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アクト電子株式会社  触れずに計測!? 驚異のレーザードップラ製品

◆取材:綿抜幹夫

 

Minolta DSCアクト電子株式会社/代表取締役 田中克典氏

オンリーワン技術を、最高の商品にする戦い

対象物に一切触れることなく、速度や長さを測定できる「レーザドップラ製品」。その画期的な技術力で、国内はむろん海外でも他の追随を許さない域にまで達しているのがアクト電子株式会社だ。しかしながら、高性能ゆえの高価格など、いくつかの課題もあり、まだ爆発的な浸透にまでは至っていないのが現状だという。今後の展望や戦略など、田中克典社長に話をうかがった。

世界に類を見ない技術 レーザドップラ製品

アクト電子株式会社 (5)

測ろうとする対象に、完全に非接触で測定することのできる技術。アクト電子の看板「レーザドップラ製品」だ。

「会社を立ち上げた当初、まだ他がやっていない新技術を製品化したいという強い思いがありました。そこでスタート時のメンバーの努力を結集して作り上げたのが、レーザドップラ製品です。設立の翌年にはすでに製品化していました」

 

田中克典社長はこう語る。「ドップラ」といえば、救急車のサイレンの音などで知られる「ドップラ効果」という言葉が最もポピュラーなものだろう。音や光といった波の発生源と、観測者とのあいだに相対的な速度差がある場合、測定される波長が、観測者と発生源とでは異なる現象を表した言葉だ。この原理を応用した技術ということになる。

 

基本的に、動いているものは何でも測れます。日本の製造技術の中には、動きながらモノを作る技術が必ずありますね。フィルムやゴム、紙、建材などです。モノが流れてきて、そこにいろいろな加工を施して、できあがっていく。紙なんかだと、元があってこっちで巻き取りをして、その過程で色を塗ったりコーティングしたり、ずっと動いているわけですね。動きを止めて測るなら誰にでもできますが、我々の技術は動いている最中に測ることができる。鉄鋼の圧延などでも、熱くなった鉄がドロドロの状態で流れてきて、それがだんだん冷めるあいだに薄く均一に延ばしていくのですが、これもずっと動きっぱなしです。その状態を計測するわけです」

 

なぜ計測が必要なのかといえば、ラインの機械がいかに正確に動いているかをチェックするためだ。機械の動きが不安定になれば、紙に色を塗る動きも不安定になり、鉄も均一に延ばすことが困難になる。常に安定的にラインを稼動させていくためには、機械の速度を計測し、その情報をフィードバックさせてやる必要がある。

レーザドップラはこのように鉄鋼、フィルム産業、製紙業、ゴム製造業など幅広い産業分野で用いられているが、ユニークなのが鉄道業界である。

アクト電子株式会社 (3)電車への取り付け事例の様子

「少し変わったところで言えば、『ドクターイエロー』と呼ばれる黄色い新幹線があるのをご存知ですか? 10日に1度しか走らないので『まぼろしの列車』なんて言われたりもしますが、検測車なんです。この検測車の移動距離をノンストップで正確に測定しているのがドップラです。

また在来線では、レールや架線の傷を検査しています。保線の人がなかなか見つけられない傷を、何十センチ以内という単位で正確に位置を特定していくことができます。また、レールの隙間についてもウチの機械が活躍しています。夏になるとレールは膨張し、そのままだと脱線してしまうので、ちょっと隙間が空いているんですね。しかし空きすぎると電車がガタゴトして乗り心地が悪くなる。そこで隙間をある一定の幅に管理しなければなりません。これは今まで、全部人間が手作業で測っていたんですよ。だから1日に2・5kmくらいしか作業がはかどりません。

これをなんとか無人にできないかということで相談を受けまして、ウチの技術を使って成功しました。特急列車にウチの測定器を乗せて走らせ、全部の隙間のデータをICカードに記録する仕組みです。これはたいへんな省力化につながり、ご担当者の方は社長賞を受けられたそうです。たいへん名誉なことなのですが、春と秋に測定をやって、しかも1台で使い回しができてしまうので、機械の数が売れないという難点があります(笑い)」

 

 

志を同じくする仲間と会社を飛び出して独立

秋の草

アクト電子の設立は1985年。バブルに向けてこの国の経済がどんどん膨らんでいた時期である。勤務していた計測器メーカーを31歳の若さで退職し、自らの手で新天地を作り出した。

 

「計測器メーカーには8年ほど勤務しました。私はあくまで計測器というものを極めていくような仕事をしたいと思っていましたが、ある時期から民生機を作る会社が資本参加するようになり、会社もそちらに力を入れて行くような機運が高まってきました。そこで、『ここは自分の居場所ではない。外に出て納得のできる測定器を追求しよう』という技術者仲間が7~8名集まって飛び出し、自分たちの会社を作ったんです」

 

いわば、同志で作った会社ということになる。残念ながらご病気でお一方が亡くなられたそうだが、他のメンバーはすべて現在も何らかの形で同社に関与しているのだという。会社名のアクト(ACT)とは「Active・Analog&Computer Technology」の略である。

 

「当時はアナログからデジタルに移行し始めた時期ですが、我々はアナログとデジタルが融合した技術を身につけてモノづくりをしていこうと考えていました。しかしなにしろ全員が技術屋ですからね。営業マンが一人もいませんでした。『レーザドップラ』はいち早く開発し、会社のブランドイメージを上げるのに役立ちましたが、値段が高いので、良い製品でもなかなか売れませんでした。『良いものを作れば誰かが認めてくれるだろう』くらいの甘い考えだったのも事実です。

