オビ 特集

ƒvƒŠƒ“ƒg学校と企業を行き来しながら、座学と実務訓練を長期に行う、ドイツ生まれの「デュアルシステム」が日本の専門高校に導入されてから12年。

もともと高卒者の就職率向上と、中小企業の人材不足を解消する目的で始まったが、いまやその効果も活用法も多様化し、地域全体を巻き込んだまちおこしにも活用されている。

そこで各地で定着しはじめた、デュアルシステムの活用の実際とポイントについて実例を挙げながら紹介していく。

 

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仕事や社風を実際に体感してもらうことで入社につなげる

◎都立田無工業高等学校編/株式会社三共田中

 

◆取材・文:坂東治朗

※都立田無工業高校の過去掲載記事はコチラ

 

 

DS_sankyotanaka04_katsuta高齢化が進んでいるにもかかわらず、働き盛りの30〜40代が少ないという中抜け状態が土木・建設業界の現状。

コンクリート構造物を専門に長年にわたり実績を残している株式会社三共田中では、デュアルシステムの実習生を受け入れ、若い人材の採用につなげている。

実習生受け入れの経緯と、実習生の様子などを同社労務安全部担当課長の勝田誠氏に伺った。

 

 

現場を仕切れる若手社員の育成は急務だ

 

─御社の事業内容について伺いたい。

 

当社は道路や防潮堤と言った公共的なコンクリート構造物を造る専門工事会社で、創業は明治28(1895)年です。

基本的には一次下請けとして、鳶、土工、鉄筋、型枠工の労働者を直接雇用し、一社で強固なコンクリート構造物一式を提供するようなことを会社の売りにしています。

最近では北陸新幹線関連の仕事もしましたし、現在は首都高速道路の外環自動車道のボックスカルバートなども手がけています。

長年の実績と信頼により、仕事はコンスタントに受注しており、決算賞与も出せています。

 

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外環自動車道のスラブ組立

 

 

─デュアルシステムの実習生を受け入れることになった背景は?

 

現場を仕切る世話役の職人が高齢化しており、年々減ってきています。

そこで今後も会社を存続させていくため、若い人を採用して仕事を覚えてもらい、その若い社員が主体的に施工管理を担当して、年長者の職人もうまく使っていくような方向を模索しているところです。

しかし、東京都内で土木関係を学んでいる高校生が極めて少ない。そこで地方の高校などを個別に訪問し、採用活動を行っています。

その結果、少しずつ入社する人が出てきましたが、「思っていた仕事と違う」「働いてみてきつい」などの理由で辞めてしまうことが多かったのです。

そう思っていたところ、東京都中小企業振興公社から「ものづくり中小企業魅力体験受入支援事業」に協力して、高校生の実習生を受け入れてくれないかという依頼が平成26年に来ました。

高校を回って採用するのもなかなか大変ですが、若い人を採用しなければいけないという危機感はあり、当社でもぜひ活用してみようということになりました。

 

 

現場に身を置くことで、仕事・社風が体感できる

 

─田無工業高等学校の実習生を受け入れたのはなぜですか?

 

当社ではその当時、東伏見でトンネルを造っており、その現場から田無工業高校が近く、しかも土木関係の学科(都市工学科)を持っていましたので、親近感を感じて田無工業高等学校とつながりを持つことにしました。

平成26年に初めて実習生1人(2年生男子)を受け入れました。それまでは、高校生のインターンシップを受け入れたことはありませんので、受け入れ体制が万全だったとは言えません。

でも、とにかく現場に行って、どんな仕事をしているのか、どんな雰囲気なのかを知ってもらうことがとても大事だと思いました。

インターンシップも長期就業訓練も短い期間ですので、それほど深く知ることはできなかったでしょうけれども、複数の現場に行き、朝から夕方まで現場ではどんなことをしているのかを感じ取ってもらえたのではないでしょうか。

実習生には、施工管理補助という形で入ってもらいました。

現場の世話役がどういう指示を出して、誰がどういう仕事をしているかを見聞きしたり、Pコンの穴埋め作業など簡単なことを手伝ってもらったりもしました。

当社が手がけているものは公共の施設が多く、社会貢献ができて胸を張れる仕事だということを実習生に伝えることができたと思います。

 

 

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矢切函渠の施工状況

 

 

─実習生はどのような感想を持ったようですか?

