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三櫻製作所 × 東京都立六郷工科高校 100年構想の布石が打てた!

若い世代を独立させて分断されたネットワークの再構築を図る

◆取材:加藤俊 /文:佐藤さとる

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三櫻製作所 大友冠代表 「いまの子たちは感動すると一所懸命やります。だからいかに感動してもらうかが、私たちの仕事なんです」と語る三櫻製作所代表の大友冠氏。「仕事を教えるだけでなく、いまの子供たちの食生活や家庭環境も考えて、学校の先生方と協力しながら育てていくことが大切だと思います」

若い人が入って来ない。入っても定着しない。人が育たない――。
中小企業経営者がたびたび口にする、この問題を、学校と企業の連携で乗り越えようとする取り組みが静かに、熱く進んでいる。

たとえば東京都立六郷工科高校では2013年12月号でも取り上げた「デュアルシステム」、すなわち学校教育と企業での長期の職業訓練に取り組んでいる。小欄では、同校と地元大田区の金属加工メーカー三櫻製作所との取り組みを紹介する。

 

責任重大!
大切に育てなきゃと初めて就業規則をつくった

小さな工場と住宅が混在する東京都大田区の一角。金属加工メーカー三桜製作所に2年前、デュアルシステム科卒の山崎貴大さんが入社した。「もう嬉しくってね」と顔を綻ばせるのは三櫻製作所の大友冠代表だ。

 

「ウチを選んで3年間通ってくれて、就職先に選んでくれたわけですから責任重大。大切に育てなきゃいけないと就業規則を設立以来初めてつくったんですよ」と笑う。同社は5年前よりデュアルシステム科の生徒を受け入れ、現在1年生と3年生が長期就業体験中だ。

わずか10坪ほどのスペースにNC工作機械がところ狭しと並ぶ。わずかに空いたスペースにも製品や工具類が置かれ、通路は人がすれ違うのがやっとだ。そこは大企業の工場のような明るく整然とした世界ではない。ただ、この町工場特有の仄暗さのもと、山崎さんを始め、生徒たちの目は輝いていた。

 

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「今はやれることはまだまだ少ないですが、いずれは設計とNCマシンのプログラム全体をやっていきたい」(デュアルシステム科OB山崎さん)

同社は自動車メーカーのマザー工場の心臓部に使われる研磨材など、加工機械や精密機械などの部材を受注生産する。いわゆる下請け工場だが、ダイヤモンド研磨技術では知る人ぞ知る存在。取引先はいずれも世界的工作機械メーカーばかりだ。

 

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その精度は1000分の1ミリ以下。耐久性は数万台分だ。こうした高い精度を確実に出せる職人は実は世界的にも少なくなって来ている。機械加工メーカーの合従連衡が続き、高精度高品質を誇った欧米の工作機械メーカーが1つまた1つと消えていったためだ。代わって日本の工作機械メーカーが台頭する。つまり三櫻製作所のような町工場の職人技術が、世界のモノづくりの根幹を支えているのだ。

その技術をデュアルシステム科卒の若い職人が継承する。

 

大友氏は「これで100年企業を目指せる」と期待を寄せる。「数年前に息子が入って後継体制はできたが、100年企業にしていくためにはどうしても息子の脇を固める職人が必要だと思っていたんです」

とは言え、いまの若者がどこまで関心を持ってくれるのか、どう育てていけばいいのか不安だったと吐露する。昔のように「盗んで覚えろ」というやり方は通用しない。同社の世界的技術は最高5次元の高度なNC工作機械の制御技術に支えられているが、「モノづくりの基本はまず手仕事だ」と大友氏。

 

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「旋盤などの手仕事の技術をしっかり覚えてもらってから、コンピュータに行く。原点が分からないといくらプログラムができても、モノはつくれない」

基本は「手作業をよく見ることと聞くこと」だ。最初は手作業のポイントを見てもらう。道具の使い方から砂の付け方。作業ごとの体の使い方も教える。

 

「それと音や振動。やっぱりモノづくりに関心のある子たちですから、分かるんです。こんな音がした時にはこんな抵抗があって、切削の刃がやられるぞとか。そうやって何か発見があったりすると感動するんですよ、彼らは。だからいかに感動して貰えるかを考えました」

 

 

生徒の家庭環境に配慮し食生活まで細かくケア

モノづくりの醍醐味は自分で考えたモノが形になることだ。大友氏は、生徒にスケッチを描かせた後、そこに数字を入れさせ、その通り作らせる。

「簡単なものですよ。でも考えたことができると凄く感動する。感動がないと続かないですから」

 

