◆取材:加藤俊 /文:山田貴文

One Young World 

 

2015年11月18日、タイの首都バンコクにあるコンベンションセンターに世界各国から1300人以上にも及ぶ若者が一堂に会すフォーラムが開かれた。参加国数194カ国。なかには紛争地域のシリアや北朝鮮からの参加者もいた。

日本からも50名近い学生や社会人が参加したこの会合の目的は、次世代のリーダーを育成すること。18日から21日まで、世界が直面する様々な課題が世界各国の若者たちと世界のリーダーらによって議論され、多くの熱狂と感動をもって繰り広げられたという。

 

世界最大の若者サミット「One Young World(OYW)」

そこから遡ること2ヶ月。9月17日、クラウドファンディングサイト「READY FOR?」にて、『世界⇄福島-参加194カ国!世界最大フォーラムへ福島高校生を派遣』というプロジェクトが目標金額150万円を大きく超える170万円を集めて達成された。

プロジェクトの書き出しはこう書かれていた。

世界最大の若者限定 国際フォーラム「One Young World(OYW)」へ福島の高校生を派遣したい! 今、福島から3名の高校生を派遣するプログラムが動き出しています。必要経費1人分は確保できましたが、残り2人分が足りません。彼らはそれぞれ福島のために何かしたい思い、そして、将来の夢を持っています。彼らの思いを聞き、夢実現のキーとなるOYW参加のため、援助をいただけないでしょうか?」

 

クラウドファンディングが始まったのは6月末頃だが、実は福島の高校生をOYWに派遣しようというプロジェクト自体は、2年前、2014年の冬には始まっていた。

市川 OneYoungWorld

市川太一さん

リーダーとなった市川太一さん(青山学院大学4年)はその頃は県庁や、福島の企業さんから資金協力を得ようと動いていたのだが、前例がない点や教育的であることへの理解が得られず協力には至らなかったと語る。

それだけにプロジェクトが達成された瞬間の喜びは一入で、参加学生皆で喜び合ったという。

若者をそこまで熱狂させるOYW。いったいどんなフォーラムなのか。

 

 

One Young Worldとは?

OYWは、2009年に英国で設立された。世界各国の問題意識の高い若者達が社会にポジティブな変革を起こせるよう、そのために彼らが連携し大きな力となるようなプラットフォームを提供する非営利組織。

開催は2015年で6回目となる。文化的対立、環境保護、グローバルビジネス、メディアといった世界規模のテーマについて、国連の元事務総長コフィ・アナン氏や、グラミン銀行発起人ムハマド・ユヌス氏をはじめとする各界で活躍する多くの著名人のスピーチやアドバイスを聞き、ディスカッションや現場視察を行う。

目的は次世代リーダーの育成と国際交流。日本からも毎年参加者が増え、昨年は50名ほどの若者が参加している。

 

 

次世代の育成を志す

One Young World 大久保公人 

大久保公人氏

立ち上げから携わり、現在は日本の代表を務める大久保公人氏は、OYWについて「One Young Wordの目的は、次世代が主体となって全世界で直面する様々な課題を解決していくこと。

世界の見地を共有し、地球規模のネットワークを通じて、将来の真のリーダーを育成すること。

地球自体が一つのブランドとして、そこに生きる全ての人が地球人として互いを尊重し合い、10年後50年後100年後を見据え、一つにまとまる地球社会の形成に役立てたい。 その中で、改めて日本人としての自らのアイデンティティと日本社会のあるべき姿を追求してもらいたい」と語る。

 

その言葉に呼応するように、冒頭の市川さんも「自分の人生や生き方について深く考えさせられるきっかけとなる場」とバンコクフォーラムの意義を答える。

高校生や大学生、社会人とそれぞれの立場によって異なるだろうが、全世界で参加した人たちが国に帰って、新たな活動を創造していくことを目指すきっかけとしての意義は大きい。

 

 

参加者たちの声

では、冒頭のクラウドファンディングによって、OYWに参加してきた高校生たち、福島県いわき市出身の生徒たちは、どうだったのだろうか。

 

―実際にOYWに参加して何を学ぶことができましたか。

One Young World 根本

根本直哉:参加するまでは漠然と世界を見ていました。よく「世界を変える」というフレーズがありますが、様々な地域で実際に起こっている問題を解決して、世界がより良い方向に向かっていく、というのが一般的に認識されている意味ですよね。

そういう言葉に圧倒される自分がいて、「世界」や「国際化」という言葉に惹かれすぎていた面があったのだなと思います。

ただ、OYWに参加したことで、本質的な部分を見失っている自分に気づき、結局は世界を変えることって凄いことをしなくて良いと思えるようになりました。今では得意分野や力を発揮できるものを見つけて、自分のベストを尽くせば、結果的に世界は良くなると信じています。

また、様々な角度から教育の視点も学ぶことができました。一番得られたものは人との出会い。一秒一秒が本当に貴重だった。

一方で開催地であるタイの風景は先進国であったが、街中はその日暮らしの人が多い印象だった。

今後はフィンランドの大学院に進学し、世界の教育システムを学んで日本に普及させることが目標です。

 

