ƒvƒŠƒ“ƒg学校と企業を行き来しながら、座学と実務訓練を長期に行う、ドイツ生まれの「デュアルシステム」が日本の専門高校に導入されてから12年。

もともと高卒者の就職率向上と、中小企業の人材不足を解消する目的で始まったが、いまやその効果も活用法も多様化し、地域全体を巻き込んだまちおこしにも活用されている。

そこで各地で定着しはじめた、デュアルシステムの活用の実際とポイントについて実例を挙げながら紹介していく。

 

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デュアルシステム大成功!実習生が毎年入社!

◎都立葛西工業高等学校編/彌生ヂーゼル工業株式会社

 

◆取材:小原レイ/文:五十川正紘

※都立葛西工業高校の過去掲載記事はコチラ

 

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採用・育成方針を転換。自動車整備メカニックを自社で育成!

ds_yayoidizel_hosoda主にトラックやトレーラーなどの大型自動車の整備・修理を手掛ける彌生ヂーゼル工業株式会社は、2013年度から葛西工業高校のデュアルシステム実習生を受け入れ始めた。

翌2014年度からは、3年連続で毎年1名ずつ、計3名の実習生が同社に入社している。

同社代表取締役社長の細田健氏は、「実習生を受け入れるようになったのは、それまでの人材採用・育成方針を転換し、自動車整備メカニックを自社で育成することにしたからです」と語る。

その方針転換の経緯や、実習生の受入後の社内の変化などについて、細田氏からお話を伺った。

 

 

工業高校の学生を採用する方針に転換!

─実習生を受け入れ始めてから3年連続で実習生が入社している。その成果について、どのように評価しているか?

 

もちろん、当社としては大成功です。我々の業界の人材採用でベストなのは、国家資格である「自動車整備士」の有資格者を採用することです。それは、自動車整備・修理業の会社を開業・運営するには、自動車整備士の有資格者が必要だからです。

そのため以前の当社の新卒採用のターゲットは、自動車整備士の資格を取得できる学校、つまり、自動車専門学校の学生でした。

しかし、自動車専門学校の学生を新卒採用のターゲットにしているのは当社のような自動車整備・修理業の企業だけではなく、自動車メーカーやディーラーも同じです。加えてこの10年以上若者のクルマ離れが進んでおり、自動車専門学校の学生数自体が少なくなってきています。

つまり学生の奪い合いとなり、なかなか思うようには新卒の人材を集めることができなくなっていました。そこで工業高校の学生を新卒採用し、自社で一から育てる方針に転換したわけです。

たまたま葛西工業高校さんのデュアルシステムのことを知り、当社に興味がある同校の生徒さんがいれば、実習生として受け入れ、早い段階から一人前の自動車整備メカニックに育てることができると考えたわけです。

当社は昨年1月、デュアルシステムへの貢献を認められ、東京都教育委員会から表彰を受けました。いまのところその狙い通りの成果は出ていると言えます。

 

 

〝先輩と後輩〟の人間関係を重視!

─ということは、今後もデュアルシステムの実習生の受け入れを継続していくのか?

 

ds_yayoidizel01細田社長と、葛西工業高校卒の自動車整備メカニックの皆さん

当社での実習を希望される生徒さんがいらっしゃれば、受け入れたいと思っています。

私は毎年、実習生を受け入れ続けることに大きな意味があると思っています。それは、〝先輩と後輩〟という人間関係ができるからです。

ものづくり企業の現場は、熟練の技が求められる職人の世界です。その熟練の技は、一朝一夕で習得できるものではなく、ベテラン職人や先輩の指導やフォローのもと、実際に仕事をしながら、それなりの年月をかけて身につけるものです。

だから、職人の世界では、後輩が先輩を慕い、先輩がしっかり後輩の面倒を見る……という関係がとても大切であり、それは当社の現場にも当てはまります。

新卒の若手は日々の仕事に精一杯で、職場での些細なことでも不安に感じることでしょう。そういう不安を感じている時に、親身になって相談に乗ってもらえる同じ学校出身の先輩がいればとても心強いはずです。

そのため、職場内で〝先輩と後輩〟という人間関係ができれば、若い人材の定着にもつながると思います。

そのような関係を作って、代々受け継いでもらいたいとの想いから、3年前にデュアルシステムの実習経験者として初めて入社した社員に対して、直接、後輩の面倒をしっかり見るように指導もしています。

 

 

自動車整備メカニックになるには、ペーパー試験対策も大切

─実習生は、どのような仕事をしているのか?

