旧来の待ち一辺倒の製造から自社ブランドの開発・市場投入へ

何をつくり、どう見せて、どのように提供するか。その的を射てさえいれば国内の需要はまだまだ伸びます──。

 

はっきりとそう断言するのは、電機、医療機器など大手製造業々界では知る人ぞ知る精密板金メーカー、富祥(神奈川県伊勢原市)の新社長にこのほど就任した近藤武也氏だ。富祥といえばここ4~5年、旧来の〝待ち〟のモノづくりから〝攻め〟のモノづくりに転じたことで何かと話題の会社だが、自らをコンシェルジュ(案内・紹介人)と称し、先頭に立ってその旗を振ってきたのが、実はこの新社長である。その先に見据えているものは果たして何か……。

精密板金のコンシェルジュ 株式会社富祥/代表取締役 近藤武也氏

 

高い技術力今や必要条件ではあるが十分条件ではない

まずは氏の言う、的を射てさえいれば国内の需要はまだまだ伸びる、ということの典型例をひとつ挙げておきたい。

 

トヨタが去る9月5日に発売したセダン型ハイブリッド(HV)車、「新型カムリ」だ。同月末までの受注が5000台を優に超えたというのである。これは近年の新車発売の滑り出しとしては驚異的といっていい。ちなみに同社の目標は500台だったそうで、ついでにいうと先代のガソリン車カムリは、昨年1年間で1100台余りしか売れていない。この大きな違いはいったいどこからきているのか。

 

関係者によると、

 

「高級車ウィンダムからの乗り換えがたいへん目立っている。プリウスより大型のHVということで、セダン車志向のユーザーの心を掴んだのでは」

 

「HVにくわえ、先代カムリには足りなかった存在感や高級感が増した」

 

早い話が、車好きだが環境問題も憂慮している今どきアッパーミドルのニーズに、ピッタリ嵌ったということだ。まさに氏の話にドンピシャ、というほかあるまい。

 

「技術力さえ高ければあとは何でもいいという話にはなりません。せっかくのいい技術であればあるほど、それに相応しい〝見せ方〟も工夫すべきですし、どういう相手のどういうケースでどう提供するかも念頭において、きちんとプレゼンすべきだと思うんです。より高度な技術力はもちろん、これからはそれらすべてを包括して描ける、広い意味での優れたデザイン力が求められるのではないでしょうか」(近藤氏、以下同)

 

要するに今や、高い技術力はモノづくりを続けていく上で必要条件ではあるが、けっして十分条件ではないということだ。いわゆる叩き上げで昔気質の技術屋さんが聞くと、バカヤロー!なんてことにもなりかねない話だが、会社の存続と雇用を任された責任も権限もある経営者としては、至極もっとも、当然の考え方といっていい。

 

ただし氏の言うその考え方には、実はそれ以外にも重要な意味を含んでいる。創業以来続けてきた〝待ち一辺倒〟の下請け製造だけではなく、直接エンドユーザーに向けた独自のマーケティングと最終製品づくり、そして自社ブランドの立ち上げに向けた、大転換宣言でもあるのだ。

 

紙巾の関係もあるが、その辺りは簡潔にでも述べておかねばなるまい。

 

旺盛な開拓者精神
最先端機器を業界に先駆けて導入

先年、新築したばかりの本社工場のエントランスに立つと、まず目に付くのが「Castello」と大書きしたパネルの下に立ち並ぶ、数個の細長い筐体である。訊くとなんと、狩猟やクレー射撃などの銃を保管するガンロッカーだという。

 

「自社ブランドの製品として立ち上げた第1号です。売り上げ額としてはまだまだこれからですが、精度の高い振動センサーや、ガンロッカーとしては初めての指静脈認証装置がついておりまして、銃砲店ではすでに、それなりに人気商品のひとつになっているんですよ」

 

