アジア発、国境を超えるビジネスパーソンを育てる

「日中韓での国際的な協働体験を学生に提供する」OVAL

文:菰田将司

写真左より、OVAL実行委員会日本支部/渉外部長 殿木誠氏 実行委員長 江口静氏

 

「日本の学生はレベルが低い」。その言葉に一念発起して立ち上がった学生たちがいる。「東アジアからグローバルリーダーを創出しよう」。その使命を掲げてスタートしたOVAL が行うIBC(インターナショナルビジネスコンテスト)は、今、日中韓三国を巻き込んだビッグイベントに成長しようとしている。

 

 

英語以外禁止の一週間

コンテストの様子

OVALは大学生が中心になってビジネスコンテストを運営する団体で、特に毎年8月に行なわれるIBC(インターナショナルビジネスコンテスト)は、日本・中国・韓国の3カ国から学生を集めて行われる団体最大のイベントだ。

 

「IBCは、各国から30人ずつの学生が参加し、日中韓各1人ずつ計3人で1チームを作ります。そして1週間、缶詰になってビジネスプランを作り上げる、というものです」

そう話すのは今年のOVAL実行委員長の江口静さん(東京大学在学)だ。

OVALは、「Our Vision for Asian Leadership」の頭文字。アジアの青年の中から新時代のリーダーを探す、というのが活動の目的だ。

では、そもそもこの活動は何故スタートしたのだろうか?

 

「きっかけは、日本の大学生を対象とした、普通のビジネスコンテストが企画された時に、ある企業の人から『日本の学生はレベルが低い。中国・韓国の学生と交流するくらいの規模のものをやるなら協力してもいい』と言われたから。それで2003年、OVAL実行委員会が日本でスタートし、その後中国・韓国にも波及していきました。第1回のIBCが北京で行われたのは、2005年の8月です。その後は各国が持ち回りで開催し、今年はソウルで行われます」(江口さん)

今でこそスタイルが確立しているのだが、当初は苦労も多かった、という。

 

「文化も考え方も違う者同士がどうやったら議論を深めていけるのか。それが問題でした」

そして生まれたのが、一切母国語は使わず、期間中は全て英語を通す、という手法だ。日本人同士でも、会場では会話は英語。日本語で話していると、密談をしている、と思われてしまうからだ。

江口さんと同じく実行委員の殿木誠さん(慶應義塾大学在学)は、去年北京で行われたコンテストへの参加者だった。

 

「昨年のコンテストの開催期間は8月5日から15日まで。私が入ったチームは中国と韓国の大学生の女性1人ずつ、男は私だけというチーム。2人とも、しっかりとした自己主張を持っていて、意見をガンガン出してくる。コンテストのテーマは『中国の文化産業に関するビジネスプランを考案せよ』というもので、中国の女子大生が、古い陶磁器の破片を利用したアクセサリーを製造・販売するプランを出してきた。自分は万里の長城でマラソンしよう、と提案したら、ダメ、売れない、と即却下(笑)。その後、実現性などの観点も踏まえて、陶磁器アクセサリーのプランでプレゼンを作ることになりました」

各大会では、その国の実情に応じたテーマが発表され、それに対して各チームがプレゼンを作る。テーマは実行委員会スタッフが用意するが、このテーマも、開催半年前から日中韓のスタッフたち総出で考えだした苦労の賜物だ。

 

「1週間で、プレゼン用の資料を作成します。プレゼン時間は予選15分、決勝20分。実際にやった経験からすると、あっという間に感じられる短い時間でした」(殿木さん)

プレゼンの採点は、開催国のOVALが招聘した審査員によって執り行われる。

チェックされるのは、収益性・実現可能性・競合優位性・創造性・社会へのバリュー・フィナンシャルの正確さ……。勿論、プレゼンの能力も求められるなど、多岐に渡る。

 

「データ収集のために、期間中にフィールドワークの日も設けられています。どこのチームも街に出て、アンケートを取ったり、市場リサーチをしたり。需要の有無を徹底的に分析して、机上だけのプランには終わらせないようにしています。優勝したのは創価大学の学生のいるチームで、プランは太鼓などの民族楽器を使って音源などを作成し、それを映画音楽として提供できる会社を設立する、というものでした。中国の映画業界で今、求められている、ということを突き止め、それにアンサーを提案したということが高く評価されたようです」(殿木さん)

殿木さんに1週間の戦いを振り返ってどうでしたか?と尋ねた。

 

