株式会社サカタフーズ 代表取締役 今野 博氏

狂牛病騒動、食肉偽装事件…相次ぐ試練も何の其の

これには泉下の諸葛亮孔明も、思わず膝を叩いて乗り出しているのではあるまいか。自ら提唱して頓挫したあの天下三分の計が、現代に蘇り、見事功を奏しているのである。といっても政治向きの話ではない。企業の経営とガバナンス(統治)においてのそれだ。

とにかく今や社員の一人ひとりが一騎当千の兵(つわもの)揃い。

山形県酒田市から全国43の都道府県に向けて、鶏、豚、牛肉を中心とした多種多様な手作りデリカテッセン(調理済みの食品)を、毎日ワンサと送り出しているサカタフーズ今野博社長)である。もちろん業績はずっと右肩上がりで、ここ10期ほどは連続して黒字決算を果たしているという。今野氏の話を軸に、詳しく紹介する。

 

 

50歳にして知った業績管理とコスト管理の大切さ

サカタフーズ 外観

まずは同社がどんな会社か。その辺りから話をはじめよう。

こう言えばピンとくる左党の読者は多いに違いない。主に地域密着型の高級スーパーや中堅のデパート、食料品店などで売られている「懐石つくねしそ」や「懐石つくね生姜」、「懐石つくね桜えび」といった「懐石つくねシリーズ」の製造販売元だ。

懐石と銘打つだけあって、すべて国産の新鮮な若鶏と玉ねぎをベースに練り込み、風味豊かに揚げて、美味しさをそのまま真空パックにしているのが他にはない大きな特徴である。

しかも化学調味料や保存料は一切使わない。それでいて軽く湯煎して皿に盛り付けるだけ。高級焼き鳥店にも匹敵する美味と食感、香ばしさが楽しめるともっぱらの評判なのだ。

 

その分、値段ははっきり言って他社製品より(かなり)高い。普通でも3割ほど。食肉相場の高騰など、場合によっては倍近くの差が出るときもある。それでも年間にして500万本以上売れるのだから、〝お値打ち〟のほどが分かろうというものだ。これにプラスして11年前に始めた「シェフ直伝ハンバーグ」、「ポークハンバーグ」といった「ハンバーグシリーズ」が好調に推移し、

「今では一方の柱として、ドル箱と呼べるまでに成長していますよ」(今野氏、以下同)

早い話が、もはや飛ぶ鳥ばかりか豚も牛も射落とす破竹の勢い、というわけだ。

 

 

上/つくね(プレーン)
下/プレーンハンバーグ

それにしても、言うまでもないがビジネスは商品力がすべてではない。商品力だけで売れるなら、それなりの腕を持った世の中の職人は、誰もが商売上手ということになる。商品力は確かに最重要ファクターではあるが、ビジネスの成否を決するファクターは他にもうんとある。

おまけに時々の世相や事件、労働市場、景気動向といった不確定要素が絡み、文字通り〝山あり谷あり〟だ。現に同社も、これまで幾つもの荒波に晒され、試練を余儀なくされてきたという。

 

「とりわけたいへんな思いをしたのは、例の狂牛病騒動のときですよ。ちょうどハンバーグを始めたばかりで、かなりの設備投資をしましたから本当に慌てましてね。それにおっかぶせるようにして翌年は、大手食品メーカーの牛肉偽装事件でしょ? 消費者から見ると〝肉イコール危ない〟ですからね。そんなこんなで二重、三重の痛手、大きな苦労を背負うことになりました」

 

しかし各方面を取材してみて分かったが、もしその痛手がなかったとすると、おそらく今のサカタフーズもなかったのではなかろうか。というのも、

ハンバーグの製造工程
(上から順に)ミキサー/焼上げ前/焼上げ後/真空作業

「この窮地を抜け出すにはどうすればいいか。そればかり考えましてね。その結果行き着いた先が、ひと言でいうと以前は考えもしなかった業績管理の徹底化です

 

業績は〝結果と言えば結果〟だが、企業は存続してこそ企業であるという観点から言うと、けっして〝風任せ〟や〝人任せ〟にはしていられない。前述したように、それでなくても様々なファクターが複合的に作用するから尚更である。

そこで月別の得意先別実績や商品別実績を細かく割り出し、それを基に予算を組み立て、そのための経営計画を作成し、実際の途中経過をリアルタイムで把握できるようにし、誤差が出てくればその都度計画を修正したり補強するなど、徹底した予実管理が必要になる。

その結果として出てくるのが業績だという考え方である。

 

そんな経営者として当たり前の視点すら、

「なかったと言われても仕方がないと思います。それだけ無知だったんですね。50歳にしてやっとそのことの大切さに気付いたんだから。我ながら酷い話ですよ」

と、氏は苦笑混じりに振り返る。

 

