◆取材:加藤俊 / 撮影:石塚裕介

ALISのWEBサイト

 

数年後には、くだらない記事広告や提灯記事は駆逐されているかもしれない。

良い記事を書いた人が賞賛され、きちんとした代価を得、その良い記事を最初に発見し拡散した人にもお金が入る。そんな仕組みを考えたのがALISだ。

 

4分で1億円を調達

2017年9月。ALISはIPOにおける目論見書にあたるホワイトペーパーを認め、仮想通貨による資金調達ICO(Initial Coin Offering)を行った。その結果は華々しい。

 

多くのメディアが日本発ICO事例として取り上げ、「4分で(日本円にして)1億円を調達」という字面がWebを駆け巡った。最終的には、Ethereum(イーサリアム)で13,182ETH(約4.3億円)、参加者は4381人に及んだという。

 

これは、Google Analyticsを参照するに、実に100カ国近い国々からのアクセスがあったとのこと。つまり実績も何もないスタートアップが、クロスボーダーな資金調達を行うというICOの可能性をまざまざと証明してみせたのである。

想えば、これもまた仮想通貨元年となった昨年のエポックメイキングな一幕と言えるだろう。

 

 

仮想通貨に込められた想いとは裏腹に……

その2017年は、まさに仮想通貨狂騒劇といった有様で、ビットコインを始め多くのアルトコイン銘柄の高騰や暴落というボラティリティの大きさ故に、一攫千金を夢見る人が乱入し、悲喜こもごもとなったことは記憶に新しい。

 

ビットコインといえば、2012年12月には15ドル前後で取引されていたものが、それが昨年末には2万ドル近くまで上昇。5年間で1300倍以上にまで価値が高くなったことになる。それに連れてその他の仮想通貨も一年で4000%も上昇、数日で価格が2倍になるなどの伸び率を示していた。

しかしそれも束の間、クリスマス前後からビットコインの下落が始まり、一ヶ月で価格が41%の急降下、世界全体で仮想通貨の時価総額は約50%から70%減少したとも言われている。

 

そして記憶に新しいのが1月26日に判明した、仮想通貨取引所「コインチェック」からの流出事件だ。

約580億円相当の仮想通貨NEMがハッキングによってコインチェックから流出し、マスコミを中心にそのセキュリティのずさんさが喧伝され、しかし、それでも日々仮想通貨の相場は動き、ニュースに載らない日はない。

日本政府や世界各国もその動向に注目しているという仮想通貨市場。18年もまだまだ劇的な幕が上がりそうなこの界隈。

 

 

かつて、暗合学コミュニティの多くのリバタリアン達がサトシ・ナカモトの論文に、文明のステージを大きく発展させるだろうと期待した仮想通貨の可能性、これで中央集権化を逃れ個人が尊重される真にトラストレスにしてディセントラライズドな通貨が誕生したという想いとは裏腹に、

気づけば闇紳士やここ数年は暫く鳴りを潜めていたハズの情報商材畑出身者といった、それこそ瞳の奥に円マークしか覗けないような連中の跋扈と、今日の有様は、およそ当初の青写真とはかけ離れてしまった。

 

この現状を嘆く人は確かに多い。

 

それでも、世界的にみれば、多くのスタートアップがICOを行い、巨額の資金調達を成功させ、企業の在り方そのものが変わり始めたことは紛うことなき事実だ。

さらに国としてもベネゼエラが、国際原油価格の低迷や米国の経済制裁などによる外貨不足で、大規模なデフォルト(債務不履行)に陥る可能性を払拭するためICOを行うという香ばしい事態にまで発展。

さらには、こちらはEUとの関係上どうなるかわからないが、IT大国エストニアのICOと、ワクワクするような要素がたくさんある。

 

そして日本国内に目を向けると、更に面白いことがある。

 

 

仮想通貨狂騒劇 熱狂者は誰なのか?

それは、日本国内でこの一連の狂騒劇に酔っている人の多くが若者という点だ。しかも、多くが20代だったりする。

彼らに話を聞くと感じるのだが、彼らが吸っている空気は、アジア各国に足を運ぶと感じる空気と同質だ。あの誰しもが自分たちの未来に夢を見ることができているイケイケどんどんな景気の良さ、マリオで言うスターマリオ状態、万能の無敵感。その空気と同じものをこの界隈の若者に感じることができるのだ。

これは、多くの若者が将来を悲観し諦念している日本に於いて、まるで一つのエアポケットとして穿たれ現出したアルカディアなのだろう。

 

ただ、これを既視感でもって、「ああバブルだね(笑)」と喝破し、嘲笑することは早計だ。昨今の若者は国に縛られない。簡単にクロスボーダーし、エストニアに移住したり、まさにリバタリアンという有様なので、同じ顛末を辿るのかはわからない。

 

はたして、仮想通貨やICOの行方はどうなるのか?