「いやあ、ずっと時間に追われていた、という感じでしたね。とにかくハードで。けれど、新しい価値観や文化の違い・視点の違いに触れられたことはとても新鮮でした。面白かったです。それに、まだまだ勉強が必要なんだな、とも思いました」

自分が今、進んでいるのか遅れているのかは、自分だけでは気づくことはできない。他者がいて、比較しないと分からない。それに気づくことができた貴重な体験だった、と殿木さんは語る。

 

アジアを識る

殿木さんが参加後、今度はスタッフとして携わろうと思い立ったのは何故なのか。

 

「以前、アメリカで生活をしたことがあるのですが、欧米では、自分がアジア人だと思い知らされることがある。白人とは体格も思想も違うから。だから、見た目の近い韓国人や中国人にシンパシーを持つのですが、実際にはアジア三カ国の間には深い溝があるんですね。だから、相互に理解を深めることが大事だし、それができるこの機会をぜひ活用していこう、と思ったのです」

それに加えて、北京大会に参加した時に感じた充実感もきっかけの1つだという。

 

「IBCでは、参加者と同数のスタッフがいます。スタッフはマンツーマンで参加者のアテンドをする。参加者も、さすがにホテルに戻っても英語ばっかりだと疲れてしまいますから、アテンドとは日本語で話していいことになっています。勿論、プレゼンのアドバイスなどはしません。自分が去年参加した時は、今の実行委員長の江口さんがアテンドをしてくれました。その時、スタッフたちの気遣いと情熱に心を打たれたのです」

充実感という点では、このIBCはコストパフォーマンスも高い。

参加費は5万円+渡航費のみ。学生が参加しやすい価格設定になっている。㈱シェアーズが運営し、既に千人以上が参加した業績を残す、ベトナムでのインターンシップ「海外ビジネス武者修行プログラム」は30万円ほど費用がかかる(滞在日程などにより変動する)。他には50万円以上かかるところもあり、それらに比べて各段に安い。

 

「学生が参加し易くしています。学生にドンドン参加してもらいたいからです。高い金額を出して欧米に短期留学してくるよりも、遥かに多くのモノを得られるし、まずは自分の隣人のことを知ってもらいたい。社会に出た時に、そちらのほうが遥かに身になる経験になると思います」(江口さん)

 

外に飛躍するチャンス

今後の課題について江口さんに尋ねてみた。

 

「課題は参加者募集です。ここ数年、応募者が減少しており苦労しています。中韓の学生と英語でビジネスプランを作り上げることに対して、敷居が高いと感じる学生が多いのが原因かと思います。チャレンジングな環境であることはスタッフ一同重々理解していますが、だからこそ一歩足を踏み出してみてほしい。失敗したって構わない、挫折したって構わない。それが、参加者にとって、今後の人生の大きな糧になるのだから。今年は是非、首都圏だけでなく、関西や地方の大学からも参加してもらいたいですね」

近年、日本では学生の貧困が問題視されているが、その影響は海外留学の数に如実に反映されていて、最盛期に83000人近く(2004年)にまで増えた海外大学への留学だったが、その後は下降に転じ、現在は5万人前後で推移している(文科省調べ)。また人気の国も以前はアメリカだったが、近年はアジア主流と、「近い・短い」留学が多くなっている。

 

「そんな大金を費やさなくても、IBCに参加することでかけがえの無い経験を得ることができます。また、そこで生まれた交流は、その後は人脈にもなって人生の財産になる。過去のIBC参加者は外資系企業に就職したり、起業したりするなど、グローバルな舞台で活躍していく人材になっています」(江口さん)

参加者が持っている共通の意識は、「国境を超えていくこと」だと江口さんは言う。

 

「IBCの1週間で必ず人生は変わります。異なった価値観に出会える、非日常の体験。その場を私たちは用意しています」

内向きになっていると言われて久しい日本の企業。そこに起爆剤を入れる人材が、今、ここに育っている。

 

 

〈問い合わせ先〉

今年のコンテストの概要

開催日時:8月5日〜8月14日(9泊10日)

開催場所:韓国ニューヨーク州立大学

参加費:8万円程度(食費、宿泊費、航空費込み)

応募資格:日本語を第一言語とする大学生

賞金:優勝チームに300ウォン(29万円相当)

 

OVAL実行委員会日本支部

http://www.oval-japan-official.org/

https://m.facebook.com/OVAL.biz

 

OVAL実行委員会

実行委員長

東京大学文科2類学部2年

江口 静

[mail]s.egichi.oval17@gmail.com

 

 

渉外局長

慶応義塾大学経済学部2年

殿木 誠

[mail]m.tonoki.oval17@gmail.com