【今、この人に聞きたい】

底抜けに明るい。

しかも半端でなくアツい。

それでいて言葉の端々から窺えるが、恐ろしく理知的なのだ。

 

「いつ倒産してもおかしくなかった筈」(関係者)という家業の町工場を弱冠28歳で引き継ぎ、わずか5年で借金体質から完全脱却、千葉県内でも有数の優良企業につくり変えた岡征俊氏(38歳・日本クロス圧延取締役社長)だ。

 

その岡氏から話を聴いた。

テーマはズバリ、事業承継、後継者問題である。

 

 

事業承継・後継者問題に〝解答〟乱麻を断つ!?

 

──のっけから暗い話で恐縮ですが、小誌の調査では、60歳を超えた中小零細企業を経営する人たちの約半数が後継者問題で悩んでおり、一方の(後継者と目される)ご子息側も、約4割が「継ぎたくない」と答えています。この現実をどう見ますか?

 

岡氏 暗いとか明るいとかという話ではなく、今の景況感や世相から言っても、ま、妥当なところじゃないでしょうか。

その現実をしっかりと受け止めて、それが何故どう後継者難につながっているかを冷静に分析し、問題点をはっきりさせたうえで、それを乗り越えるべく手を打つこと。それしかないでしょうね。

こう言ってはなんですけど、私だって継ぎたくなんかなかったですよ、本音は(笑い)。

 

 

──ではその、ご自身の体験からお話しいただけませんか。

岡氏 まず最初に言っておかなければいけませんが、うちは田舎(千葉県茂原市)ですからね。同級生やなんか、みんなもそうでしたけど、工場の息子は工場を、農家の息子は農家を、商家の息子は商家を継ぐものと思っていましたよ。ほかに選択肢はありません。

そんなわけで私も大学を中退して帰ったんです。とくに「帰ってきてくれー」って頼まれたわけじゃありませんけど、苦しいのは東京にいてもはっきり分かりますからね。仕方なかったんですよ。

 

だってほら、家族っていうのはある意味、タダで使えるじゃないですか。

でも、私もまだ若手のうちですけど、今の若い人はおそらくそうは思わないでしょうね。はっきり言ってドライですよ。

家業を継ぐのがいいか、給料取りになるのがいいか、何より先にそれを天秤にかけて判断しますから。

 

 

──自分勝手、ということでしょうか。

 

岡氏 いえ、当然のことです。

だって息子も大人になったら社会人としての、国民としての義務を果たさないとダメじゃないですか。結婚して子供ができたら尚更ですよ。

それを考えないで、闇雲に親の後を継いで共倒れになっては何をか言わんやですからね。

 

親の側もそのことをしっかり分かったうえで息子と向き合わないといけないですし、息子の側も、そのうえでどう親に恩返しをするかという方向で考えるべきだと思いますよ。

だってほら、仮に台所が火の車であろうがなかろうが、そこに自分が継ごうと思ったら継ぐことのできる、技術も顧客もノウハウもある工場があるわけですよ。

 

このことは、何もない普通のサラリーマンの息子に比べると凄いアドバンテージですよね。

 

 

──おっしゃる通りです。では具体的にどうすればいいとお考えですか?

 

岡氏 ひと言で言うと、「親子で明るく楽しく夢を語ろうよ」ですね。

 

将来を見据えたポジティブな話を親子ですることですよ。

親は、自分のやってきた事業を息子に継がせたいと思ったら、そのままの形で継いで欲しいなんて思わないことです。むしろそんなことしちゃあ潰れちゃうよぐらいの気持ちになったほうがいいと思います。

だって会社の寿命なんて普通は30年ですよ。自分の代で全部使っちゃってるじゃないですか。現状が自分の限界だと、まずは胆に銘じることだと思いますね。

 

一方、息子は息子で、さっき言いましたように大きなアドバンテージを親から貰っているわけですよ。

これを生かせる手を考え付いたら、これからの人生が楽しくてしょうがなくなる筈です。

そのためには勉強することです。

この会社のどこにどんな問題があるのか、どんな得意技があるのか、社会的にどう位置づけられるのか、それと外の技術やシステムとどうコラボできるのかとか、さまざま情報と情報を組み合わせて可能性を探るわけですよ。

目先の損得に囚われないでね。そのうえで、親子で会社の将来について語るんです。

こうなると、結果的に継ぐか継がないかはともかく、少なくとも事業承継、後継者の〝悩み〟は一遍に吹っ飛んじゃいますよ。

 

 

──なるほど。実際に体験されたうえでの話だけに説得力がありますね。

でも仮にそうするとして、これだけはやっちゃいけない、またはやらないといけないというツボのようなものがあるかと思うんですが……。

 

岡氏 金とか生活とか、目先のみみっちい話に終始しないことです。

金と生活は後からついてくる、でいいんですよ。

それよりはアツい夢を息子が語るようにすることですね。ギラギラとした夢を。親の役割は、息子がそう考え、そうするように持って行くこと。これに尽きると思います。それを言葉や態度で持って行くか、さりげなく退いてそのように仕向けるかはそれぞれですが。

 

 

──ありがとうございました。益々のご発展をお祈りいたします。

以上。この稿に対してご意見があれば、編集部までお寄せください。必ずご返答、または誌面にてご紹介させていただきます。

 

岡征俊(おか・まさとし)氏

■ac略歴…1973年生まれ。株式会社日本クロス圧延取締役社長。

 

株式会社日本クロス圧延

(千葉県茂原市)

TEL:0475-22-4151

URL:http://www.atuen.com