生徒は就業体験中、日誌をつけることになっている。大友氏はそこに書かれた文字を丁寧に追う。疑問や気づきに答えるだけでなく、文字の間違いや文章の書き方などもコメントして返す。生徒はこの機会、この場を通じて技術だけでなく社会人としてのさまざまな基本を学ぶのである。大友氏はさらに食生活も指導する。

 

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「モノづくりは粘りがないとできない。でも若い子は粘れないんです。聞けばコンビニ弁当ばかり食べているという。それじゃ粘れない。ちゃんとした食生活、食育についても話したりするんです。でも先生方に聞くと今の子たちはそういう子が多いんだそうです。というのも母子家庭など家庭環境が必ずしも恵まれている子ばかりではないから」

大友氏は週に1度は食事に誘い出し、サッカーや野球の話など共通の話題を振っては生徒の生活環境を気遣う。

 

「やはり若い人を育てるには、先生から情報をいただきながら、生徒さんの親御さんと一緒になって面倒を見ていくことが大事だと思いますね。そうやって丁寧に見ていくと集中力がついてくる。こちらも教えがいがあります」

 

 

いずれは独立させて新しい時代の職人ネットワークを

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円高不況や大手メーカーの海外シフトなどで日本の町工場の閉鎖が相次いでいると言われるが、中小零細企業の最大の問題は後継者不足である。

大友氏はかつて仕事を受けると切削から焼入れ、研磨など8つの加工工程を腕のいい職人のネットワークで行なっていたが、「後継者がいなくなってそのネットワークが寸断されてしまった」という。

 

大友氏のもう一つの夢は、その寸断されたネットワークを再び構築することだ。ただ「一旦切れたものは復活しない。グローバル時代に対応していくには1つの工場が幾つもの工程を高いレベルでこなせないといけない。そのためには技術や職人をウチだけで抱え込むことではいけないと思う」

 

大友氏は、会社そのものを大きくしていくつもりはない。

「私は若い人を早く独立させようと思っているんです。そこから新しい協業関係を築いていく。求められているのはネットワークの再構築ではない。ネットワークの社会化なんです」

 

そのネットワークを繋ぎ、紡いでいくのがデュアルシステム科の卒業生の役割でもある。かつて、屋上から設計図面を紙飛行機にして飛ばせば、すぐに製品になって帰ってくるといわれた大田区。この町のモノづくりを次代に継承していくために、六郷工科高校と企業の挑戦は、この先も続く。

 

 

社員と生徒が語るデュアルシステム

〈社員の方からの感想〉

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デュアルシステム科卒/山崎貴大さん

「入社して2年目です。高校時代の就業体験先にここを選んだのは、機械も揃っているし、やりやすかったというのがあります。入学した時は町工場への就職は考えていませんでした。大企業に行きたいと思ったんですが。でもここに通っているうちにものづくりの面白さが分かったんです。町工場は来てみないと分からないですね。ここでやってることはグローバルの先端。日々世界の最先端で戦ってる意識で仕事に向かってます。将来はまだよく分かりませんが、一からプログラムを組んでこのNCマシンを動かせるようにするのが目標ですね」

 

〈参加している生徒の感想〉

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3年生 村越拓巳さん

「ここはいろんなものを造ってるので、温故知新じゃないですが、古いものから新しいものいろいろな技術が学べると思ってここを選びました。最初の頃は慣れないので、集中力が途切れがちでしたが、ある程度やっていくことで集中力がつくようになりました。

いろんな材質を使ってるのでその性質が分かったり、あと刃物を使ってる時に刃物にいろいろ模様が出てくるんですが、その模様で状態が分かるのが面白いですね。そういうのは授業では分かりませんからね。あとは作業がうまくできた時はやっぱり嬉しいですね。ものづくりは同じものを造っても人によってできるものが違うんです。深いです。そこが魅力だと思います」

 

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1年生 吉田直樹さん

「最初の見学で6社回って、2社に絞って5日ずつインターンシップをやるのですが、ここはその1社目です。ここは皆さん優しいです。ほかのところを見てるとそれぞれ同じような工場でも重視してるところが違いますね。CADやCAMをしっかりやりますとか。ウリが違うみたいです。ここは機械もあるけど、旋盤とか基礎的なことも教えてくれるから選びました。

もともと工業系に行きたかったんですが、デュアルシステム科はそのなかでも他にないので、面白そうだって思って入りました。実際いまやってることは面白いです。2年目もここを希望したい。将来はまだ全然分からないですが、いま教わってることをしっかり教わって、将来に繋いでいったらきっと何かあるんじゃないかって思ってやってます」

 

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●会社情報

三櫻製作所

東京都大田区西六郷2丁目29−11

電話番号03-5714-4866