オビ 企業物語1 (2)

頑張りが正当に評価される仕組みが企業を、日本を変える‐株式会社あしたのチーム

◆取材:綿抜幹夫

株式会社あしたのチーム 高橋恭介 (1)

株式会社あしたのチーム/代表取締役社長 高橋恭介氏

業界初の構築料無料 人事評価制度運用支援サービス

正当な人事評価制度の重要性を否定する企業はない。しかし、時間、手間、費用の面から導入を諦めた企業はたくさんあるだろう。

あしたのチーム」はそんな顧客目線から、業界の常識を180度転換。制度構築費を無料にし、月の運用費のみで各社にあわせた人事評価制度システムを提供・運用する新しいサービスを生み出し、急成長を続けている。

創業の思い、サービスに込めた思いを、高橋恭介社長に聞いた。

 

成長著しい注目のベンチャー企業

「株式会社あしたのチーム」は2008年9月に設立された、新しい会社だ。中小企業向けの人事評価制度運用支援サービス「ゼッタイ!評価」を中心に、人事評価制度の構築とその運用支援サービス、人材紹介サービスなどを提供し、2015年7月現在では大阪、名古屋、福岡など全国に8つの拠点を展開。

これまでに手がけた企業は500社以上に上り、2015年1月には台湾現地法人も設立するなど、成長著しいベンチャー企業として注目を浴びている。

 

起業にあたり重視したのは「社会性」

同社の創業者・高橋恭介氏の前職は、プリモ・ジャパン株式会社の副社長。数十名だった従業員を500名規模にまで増やす急成長を実現した後退職、同社を創業した。

そんな高橋氏によると、起業の仕方は3つあるという。その1つ目は、各分野のコンサルタントや士業など、基本的に1人で行い従業員の雇用を伴わない方法。2つ目は、フランチャイズなどを含む代理店になる方法。そして3つ目が、従業員も雇用し、雇用の創出にも貢献しながら自分で1からビジネスを作り上げていく方法だ。

当然難易度は3つ目が最も高いと言えるが、高橋氏は「ビジネスを創造し、0を1にする生き方をしたい」との思いから、3つ目の道を選択。

 

さらに21世紀において世の中に受け入れられ、継続的に発展し、多くの収益を生む大きなビジネスには「社会性」が必要不可欠だと考え、たどり着いたのが中小企業向けの人事評価制度運用支援サービスだった。

中小企業向けの人事評価制度の充実がどのような社会性を持つのか。それをとく鍵は「一部のエリートを除いて、労働人口の大半は7割程度の力しか出せていない。企業風土や環境がそうさせている」という日本の現状にあると高橋氏は言う。

 

「頑張れば頑張った分だけきちんと自分の報酬として報われる人事評価制度を広く導入することは、個々の従業員のパフォーマンスと収入の増加や会社の業績アップ、引いては国家収入の増加にもつながります。〝みんなをハッピーにする〟という点で、人事評価制度運用支援サービスは極めて社会性が高いものです。〝あしたのチーム〟の商材が日本のすべての中小企業に導入されれば、全員幸せになると思っています」

この思いを原点に、高橋氏の挑戦は始まった。

 

人事評価制度導入のエアポケット、中小企業に注目

優秀な人材の離職を防ぎ、安定して事業を継続するためにも、適切な人事評価体制の構築が中小企業にとって非常に重要な要素なのは間違いない。しかし人事コンサルティング業界の中で、中小企業向けの人事評価制度運用支援サービスは、ある意味エアポケットとも呼べる分野だった。

というのも、人事コンサルティングを手がける企業は、タワーズワトソン社やマーサージャパン社のような外資系や国内企業まで多々あるが、それらの企業が顧客として想定してきたのは、従業員数や予算が多く、大きな収益が見込める大企業が中心。

大企業とは異なる中小企業の構造や課題に合わせた人事評価サービスを開発しているところは少なく、中小企業に導入する場合でも大企業と同じものさしでそのままサービスを提供しようとするところが大多数だったからだ。

 

一方、中小企業の経営者側も、営業やモノづくりなどのスキルを活かして、裸一貫から今日の事業を打ちたてたという人が多く、組織づくりや人事に関しては詳しくないことがほとんど。

人事評価制度自体がない企業も少なくないといい、また人事評価システムを導入していても、必ずしも中小企業の実態に合ったものではない、数百万~一千万単位にも及ぶ制度構築の費用が高額すぎる、システムは構築できても上手く運用されていないなどの問題が発生していた。

 

制度構築費は無料。運用支援で利益を出す新しいモデルを作る

そんな状況の中、当初は「大手が提供するサービスより安い」ことを武器に営業を展開していた同社だが、2009年に、より安価に導入でき、各企業のニーズに合わせて柔軟なカスタマイズが可能な人事評価クラウドシステム「コンピリーダー」をリリース。

その実績を踏まえ2014年には、「制度構築費用を0円にし、導入サポートと月々の運用サポートにより利益を出す」という、高額な制度構築費が当たり前の業界の常識を覆す人事評価制度運用支援サービス「ゼッタイ!評価」を開始した。制度構築は無償提供のパッケージにし、クラウドサービスを提供しながら運用支援するという新しいサービスの形を作ったのだ。

 