 

まず、実習生には、採用担当部門の部長や工場長による当社の事業内容や現場の仕事についてのレクチャーを受けてもらいます。その後、本社に併設の葛西工場にて、洗車やタイヤ交換などの仕事をしてもらいます。

ds_yayoidizel_menteトラック整備中

葛西工場では、自動車整備メカニックたちが6名ずつ、2班に分かれ、各班長のもと、自動車整備・修理作業を行っています。実習生も、その班の中に入ってもらいますが、期待しているのは、即戦力になってもらうことではありません。

それよりも、当社の現場でどのようなことが行われているのか、どのような手順で仕事が行われているのか、車検でチェックすべき箇所はどこか、などという基本的な流れを、少しずつ理解してもらえればと思っています。

当社の仕事には、自動車整備士の資格が求められます。自動車整備メカニックは、体で覚える職人の仕事であると同時に、ペーパー試験にもクリアしなければならない仕事です。

ですから、まずは仕事内容・手順を頭で理解し、覚える必要があるのです。

また当社の実習生には、朝礼にも出てもらいます。朝礼時間は10分ほどですが、工場長から、「こういう修理については、こういうことに注意して……」というような日々の仕事に関わる具体的な話を聞いてもらいます。

 

 

実習生の存在が、いい刺激に!

─実習生を受け入れ始めて、会社の中で何か変化したことはあるか?

 

職場が活気づいたと感じます。当社は年配者が多く、平均年齢は40歳半ばぐらいです。そこに10代の若い実習生が入ってくるわけですから、職場の雰囲気も変わります。

また、社員一人ひとりに、若い人の見本にならなくては……という意識も生まれたと思います。組織へのいい刺激になったという意味でも、実習生を受け入れてよかったと思っています。

 

─デュアルシステムの実習を経て御社に入社した社員の働きぶりについて、どのように感じているか?

 

彼らの働きぶりには満足しています。一人前のメカニックになるまで10年ぐらいはかかるので、まだまだ学んでもらうことは多いですが、これから時間をかけていろんな経験を積んでくれたらと思います。

 

─他のデュアルシステム参加企業からは、もっと実習の機会を増やした方が、企業、生徒の双方にとってためになる、という意見もあるが?

 

確かに、その方が、実習生が企業の仕事内容や職場の雰囲気をよく理解できると思いますので、採用ミスマッチの解消につながり、双方にとって有益だとは思います。

個人的には、2年次からデュアルシステムの実習に参加できるようになってもいいと思います。

◎現場を指揮する同社の葛西工場長の荒川俊之氏からも、お話を伺った。

 

ds_yayoidizel_arakawa─一人前の自動車整備メカニックになる過程で、一番ポイントになる部分はどこか?

 

技術的なこと云々よりも、社会人としての自覚と行動が大切だと思います。例えば、学生気分が抜けていない人は、自分ができることしかやろうとしませんが、それは、社会人の世界では通用しませんし、仕事も身につかないことでしょう。

逆に、そのことに気づけばどんな仕事にも興味を持って取り組めるようになるはずです。

会社としても、若い人ができるだけ成長しやすい環境づくりに取り組んでいます。例えば現在、現場業務のマニュアル化を検討しています。

マニュアル化を通して、現場で積み重ねられてきた経験を引き継ぎできるようになれば、若い人もスムーズに仕事が覚えられるようになると考えています。

 

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◉プロフィール

・細田健(ほそだ・けん)氏
1950年生まれ。北海道出身。大学卒業後、東京産業信用金庫(現さわやか信用金庫)に入庫。2006年、彌生ヂーゼル工業株式会社に入社。2011年4月、同社代表取締役社長に就任。

・荒川俊之(あらかわ・としゆき)氏
1985年、彌生ヂーゼル工業株式会社に入社。同社執行役員整備部長兼葛西工場長として現在に至る。

 

◉彌生ヂーゼル工業株式会社

【彌生ヂーゼル工業株式会社】
〒134-0086 東京都江戸川区臨海町4-3-1(葛西トラックターミナル内)
TEL 03-3686-1261
http://www.yayoidizel.co.jp

 

 

 

 

◆2016年8月号の記事より◆

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