 

今、最も多くの人が注目するこの問いに、別の角度から光を当てる人々として、ALISの安昌浩CEO水澤貴CMOに話を聞いた。

 

写真左から ALIS 安昌浩氏、水澤貴氏

 

―ALISのソーシャルメディアプラットフォームはどうやってその価値を高めていくのか?

 

私たちが注目しているのはWebメディアです。日本は一部のWebの信憑性が低い。

残念ながら、よいのも悪いのも雑多に混ざっています。多くのメディアが、記事広告や純広告に頼っています。この状態では本当に良い記事が評価される構造とは言い難い。

 

 

 

アメリカでSTEEMが誕生した時、これは日本に於いても真に良い情報が拡散される仕組みを作るべきだと感じました。ALISが今年4月にローンチを予定しているのは、NOTEやCAKESのように信頼できる良い記事を掲載し共有できるSNS。このSNSに良い記事を掲載した人と、そしてそれに真っ先に『いいね!』を付けた人にALISトークンを配布します。

 

―そうすることで、良質の記事が高い評価を得られ、その記事を書いた人にも評価を与えた人にも利益が得られるということか?

 

はい。それにはネット上の『目利き』みたいな人たちが重要な役割を果たします。今までのメディアのマネタイズは広告とアフィリエイトがほとんどです。

しかしそれだとツマラナイ記事でも過剰なアピールやテクニックで視聴数を稼ぐやり方が横行することになり、結果WEBメディアの信憑性を下げることになった。

 

ですから本当に良い記事に『いいね!』を集めることでプラットフォーム全体の価値を上げ、同時にそれを選び取る目を持った『目利き』たちにも利益を提供する。

勿論、プラットフォームの価値が上がればそこで流通しているALISトークンの評価も上がり、市場価値も上昇する。メディアの信頼性をトークンによって可視化する、ということです。

 

今後は飲食や家電、旅行分野などのような口コミサイトとしても活用できるようにしたり、メッセージ機能を付けて質問に答えた人がトークンを得られる、なんてことも考えています。

 

 

新事業を始めるための「仮想通貨」

―最近の報道ですっかりイメージが悪くなった仮想通貨だが、そもそも仮想通貨を利用することにどのようなメリットがあるのか?

 

仮想通貨というのは現代まで使われ続ける現金が、その価値の保証に中央銀行の存在を必要としていたことに対して、インターネット上での取引記録を元に価値を保証する『ブロックチェーン』に立脚しています。

 

例えば日本円は日本の中央銀行である日本銀行がその価値を保証しているから通貨として利用できるわけですが、インターネットを介して不特定多数の利用者が直接つながり合ってトランザクションを共有することで信頼性を担保できるので、国が保証する必要がなくなるかもしれません。

 

また、ブロックチェーン技術と併せて、自販機をイメージしてもらうとわかりやすいのですが、契約の自動化や条件確認や履行までを自動的に実行できるスマートコンストラクトの概念も重要です。

売買や契約をプログラムに組み込み、高速・自動で行なえるようになった。この二つの技術によって、仮想通貨の市場は急速に発展しました。

 

 

―となるとFXトレードのような相場変動で利益を得る対象としては考えにくい、ということか?

 

水澤 現在、coinmarketcapには1500以上の仮想通貨があると言われており、これらの中で『真に必要性のある銘柄』を選び取ることは至難です。

 

 

値動きが大きく価格の上昇が激しいのが魅力だと思われていますが、そもそも仮想通貨のメリットはそこではありません。

 

―ではALISが考えている仮想通貨のメリットとはどこにあるのか?

 

 

それがこのALISを立ち上げたきっかけでもあるのですが、仮想通貨はICOによって新しい可能性を持った。

私たちは昨年9月に新事業立ち上げのためにICOを開始し、Ethereum換算で約4.3億円(当時)を世界100ヵ国以上から調達する、という実績を挙げました。

スタートアップにとって、ICOは大きな可能性があると思っています。 ICOは良く資金調達として捉えられますが、事業開発の方法です。資金のみならず、同じ課題を抱えた熱狂的なユーザがプロジェクトを共創してくれる。

これはまさにベンチャー企業が初期に必要とする要素を満たしてくれるものです。VCがリスクを考慮して投資しなかったような案件でも、今後はICOで資金を集められるようになるでしょう。

 

 

―ICOというと、議決権を渡さなくてよいので、経営サイドからしてみると、非常にありがたい仕組みに想えるのだが?

