日本の企業のうち、99%以上を占めるのがいわゆる中小企業だ。

周知の通り、日本の高度経済成長を支えてきた立役者たちはいま、窮地に立たされている。昨年から続く円高傾向、東日本大震災、タイ洪水……。

だが、日本のモノづくりは強い。

そんな状況などなんのその、「円高?そんなの、大手企業が心配することでしょう」と言ってのける経営者もいるのだ。

 

 

日本の中小企業モノづくりを取り巻く経済状況

現在の日本経済は、波乱ずくめだ。

株式市場だけを見ると、日経平均株価は2月22日には終値で9500円台、24日には9600円台乗せと、今年に入ってからの最高値を記録。終値ベースでいえば昨年夏以来の順調な回復を見せている。

市場関係者のなかには、「春を待たずに1万円台回復もある」と強気な意見も多く聞く。

 

だが、これはいわゆる「不況下の株高」。いまのところ株価と連動した「好景気」の気配は感じられない。

 

一歩引いた視線で見てみよう。

実は、株高は世界規模で進行している。

日本だけの問題ではないのだ。

結論から言ってしまえば、この「世界同時株高」は2008年に勃発した米大手証券リーマンブラザーズ社の経営破綻と、それを起因として広がった世界規模での不況、いわゆるリーマン・ショック後に日米欧が実行した三極同時の量的緩和による〝カネ余り〟が最大要因、とされているのである。

 

日経平均株価を大きく動かすのは225社の企業業績ではなく、あくまで株式需要。

優良企業、高成長企業が順当に買われる業績相場より、潤沢な金銭供給によってもたらされる金融相場のほうが広い範囲の業種、銘柄が循環的に買われる。

結果として、それが持続的な相場となりやすいのだ。

特に金融、不動産、メーカー株などの時価総額上位の「大型株」が必ずしも業績とは関係なく買いあげられていくのが特徴。トヨタなど大手メーカーの株価にその兆候が出ている、とも聞く。

つまり、「日経平均株価の上昇=景気回復の予感」ではない。日々、株価に一喜一憂するのは無駄なことなのだ。

 

そんななか、ある経営者は言う。

「私から見れば、株価の変動にしても為替にしても、『まったく把握していない』のは問題だとしても、いち中小企業のモノづくりがその都度反応したり、動揺するようなことではない。それは、大手企業の役目です」

なんとも正直な意見であろう。

 

〝金型のパイオニア〟  2代目の人柄とは

前述の経営者の名は、鈴木工業株式会社の代表取締役を務める鈴木恒太氏。

同社は1964年、群馬・太田市で創業して約半世紀となる金型メーカーである。

「誕生以来、一貫してプレス金型の設計、製造を手がけている」という、金型、プレス加工のパイオニアだ。

 

2代目となる同氏は中小企業の後継者によく聞かれるような「同業他社等での修業」は行わず、大学在学中から鈴木工業で研修を始めた。

「ほかには染めない。それが、父の方針でした。私にも息子がいるのですが、その考えを受け継いでどこへも出さずに当社で仕事をさせています」

 

それは、どういった意図があってのことだろうか。疑問に思い尋ねると、

「私がその方法でうまくいったから、としか言いようがありませんよね。ほかの方法は知らないので」

鈴木氏はそう言って照れくさそうに笑う。そこからも分かるように本当に素直でストレートな人柄の持ち主なのだ。

 

鈴木工業の創業は高度経済成長まっただ中。

時代の後押しもあって金型はもてはやされたが、「需要が最も大きかったのは自動車メーカーだった」とのこと。その流れはいまも続いている。

「相手が世界的な自動車メーカーであるのは重々承知していますが、タイ洪水、円高の余波で『コストの削減をお願いしたい』と言われるのは腹が立ちますよね。

こちらは手を抜いているわけではないのに、いままでの数倍、仕事をしないとリーマン・ショック以前の売上が出せない。

さほど困窮しているわけではないので他社さんに比べたら文句を言うのは贅沢かもしれませんが、『おかしいなあ』と思うことばかりですよ」

 

表現は正直だが、表情は明るい。

ある種の「諦め」がそうさせるのかもしれないが、実際には「売上が順調である」ことの証であり、先の「困窮していない」とは謙遜の表現なのだろう。

そう問うと言葉を濁したが、「とはいえ、いくら取引先に不満があっても私たちはモノづくり。やるべきことは技術と質の向上であると思っています」と力強く話してくれた。

 

 

あくまで「メイド・イン・ジャパン」にこだわる

鈴木氏には、モノづくりとして絶対のこだわりがある。

それが「メイド・イン・ジャパン」であるということ。

「最近になって大企業だけではなく、中小企業のなかにも海外進出を図るメーカーが増えていますが、現実的にその成果はどうでしょうか」

 

同氏の持論は、「日本人の技術は海外では育たない」である。

「例えば、技術がウリのある企業があるとして、そこで働く技術者、使用している機械、工具、部品、すべてを持ち込んで海外に行くのであれば成功できると思います。

しかし、異なる機械を使用したり、それどころか『現地で技術者を一から育てる』なんてことは不可能ですよ」

 