今でも営業マンは3人しかいませんが、総勢30名の小さな会社ながら、ネット広告を出したり、それぞれの業界でネットワークをお持ちのお客さんとお付き合いをしたり、限られた人数の中で自分たちの技術を広めるための努力は少しずつやっているつもりです」

いくら優れた技術を持っていても、なかなか利益に結びつかない。モノづくりを担う多くの中小企業が抱える悩みの中でも、トップに位置する共通の課題であるだろう。

アクト電子株式会社 (6)従来品との比較(写真左:新製品)

「レーザドップラの中でも、2チャンネルの高価なモノですと1台あたり600万円くらいします。実は他社製品で、10万~20万くらいの簡易な測定器がありまして、なかなかこれに勝てないんです。技術的にはぜんぜん比較にならないくらいレベルに差のある商品で、そんな製品に頼っているとリスクも大きいんですが、お客さんから『アクトさんのは欲しいけど高くて手が出ないよ。今はこっちで間に合っているから要らない』と言われてしまうんですね」

 

もちろん田中社長は、ただ手をこまねいて見ているわけではない。

「鉄道関連では、試験走行だけではなく、在来線に乗せるテストもようやく始まりました。また鉄鋼業界はいま更新需要期に入っていますので、こちらも試験的なものではなく、実際の生産ラインの中にウチの機械が食い込めるよう、がんばっているところです。様々な企業さんが試しに買いやすい廉価版の機械も出しました。やっと少しずつ、芽が出てきています」

 

 

技術と経営の両立に悩みつつ、30期10億の目標へ

田中社長は、アクト電子の代表取締役としては3代目になる。といってもむろん世襲ではなく、先に述べた同志のうち2人が社長を務めた後の、3人目の社長という意味だ。2009年に就任しておよそ3年、今でも技術者と経営者との両立に悩む日々が続いている。

「我々のレーザドップラは、改良に改良を重ね、リニューアルの連続でやってきました。製品開発には1〜2年かかりますが、今までにラインナップした製品は50種類以上あります。しかしこれまでの歴史は困難の連続で、製品を売った後でも再開発をしなければならない事例が多々ありました。例えば先ほど申し上げたレールの隙間を測る場合ですが、当初は列車がカーブにさしかかると測定できなかったんです。

そこで長い時間をかけて、カーブしながらでも測定できるよう改良しました。売った時点で支払いは終わっていますから、改良費用は全部持ち出しです。仲間だけでやっているうちはそれでも良かったんですが、30名の社員を抱えるとなると、やはりしっかりと利益は出していかなくてはいけない。開発にかかる時間の長さと、会社経営の時間の流れ。その違いと両立にいつも苦しみます」

 

これまた、多くのモノづくり企業が直面する生々しい悩みの一つである。いかにしてこの難問を乗り越えるのか。

「あるところで損失があっても、将来的にこうなるという予測が見えていれば、その場だけであわてて判断しなくていいと思います。しかしそれは、もっと短納期の製品など、『この仕事はここで終わるから、いまちゃんと利益を上げなければいけない』という、別部門でのメドがしっかり立っていることが前提になりますね。ウチはそのようにして、どうにかトータルでギリギリ黒字になっています」

 

アクト電子が今後、飛躍していくための課題は何だろうか。最後に、田中社長に率直にこの質問をぶつけてみた。

「一つは様々な産業において、開発の上のほうばかりでなく、実際の製造ラインで使ってもらうようにすることです。ラインの中にウチの製品が組み込まれれば、経営的に安定します。もう一つは、今のウチのセンサーでは、1つの〝あるモノ〟しか測れないのですが、1つの機械で複合的な測定ができるようにしたいと考えています。例えば速さだけでなく、厚みや傷なども同時に測定する。XYZの座標軸があって、今はXしか測れないが、XYZ方向すべてを可能にするということですね。それが1つの機械で測れれば、理想のセンサーになります。完成までには時間がかかりますが、これは必ずやり遂げてみせます」

アクト電子には具体的な目標がある。現在およそ5億の年商だが、これを「30期には10億をめざす」というもの。売り上げ倍増計画である。

若き同志で始めた会社は、試行錯誤を繰り返しながらも「計測器を極める」という初心を貫徹し、今も進化を続けている。30代前半の若者たちがまもなく還暦を迎えようという年齢になっても、その情熱が衰えることはない。

アクト電子株式会社 (8)車のエンジン周りの測定
アクト電子株式会社 (9)車の車輪に取り付けた状態
アクト電子株式会社 (1)透明フィルム測定の実演

obi2_humanプロフィール

SANYO DIGITAL CAMERA

田中克典(たなか・かつのり)氏…1954年、長野県下伊那郡阿智村生まれ。高校卒業と同時に上京、工学院大学に入学。卒業後、計測器メーカーに就職、8年間勤務ののち独立し、1985年、仲間とともにアクト電子を設立。2009年、3代目の代表取締役社長に就任し、現在に至る。

アクト電子株式会社

〒211-0051 神奈川県川崎市中原区宮内4-7-16

TEL 044(589)8180

http://www.actele.co.jp/

 

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山形県庄内地方にあるコイルの国内トップメーカー。東北公益文科大学 理事兼後援会会長も務める教育者。「社会からある意味で隔離された学生たちが、閉鎖的な精神状態から抜け出し、実社会の空気に触れるとともに、〝一流〟を体験することで、強い人間力と自信を身に付けさせたい」

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