とまれその業績管理を徹底する上で、もっとも基本となるのが損益計算書であり、営業計画書である。売り上げ目標に対して、掛かる経費を勘定科目別にすべて割り出し、それを基にまずは、

「コストとコストパフォーマンスの見直しと見比べを、徹底的に図りました」

今のコストに見合うだけのパフォーマンスが、この従業員に、この設備に、この仕入れに、このラインアップに果たしてできているのだろうか。もしできていなければ……。

 

労働分配率をゼロから見直して適正化する

同社の商品一覧

当然ながら、手を着けなければならない。

 

「最初に手を着けたのは原材料の仕入れですね。私どもでは鶏も豚も牛も地元の高級品を仕入れていますから、目標とした経常利益を上げるには、少しでも無駄を出すわけにはいかないんですよ。無駄を出さないためには何が必要かと言うと、まずは日々の動きや週毎の動きなど、受注動向を極め細かくチェックすることです。

今一つはコストパフォーマンスですね。コストパフォーマンスに優れてさえいれば、普通より高い肉を仕入れて、ラインアップを大胆にいじっても、結果として収益率は上がりますから」

 

例えば焼豚だ。通常はモモ肉でつくるが、本当に美味しいのはウデ肉だということで、同社ではウデ肉を使う。他社がなぜモモ肉にするかというと、価格の問題ももちろんあるが、それより大きいのは焼豚をチャーシューにする際に出る多くの端切れ、つまり無駄だという。

「そこで開発したのがポークハンバーグです。端切れと言っても質のいいウデ肉ですからね。安くて美味しいと、多くのお客さまに喜んでいただいていますよ」

なるほど、一石二鳥とはこのことだ。

 

もう一つ、避けては通れない見直しがある。言わずと知れた人件費である。

「もちろん頭から下げるという発想ではないですよ。そんなことをしたらモチベーションが下がるだけですから。簡単に言うと、もう一度ゼロから費用対効果を正確に割り出し、労働配分率を適正化しようということです。さっきの仕入れも然ることながら、こちらもはっきり言って徹底的にやりました」

 

これまた言うまでもないが、デリカテッセンは一部の調理師や栄養士を除き、典型的な労働集約型事業である。一人のパート従業員が1分間に何本のつくねを串に刺すことができるか。何パック送り出すことができるか。仮に同じペースで売り上げが推移するなら、それらの数字こそが利益を出すかどうかの決め手である。

ある意味で最優先に、そして常に細かくチェックすべき極めて重要なファクターと言うしかあるまい。

ちなみに今現在の配分率は45%以下である。一人ひとりの生産性が格段に上がったことで、残業が完全になくなり、人件費が大幅に圧縮されたという。もちろんその分、そっくり利益が増えた計算になる。おまけに、

 

「生産量だけでなく、生産の質も格段に上がりました。私自身がそうですが、会社も従業員もひと皮どころかふた皮剥けたのではないでしょうか。ちなみに営業マンは僅か三人ですが、その三人で全国43都道府県のお得意さまを担当しています。それもただ担当しているのではなく、アドバイザーとして、店の売り上げアップにつながるような情報やツールをふんだんに持って、日夜あちこちと走り回っていますよ。内勤の社員も、パートの従業員が気持ち良く、効率良く働けるよう、きちんと指導できるようになりましたしね」

 

まさに一騎当千。絵に描いたような〝経営革新〟である。

さて、利益が増えたところで、冒頭に書いた〝天下三分の計〟だ。

なんとその増えた利益を〝見える化〟した上で、三分の一を社内留保に回し、三分の一を設備や建物の保守管理費に当て、残りの三分の一を、それぞれの活躍度に応じて社員に還元(決算手当)しているというのだ。こういった発想力といい、決めたら必ず実行するクソ力といい、これぞ〝庄内おどご〟の面目躍如と言っていいだろう。

 

 

今野博(こんの・ひろし)氏…1950年生まれ、山形県酒田市出身。鶴岡工業高校卒。卒業と同時に上京、海上自衛隊をスタートに、東京で医療機器の開発会社を経て酒田市に戻る。事務機器の販売会社で営業職に従事、その得意先の畜産業者から誘われたのがきっかけで、食肉関係の業界に身を投じる。業界ではいろいろな会社に籍を置き、食肉会社の設立にも参加。しかし退職する結果に。事務機で身を立てようと考えていた時に、一緒に食肉で会社を設立しようと誘われて、1983年、サカタフーズを設立し、代表取締役に就任する。庄内工業技術振興会会長、酒田法人会平田支部長、さかたふれあい商工会理事。ほかにも、日本青年協会評議員など多数の公職を兼務する。

株式会社サカタフーズ

〒999-6701 山形県酒田市砂越字上川原507

TEL 0234(61)7900

従業員数:33名