 

水澤 それは、何もわかっていない考えですね。確かに議決権は渡しませんが、ICOに参加してくれたコミュニティからの期待や応援は、裏返せば非常に大きなプレッシャーにもなります。

こうやって、Slackで日々コミュニティメンバーとチャットするのですが(そういってPC画面を見せてくれた水澤さん、そこには世界中の人々からのアツいメッセージが寄せられていた)

僕らに可能性を感じてお金を投じてくれた人たちの想いを裏切ることなど絶対にできません。

多くて数人のVCの顔色だけを見ていればよい、従来の方法の方が、プレッシャーとしては軽い場合もあることだけは、お伝えしておきたいです。

 

 

自ら仮想通貨の価値を高める……ICOという方法

―今一度ICOの説明をお願いしたい

 

ICOは『トークン』を発行し、資金を集める方法です。私たちはALISトークンを発行して資金調達を行いました。ALISトークンはソーシャルメディアプラットフォームとしてのALISがローンチすることで、持っている人間に報酬が与えられる。その点では未公開株に近いものです。

 

しかしICOの場合、ネット上での市場価値によってトークンの価値が変動します。

ALISが価値のあるソーシャルメディアプラットフォームであればあるほど、そこで流通するALISトークンの価値も上がる。ですから所有者がネット上でプラットフォームの価値を高めることで自身の資産も高まる、という相互の利益を生み出すことができます。

 

 

日本が世界でビジネスを広げる最も可能性のある選択

 

―ALISが考えているような可能性がある仮想通貨だが、日本や世界ではどのように見ているのか?

 

元来ブロックチェーンはオープンソースですから、各国はそれをどのように利用し経済に還元しようかを考えています。

しかし、日本ではブロックチェーン産業はイマイチ不透明。一部のプレイヤーが全て握っていて、これだけ全員に利益を還元できるシステムなのに有効活用されていません。詐欺っぽい話も多いですし。

 

実はブロックチェーンを知った私と石井が昨年5月、お酒を呑みながら『海外からこんな破壊的な技術がやってこようとしているのに、なぜ日本はこんなガラパゴス的な方法をし続けているのか』と盛り上がって、当時まだ大手人材会社に属していた水澤を引っ張り込んでスタートしたのがこの会社の発端なんです。

 

―コインチェック事件は海外から注目されていて、CNNは「仮想通貨史上最大の盗難」、フィナンシャル・タイムズは「仮想の盗難に当惑する『仮想通貨に熱狂する日本人』」という記事を掲載している。海外からは日本の仮想通貨市場はどう見られているか?

 

日本は世界に先駆けて仮想通貨を通貨として定義する法律を作ったことで「仮想通貨大国(一部では、仮想通貨天国)」になっています。

だれでも仮想通貨を手に入れることができる。英米の大手銀行はクレジットカードで仮想通貨を購入するのを禁じています。

これは乱高下する仮想通貨で返済ができなくなることを恐れた対応です。また中国では昨秋、本土での仮想通貨取引所の営業を禁じました。

これは過剰な熱狂を抑え込むための措置でしたが、中国の投資家は今、まだ規制の緩い日本市場に手を伸ばしてきている。このように日本市場は、世界で最先端であり動向が最も注目されている存在です。

 

 

―今回のコインチェック事件の推移をみると、ポジショントークをする人や、取引所間の攻防、はては陰謀論など様々な噂が噂をよんでカオスと化している。ALISとしてはどう見ているのか?

 

これは本当に悲しいことです。この仮想通貨界隈というのは、まだまだ小さなコミュニティにすぎません。コインチェック様にしてみても、みんな市場を共に作る仲間です。本来はみんなが一丸となって、この業界を盛り上げていかないといけないタイミングなんです。

だって、将来が悲観されるこの日本社会にとって、仮想通貨やブロックチェーンこそ課題を解決できる大きな可能性をもっているからです。

 

何より仮想通貨というのは、そもそもの思想からして、誰かに責任を押し付けない、委ねない、各個人がそういった強さを持つことが根幹にある、ディセントラルな自己責任の世界です。

ビットコインの手数料が高まり、スケーラビリティにかける点や、ボラティリティの大きさから投機目的として見られてしまう、そういった歪みが、今回の事件を契機に是正されていくと信じたいですし、そういった文脈上で、仮想通貨の歴史に於いて、意味のある事件だったと捉えたいです。

 

 

―しかしマウントゴックス事件(2014年)や今回のコインチェック事件で、日本国内ではイメージが良くない。法規制をどう捉えるか?