経営者の共感を得て販路を拡大

その転換を可能にしたのは何だったのか。従来のやり方では、制度構築には数名のコンサルタントが半年や1年という時間をかけてかかるのが常識で、これが導入費用を高額なものにしていた。

しかし、同社に蓄積された制度導入企業のさまざまな事例を活用し、成功している企業のパターンを踏襲すれば、各企業にとって100点と言えるシステムの構築は無理でも、及第点と言える70点台のシステムは10時間あれば構築可能だと、高橋氏は語る。

 

「評価制度導入の目的は、運用することにより社員の成長を促し、優秀な人材の離職を防止し、会社の業績を伸ばすこと。仮に企業を国に例えるなら、人事評価制度の構築は立法に過ぎず、法をきちんと運用するためには、行政機関が必要であり、違反した際の罰則規定や司法の目が必要です。

であれば、立法の部分は無料にし、行政機関や司法機関の整備・運用の部分をビジネス化したという発想です」。

 

「ゼッタイ!評価」では導入サポートと6カ月の運用サポートで、評価制度運用の内製化を実現。その後は、カスタマイズを繰り返し、月々の利用料金のみでより各企業にフィットした評価制度に近づけていくサポートを提供している。

2014年以前、同社のサービスを取り入れた企業はおよそ100件に2~3件。しかし、有効求人倍率の上昇による売り手市場化、政府から企業への賃上げ要求のプレッシャー、労働法の改正などから人事評価制度導入のニーズが高まり、ここ1年ほどで5件以上に増えてきた、と高橋氏。

それは人事評価制度をしっかり運用することが、人材育成や生産性のアップ、採用力のアップ、離職率の低下などにつながると考える経営者が増えているということでもあり、それこそが人事評価制度の運用を成功させる「鍵」になっているのだという。

 

「経営者がまるで〝神の手〟のような権限を持ち、最終的にはすべてをひっくり返すことができてしまうと、どんな評価制度を導入してもまったく意味のないものになってしまいます。制度導入のメリットを理解した上で、中間管理職を信頼して権限委譲ができることが運用の成功には必要で、それに共感していただける方がお客さまです」

事業承継のタイミングで取り入れる地方の2代目、3代目経営者など、全国に販路を広げている。

 

人事評価制度が人が頑張れる環境を作り、日本を元気にする

約30年前に平均30年と言われた企業の寿命は伸びず、90年代に比べて業歴30年以上の長寿企業の倒産は増加。サラリーマンが一生を1つの企業で終えるのは困難になり、終身雇用・年功序列制は成り立たないし、更にグローバルな競争の中では、若手の優秀な人材のやる気を奪う年功制が障害になるのは避けられないのが現代だ。

加えて、労働力人口の減少が徐々に顕在化し、有効求人倍率も高止まりする中、「従業員をきちんと評価して、適正な賃金を与えないとあっという間に事業がなし得ないぐらい〝人はがし〟にあう時代はすぐそこまで来ている」と、高橋氏は主張する。

 

また、これからは変化に敏感な経営者とそうでない経営者の間で、人材獲得競争の二極化が進むと予想。そして、そんな時代だからこそ、経営者がもっと従業員と向き合っていくことが大切になってくると強調した上で、「しっかり従業員を見て、正当に評価し、働きに応じた報酬で報いる環境を整えることができれば、生産性の向上により、日本人の給与の平均はまだ3割上がる」と語る。

 

「そのために必要なのは、個人のスキルアップではなく環境。頑張れる社風か否か、頑張れば頑張った分だけ報われる状態なのか否かが最も大切です。採用でも同じで、重要なのはいかに優秀な社員を採るかではなく、普通の能力の社員と普通のやる気のある社員がその企業に入って、きちんと業績に貢献し、収益を出し、成長して自己実現できるかということ。その環境を整えるのが、経営者の責務だと思っています。

そういう環境をきちんと作れる経営者を増やしていくことは、最終的には国力の向上にもつながる。だからこそ当社のビジネスは高い〝社会性〟を持つ、ちょっと青臭い言い方ですが、日本という国を良くしていくものだと言えるんです」

社員1人ひとりが力を発揮できる環境を作ることで、企業を、日本を元気にする。ぶれない軸に沿った大きなビジョンを描いて、同社の挑戦は続いている。

 

オビ ヒューマンドキュメント

株式会社あしたのチーム 高橋恭介 (2)

◉プロフィール/高橋恭介(たかはし・きょうすけ)氏…1974年生まれ。千葉県出身。東洋大学卒業後、興銀リース株式会社に入社。営業と財務を経験。その後、設立間もないベンチャー企業であったプリモ・ジャパン株式会社に入社。取締役副社長として人事評価制度構築を主導し、離職率を大幅に下げ、同時に採用にも力を入れ、従業員数500名規模までに拡大。その結果、ブライダリングシェア1位を獲得する企業になるまでの急成長を牽引。2008年9月、株式会社あしたのチームを設立し代表取締役社長に就任。

 

株式会社あしたのチーム

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〈本 社〉 〒104-0061東京都中央区銀座6-4-1 東海堂銀座ビル6F

TEL 03-4577-3923

従業員数:60名(2015年8月)

年商:3億円(2015年3月期)

 

2015年8月号の記事より
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