 

実習生にはレポートを提出してもらうのですが、当社の人間が現場で働く様子を実際に見て、「みな仲が良く、声を掛け合っていて、とても雰囲気が良かった」など、好印象を持ってもらえたようです。

自分自身の将来については、「公共物などの仕事に就きたい」と記しており、頼もしく思いました。

建築現場と言うと荒ぶれたイメージがありますが、当社の現場は和気あいあいとした雰囲気なのが特徴です。職方が違っても同じ会社の人間なので、自分の仕事が暇なときは他の仕事を手伝ったりします。

いろいろな仕事を少しずつするので、他の職方の苦労もわかるので、仲良くスムーズにものづくりができる状況だと言えます。

実習生には、現場を体験してもらうことで、そういう社風がわかってもらえたので良かったと思います。

 

─実習生にはどのような変化が見られましたか?

 

実習の回数が増えるごとに、だんだんたくましくなっているのが実感できました。最初は「大丈夫かな?」という感じで、見るだけ、言われるがままでしたが、だんだんと積極性が出てくるようになりました。

自信を得てきたからでしょうか、作業着も体に馴染んできたり、自主的にあいさつをするようになったりと、スポンジのようにいろいろなものを吸収していました。

 

 

受け入れた実習生が2年連続で入社する

 

─実習生の受け入れは採用につながっていますか?

 

DS_sankyotanaka03_mens中澤亮太氏(左/平成27年入社)と、長谷川海斗氏(平成28年入社)。二人とも田無工業高校のデュアルシステムを経て入社に至った

一昨年と昨年に来た実習生1人ずつ合計2人が、田無工業高校から入社してくれました。

一昨年に入社した中澤亮太君は田無工業高校の学校紹介のDVDにOBとして登場し、「インターンシップで仕事を体験して、『いい会社だな』と思い就職しました」と言ってくれて、うれしく思っています。

2人には現場を仕切る役割を担ってもらいたいと考えていますので、会社負担で専門学校中央工学校に通い、2級土木施工管理技士、1級土木施工管理技士の資格を取ってもらうことを目指してもらっています。

学校に行っている期間は労働時間が減るので給料が少し安くなりますが、2年は我慢してもらって資格を取ってもらい、その後には給料を上げるようにする予定です。

 

将来的には施工管理の仕事をするとしても、現場での細かい作業を知らないと指示を出せません。

今は現場作業を実際にたくさん経験して覚えてもらうとともに、玉掛け技能者、フォークリフト運転者、小型移動式クレーン運転者、高所作業車、酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者など現場作業で必要な資格をたくさん取るようにしてもらっています。

 

─これからはどのように対応していきますか?

 

残念ながら、今年は実習生の受け入れはありませんでしたが、田無工業高校での職種説明会で施工管理についてレクチャーしました。

当社がどのような仕事をしており、その仕事がいかに社会的に有意義であるかを高校生に知ってもらうには、デュアルシステムはとても有効だと実感しています。

現場の雰囲気を体感して魅力のある業界であることがわかれば、就職してくれる若い人がこれからも出てきてくれるだろうと期待しています。

 

 

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◉プロフィール

勝田 誠(かつた・まこと)氏

1963年東京都生まれ。2014年、株式会社三共田中に入社。労務安全部担当課長として現在に至る。

 

株式会社三共田中

〒175-0082 東京都板橋区高島平1-42-10

TEL 03-3550-1711

http://sankyou-tanaka.jp

 

 

 

 

 

◆2017年1月号の記事より◆

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