 

水澤 はい。ですが、関係者の中にも様々な意見があるのだと思います。仮想通貨こそが日本を救うと感じ、なんとか法規制をかけない方向で纏めようとしている方、コインチェックのような大きな事件が起きても、必要な部分の改善を促すくらいで法規制を厳しくしようとはしていない方がいらっしゃると期待しています。

世界的にはウォレット(仮想通貨の口座)への規制はしようという動きがあるので、それに追随していくことはあるかもしれません。

日本は経済が30年近く衰退し続け、労働人口の減少など、良い要素がない。ですから仮想通貨市場の拠点として世界をリードしていくことに活路を見出している。

マウントゴックス事件は当時世界の70%のビットコインを扱っていた市場で起きた事件でしたが、今回のコインチェック事件は、時価総額40~70兆とするなら、500億円、約1%ほどでしかありません。

この業界はまだまだ発展途上です。初期不具合、乗り越えるべき瑕疵だと思っています。

 

 

―日本経済を再生させるカギだと? 国内の市場は一部投資家が専有していて、法制度もままならない。そういう歪んだ状態にあるという見方か?

 

繰り返し言いますが、これが日本がリードできる最後の分野ではないか、と考えています。

それなのに今、投機的に買いまくって、それで暴落の直撃を受けている。外国の食い物にされているだけです。

今後は日本の中で、という小さなパイを取り合っていても埒が明かない。

世界は仮想通貨市場に注目はすれど恐れてはいない。ですから日本で世界と渡り合える市場を創り、そこに世界から資本を集める。それで世界と渡り合っていく。

ネットでも金融でも負け、人口も減り破綻しそうな状態にある日本の、最後の武器になるのではないかと考えています。

 

―仮想通貨の持つポテンシャル、可能性が具体的に見えてきたが、最後に今後の目標について教えてほしい

 

今後、法制度がどのように整備されていくか分かりませんが、唯一言えるのは、今まで金額でのみ計られていた価値が大きく変わる時代になっているということです。

お金は代替指標です。過去に自分が頑張ったことや、先祖が頑張ったことが価格として残っている。

しかし今後は、今まではお金にならなかった「ムダな」人生経験にも価値が付与できる時代になる。

 

20年間ゴミ拾いを続けましたという経験や、金銭関係ではなく多くの人の手助けをすることを続けた人の知識が評価され、結果として利益が得られる時代になる。

 

今、海外にALISアンバサダーという人たちを置いているのですが、彼らは積極的にALISのプラットフォームを改善し、価値あるモノにしていこうと提案してきます。これからは企業なども参加してもらい、相互に高め合っていく。

新しい感覚で、世界が変わるのに任せるのではなく、自分たちで世界を変えていきたい、と思っています。

 

―ありがとうございました

 

  

仮想通貨やブロックチェーンに詳しい中島真志麗澤大学教授は仮想通貨に関して「紙幣を刷るよりも安全な技術だ」と発言している。

今、価値観が見直される時代になっている。その先頭を歩む彼らには、新しい世界のカタチが見えている。

 

安昌浩 Masahiro Yasu)

Founder / CEO

京都大学において核融合の研究を専攻し、ヘリカル型プラズマのアルヴェン固有モード励起のパターンをFortran言語で解析。 2011年株式会社リクルート(Indeedの親会社)に入社し、ビジネスSNS・名刺管理アプリ・リファラルツール等の事業戦略、 新規事業開発、開発ディレクションを行う。また、機械学習や自然言語解析等にも積極的に取り組み、2016年リクルートグループの 企画に贈られる最高賞のGROWTH FORUMを受賞。日本マイクロソフトとの共同プロジェクトのプロジェクトリーダーも兼ねる。 ブロックチェーン技術に出会い、AI・VRよりも世の中の進化スピードを早められる手段だと確信し、ALISを立ち上げる。

 

水澤貴 氏(Takashi Mizusawa)

Co-Founder / CMO

大学在学中にベンチャー企業を立ち上げ、世界的な教育企業であるベネッセコーポレーションでキャリアをスタート。 入社後わずか1年目にして全社の年間MVPを受賞し、学生向けSNSや学習用タブレットの新規事業開発を6年間経験。 その後、「学ぶ」と「働く」の接続を目的に日本のHR業界で最も有名なリクルートキャリアへ転職。 MOOCやリファラルツールの事業開発を担当している。一貫した社会的ネットワークへの関心と教育&HR現場でのネットワーク理論の転用経験から、 一人ひとりの持ち味が発揮されやすいエコシステムの実現を目指す。

 

ALIS Co.,ltd

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