね」

 

口癖のように話すことがある。「私は夢や目標を持ち、日々不断の努力を傾注していけば必ず現実になることを体験しています」と。

これまでの人生経験から導き出された言葉だとも思われるが、それだけではない。実はそのルーツに茜谷社長の母から聞いた言葉があるのだ。その言葉を31のモットーにまとめ、心の支えにしている。たとえば『思い悩むより行ってみよう 行動の中から道はみつかる』『信念を持って貫くことが、人の心と周囲を動かして行く』『やり抜こうと腹に決めた時、困難を克服する力が湧いてくる』などは、現在の茜谷社長の行動を見ていると納得させられるモットーばかりだ。

 

「私は故郷の皆様から育てられた。だから私のやっていることが故郷山形のため、さらに東日本大震災の被災地のためになれば本望です」と言い切る。

 

ジオダブルサンド工法、本格実用化スタート!!

その東日本大震災の経験を踏まえ、茜谷が3年前に世に出した新しい工法こそ、ジオダブルサンド工法だ。

 

「何とか被災地のお役に立てないかと思い、いろいろなことを考えました。中でも液状化現象を見て地盤強化や地震対策に役立つ方法として編み出したのがジオダブルサンド工法です」

そもそも液状化が発生する時は下層路盤の下部が水圧に因って洗われ、かつ激しい揺れで流砂現象を引き起こし、センターより陥没する。流砂現象により水と砂が分離し、水は地表の弱いところを探して噴出するが、その時砂も伴うのが液状化現象だ。この液状化対策の切り札として小誌でも注目し何度か取り上げてきたジオダブルサンド工法だが、ここで改めて紹介しよう。

 

まずその特徴をひと言でいうと、地震のエネルギーを抑え込むのではなく自然に横軸に逃がすことで液状化を防ぐ、画期的な工法だということだ。従来から行われているような縦方向に補強する方法ではなく発想を逆転させた。簡単に仕組みを説明すると、補強シートと防水シートで地盤を挟み、サイドに透水管をつける。地震時には液状化の水分のみを透水管に導き、液状化を防ぐ技術だ。

 

昨年4月には日本大学工学部土木工学科仙頭紀明准教授の技術協力ならびに指導のもと、遠心載荷試験も行った。これは遠心加速度で大きな重力をかけ、それに振動を加えることで地震時の挙動を模擬再現し測定する装置を使う。

 

「震度7、マグニチュード9の地震が起きたことを想定して合わせて6回の立証実験を行いました。その結果、無対策の場合は1回目の20秒以内でクラック(ひび割れ)が入り数秒間で液状化が発生しました。ジオダブルサンド工法を対策した場合は、6分間の揺れでも破断しなかった。6回の実験とも最後までクラックが入らなかったのです」と話すのは開発責任者の吉宮氏。こんなエピソードも打ち明けてくれた。

 

「試験前は我々もどんな結果が出るのか、結果次第では今後の展開も違ってくるのでいろいろ考えて不安になりました。ところが社長の顔を見るとニコニコしていまして、いたって呑気に『うまくいきます、絶対大丈夫です』というのです。社長は技術屋でもない素人ですけれどね、はっきり言って(笑い)。その人が大丈夫ですと」

 

その根拠がわからずかなり不思議な気分になったという。その時のことを振り返って茜谷社長は、

「地震は縦方向に揺れますけれど、液状化は長い時間の横揺れによって引き起こされることが多いですから。地面もライフラインも補強シートも防水シートも透水管も、一緒にやさしく横に動くゆりかごのようなイメージがあったのですよ、私の頭の中には。ふたりの間ではこれを〝ゆりかご理論〟と呼んでいます(笑い)」

 

アマチュアがプロを負かせた?瞬間でもある。

そのジオダブルサンド工法は特許出願を皮切りに、昨年2月東北経産局の異分野連携新事業分野開拓計画(新連携計画)に認定された。さらにうれしいニュースが続く。昨年12月に国土交通省 新技術情報提供システムNETIS(ネティス)に登録されたのだ。

ジオダブルサンド工法は役に立つ画期的な新技術として、国から認められたのである。

 

「国の新技術として認められ実用化に弾みがつきました。今年からまた新たな本格的なスタートでございます」

 

同工法の場合は研究会を組織し、全国7社と代理店契約を結んでいる。さらに材料の手配や施工範囲を広げるための技術革新も視野にある。「日本は98パーセントが中小企業です。中小企業の力を集めれば何かができると言う事例を作っていきたいです」とも話す。

 

施工が簡単で、価格も安く、優れた強度を持つ『早い・安い・強い』三拍子揃ったジオダブルサンド工法はすでに、千葉や茨城県で試験施工を重ね、この春には宮城県松島市のショッピングセンターで約5000平方メートルの大型採用が決まった。

このほか同工法が、雪国の道路の悩みである凍上災対策としても注目されている。凍上災とは、冬場アスファルトなどの道路下の水(アイスレンズ)が膨張し、道路を隆起させてひび割れが入る災害。補強シートと防水シートを利用して道路の持ち上がりを防ぎ、ひび割れなどが起きないようにする。

先頃、岩手県滝沢市で市道に試験施工し、この春までに効果を取りまとめる予定だ。「雪国では毎年春に行っている冬場に傷ついた道路の補修工事を減らすことができます」とこちらでも自信を覗かせる。

 

今年はまず5万平方メートルの採用を目指すジオダブルサンド工法。茜谷にとってまさに『鬼に金棒、駆け馬に鞭、虎に翼』の年になることだろう。

 

茜谷 聡(あかねや・さとる)氏

昭和31(1956)年生まれ、山形県酒田市出身。身長189cm。東洋大学経営法学科卒業後、都内で2年間のサラリーマン生活を経て帰郷。1981年に実父の経営する株式会社茜谷に入社。現在、同社の4代目社長。

【本社】

〒998-0832 山形県酒田市両羽町3-1

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