何でもいいからとにかく自社ブランドをということで、闇雲につくったのではもちろんない。同社は古くから、キャッシュディスペンサーや指紋認証金庫、同保管庫、美術館や博物館、百貨店などに置く重要物展示ケースなど、防犯性の求められる精密な筐体や各種製品づくりに取り組んできた実績を買われていたことと、とき折りしも銃刀法の改正があり、そこで新たな需要が高まったという背景を受けてのことである。

 

見ると作業場はもちろん、事務所や社長室など、至るところにさまざまな筐体や機器の試作品が、ところ狭しと置かれている。すべて持ち前の精密板金技術を駆使した独自製品だそうだ。

 

「日々の生産のほかに、工場では毎日何らかの研究開発が行われていましてね。ビジネスのシーズ(種)には事欠きません」

 

その工場の設備がこれまためっぽう近代的で、アマダ製のレーザー加工機をはじめ、同複合機、NCベンダー、ワイヤー放電加工機や溶接機などが、ズラリ勢揃いなのだ。それもその筈で、「もともと私どもは、開拓者精神が非常に旺盛な社風ですから」

 

その歴史を紐解くと分かるが、確かにこの規模のモノづくり企業としてはきわめて開拓者精神の旺盛な会社のようだ。

 

設立(有限会社富祥)は1979年だが、その前の起業から指折り数えると足掛け40年になる。ちなみに精密板金とは鉄やステンレス、アルミなどの板を切断し、折り曲げ、溶接する、モノづくりの基本ともいうべき製造業である。

 

とまれその起業以来、同社は田村電機製作所(現・サクサグループ)やトーイツ、古河電工、スタンレー電気など、主に大手電機、医療機器メーカー製品のケースや部品づくりをイチから手掛けてきた、業界のパイオニア(開拓者)である。

 

前記した多くの最先端機器も業界に先駆けて導入。精密板金以外にも、4WDパーツを手掛けるなど、早くから多品種少量生産に向けて、フレキシブルで機動力に富んだ、強靭な体質と態勢を整えてきているのだ。

 

技術力と設備、開拓者精神。これらはすでに、居並ぶ最終製品メーカーと比べてもほとんど遜色ない、といえるかも知れない。

 

営業力強化の成否が次のステップに向けた試金石

それにしてもとどまることを知らない、恐ろしくポジティブな人である。

 

「これは田村電機の創業者が私どもにおっしゃっていただいた言葉ですけど、不況のときほど設備投資をし、人を採り、成長を目指すべきと考えています。確かにリスクはありますけど、それを恐れてむやみに縮小したらそれこそ立ち直れませんからね」

 

ちなみに前述したガンロッカーの製品化も、リーマンショックによる業績低迷が文字通りの〝引き鉄(ガネ)〟になったそうだ。そのポジティブな姿勢はどうやら持って生まれたモノらしく、若い頃から営業センスという形でも如実に示されている。

 

「顧客からこれこれこうと指示されて図面をもらうじゃないですか。でもよく見るとそれより安くて完成度の高いやり方があったりするんですね。すると黙っていられなくてこうするともっとこうなりますよ、って提案するんですよ。そしたら凄く喜ばれまして、次からは全面的に信任していただけるようになったものです」

 

とまれ氏はその営業力強化の成否こそが次のステップに向けた試金石と捉えており、来春には奥州市(岩手県)、米沢市(山形県)に新たな拠点を設ける計画だという。東北地方の内陸側は、もともと精密機器関連企業の集積率が高く、有力な市場であると同時に、大震災によって失われた雇用の回復に少しでも役に立ちたい、という思いからだ。

 

攻めの板金─。いよいよ加速態勢に入ったようだ。■

 

近藤武也(こんどう・たけや)

1966年東京都生まれ。1985年神奈川県立伊志田高校卒業と同時に富祥工業(現・富祥)入社。切削、曲げ、溶接などすべての現場作業にくわえ、研究開発から営業部門まで幅広く従事。1991年取締役、2008年常務取締役、2009年専務取締役、2011年副社長を経て同9月、代表取締役社長に就任。趣味は温泉巡りで、生涯1000湯が目標。

 

株式会社 富祥

〒259-1111 神奈川県伊勢原市西富岡727

TEL 0463-72-7272