さらに、「極論を言えば、中国産のベンツを買いたいと思う人がどのくらいいるか、ということ。おそらくいないでしょう」と言う。

トライプレス

それは決して、国そのものや国民性を批判しているわけではない。

その国、土地の持つブランド性があるか否か、なのだ。

 

酒類で例えてみよう。発泡ワイン「シャンパン」はフランスのなかでもシャンパーニュ地方で生産されたブドウを使用し、規定の製法で製造されたもののみに与えられる名称。製造法がまるで同じであっても、他の地方のブドウを使ってつくられた発泡ワインは「クレマン」と呼ばれる。

その差はフランス国内でも明らかであり、味そのものより「モノの価値」として大きく表れる。

 

「その点でいえば、『メイド・イン・ジャパン』には大きな価値がある。日本でつくられたというブランド力。それこそ、日本のモノづくりにとって最大の武器なのですよ」

 

同氏のこだわる、メイド・イン・ジャパン。

だが、それは「ただ国内でつくるとの意味ではない」のだ。前述の通り、鈴木工業は努力している。

国内でいかに最高質、かつ低コストの製品を生み出すことができるか、それを日々探究し続けているのだ。

 

 

夢の「世界一周」に向けて、今日も……

鈴木氏が代表取締役に就任してから、今年で約20年。

以来、鈴木工業ではさまざまな取り組みに果敢に挑戦してきた。

近年でいえば生産の効率化や得意先各社のニーズに応えるため、設備機械の整備に全力を傾け、新社屋・工場を建設。そして更なる効率化を目指してCIM(コンピュータ統合生産)を積極的に推し進めてきた、と聞いている。

CIM

 

「『現状維持』では、先のことに対応できないですからね。『常に一歩先へ』の精神があるからこそ顧客のニーズに対応できるのだと思います」

同氏の経営姿勢は実にアグレッシブ、と思いきや「いや、中小規模で海外に乗り込もうと考える経営者のほうがよっぽど強気。逆にいうと自信がない、ばくちをしない性格だから国内で研鑽していくしかないのです」と控えめな答え。

確かな品質に加えて、謙虚なものの考え方。それがあるからこそ、鈴木工業は多くの大手企業に選ばれるのだろう。

シミュレーション検討

 

さらに前述の「取引先からのコスト削減提案」に対しても、文句は言いつつもすでに先手を打っているところがすごい。

「工程のなかでも特に、難加工材向けのプレス金型の設計工程改善を目的とした取り組みを現在進行中」と鈴木氏。

 

具体的にどのようなことかと尋ねると、にこりと笑い次のように話してくれた。

「金型は、まさに古くて新しいモノづくり。変わらないように見えて、実は移り変わりが激しいのです。

父の代から受け継いだ技術、製法を守ることも大切ですが、時代の流れを追うことも重要。

いまはコンピュータなどを用いて完成品の精度を解析することも可能ですから、何が必要で何が無駄であったかを調べることができる。それを最大限に生かした取り組み、とでも言いましょうか」

そういった「もったいぶらせるような前置き」からも、同氏の自信が感じられる。

 

鈴木工業で進行中の挑戦、それを一言で言うと「最終工程である金型の修正作業を現在の平均3、4回から最短で1回にまで削減すること」とのこと。

「すでに成功している」と言う、その得意げな表情に思わずこちらまで嬉しくなってしまう。昨今、自動車業界では「軽量化」が進められている。それを背景にし、高張力鋼板と呼ばれる難加工材の採用が増えているのだ。

同社の今回の取り組みは、まさに「時代の一歩先行くもの」であるといえるだろう。

 

「夢を抱けないような場所に若者はきませんから、日本の金型加工という技術を消滅させないためには『この仕事に就きたいな』と思わせるような業界にしておかなければいけませんよね。

私は日本の狭さが好きだし、それを最大の利点と思っています。『日本の製品が一番』『メイド・イン・ジャパンがほしい』と、コスト面だけではなく、モノづくりとして選ばれる国でありたいです」

 

本当にその通りだ、と、うなずいてしまう。

売上先行でモノづくりとして大切な心を失っているメーカーにも、ぜひ聞かせたい言葉である。

 

最後に、現在の夢を尋ねるとこれまたあっさりと答えてくれた。

「3代目となる息子に早くバトンタッチして、悠々自適に暮らすことです。世界一周をするのが夢なんですよ」

その夢を叶えるため、今日も鈴木氏はモノづくりを続けている。

 

鈴木恒太(すずき・つねた)氏

1954年、東京都杉並区生まれ。高校を卒業後、日本大学農獣医学部入学。

在学中から家業である鈴木工業で技術を培い、1980年に正式に同社に入社。

1992年、父であり創業者の恒久氏に代わり、代表取締役に就任し、現在に至る。

 

 

鈴木工業株式会社

〒373−0847

群馬県太田市西新町135−8

TEL:0276(33)9533

URL: http://www.suzuki-kg.com/