 

One Young World 小野

小野翠:政治的にはお互いにいがみ合っている国同士でも、OYWにいる時は世界をよくしたいと思っているただ1人の人間で、違う人だということも忘れてアクション教えあったり、世間話したり、踊ったり、ああすごい空間だなって思いました。

 

 

永山優香:自分は元々、教育分野に興味があり、参加を決めた経緯があります。世界にどんな教育が必要とされているのか。逆にどんな教育が行われているのかが凄く気になっていたのです。セッションに教育分野があったのですけど、その時に初めて自分が思い描く概念が変わったと実感しました。

日本だと進学や就職のために勉強をしていますよね。でも海外では女性の地位確立や自身の身を守るための勉強を行っている。アフリカの人や難民の人の話を聞く機会があり、本当に日本は恵まれた環境だなと思いました。でもその恵まれた環境を活かせていない愚かさにも気づきました。

 

 

―今後の展望については?

小野:自分に何ができるのかを考えてみましたが、日本と世界のギャップが大きすぎて、世界は課題で溢れていて、自分では何ひとつ世界を変えられないと打ちひしがれました。でも、OYWにいたすべての人も1人で世界を変えることは無理だと思いいたりました。

だからこそOYWがあるんだし、あそこにいた人一人一人が目の前の課題に全力で取り組めば、いつか絶対に世界はいい方向に向かうと考えるようになりました。私も小さなことからでいいから目の前の課題に1つ1つ全力で取り組んでいきたいと思います。

 

One Young World 永山

永山:私は海外の大学に行って、教育学を専攻することを目標にしています。元々、アメリカで日本語の教師になるという夢を持っているので、まずはそれを叶える。その後は本当に教育を必要としている国に行き、子どもたちと触れ合う。

いずれはバックパッカーになって、色々なことに挑戦したいですね。将来的には自分の地元に帰って、自分の経験を伝えていきたいと思います。

 

 

世界の公用語は「問題意識」

彼ら3名の高校生を引率した市川さんの「世界の公用語は英語ではないと思えるようになった」という言葉も興味深い。

「参加した高校生は皆純日本人であるが、多くの学びを得ることができている。自分自身としては、気づいている人たちが集まっているからこそ、問題意識が世界の公用語だと思っています。

OYWは本当の意味で学びあえる場所。それは何かに対して、真剣に向き合っているから成り立っている。今後は様々な価値観を持っている人を参加させることで、多様性を重視することが目標です」

 

市川さんは、2016年の4月からはOYW関係も含めて、新社会人生活が始まるようだ。

これだけ多くの気付きを参加者に与えられているOYW。運営サイドの狙いは何なのか。

 

 

▼福島高校生 One Young World参加報告会の様子▼

オビ インタビュー

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大久保氏インタビュー

 

日本企業が抱える課題からOne Young Worldが見据える先まで、ありのままに語って頂いた。

 

―これだけ有益な取り組みでありながら資料を拝見させて頂くと、協賛は世界的なグローバル企業ばかりで日本企業がかなり少ない印象です。

 

これは端的に言ってしまうと、OYWで起きている大きなうねりを日本企業の皆様に重要だと意識して頂くことがまだまだできていないがためです。欧米企業は、次世代のリーダーになり得る若者達と接点を持つということのメリットを戦略的に捉えています。

例えば協賛頂いたある外資系企業は、グローバル人材の育成の絶好の場として、多くの社員を参加させて幅広い見識と世界人脈を築かせようとしています。

またある企業はCSRでありながらも最高のブランディングの場として活用されます。参加している若者だけでなく、オブザーバーとして参加している企業の方々も企業間ネットワーキングの場ともなりその関係性から様々な協業への発展にもつながっています。

 

OYWは世界初の産官学合同のフォーラムですから、これまでのユース会議とは異なります。 これからは日本企業の皆様にも、OYWが中長期的視野でどういった価値を持っていくのかという可能性を感じて頂きたいです。

 

 

―日本におけるOYWについてお聞きしたいのですが、今後はどういう展開を思い描いていますか?

190カ国以上から次世代が一堂に会するフォーラムは唯一OYWだけですので、是非とも多くの日本の将来リーダーとなる若者に参加できるように企業、大学、省庁に働きかけていくつもりです。

毎年50名から100名が派遣できるようにしたいですね。 大切なことは、単に学力レベルが高いエリート集団を派遣するのでなく、高い志と問題意識をもつチェンジメーカーに集まって欲しいですね。 英語ではシェイパーやムーバーという言い方をしますが、要は次の世代、社会にPositive Changeを齎す人材が重要になってきます。

 

 

―それはどういう要素で、選り分けるために見てらっしゃるのですか?

チェンジメーカーを画一的に定義することは不適切と考えます。大切な要素は三つでしょう。第一ははどういう「ビジョン」を持っているか。第二はそれを具体化するために、どんなことを「アイデア」として考えているか。第三はそれを実行するだけの「情熱」があるかどうか。いつもその三つを見ていますよ。

ビジョンは人や組織、コミュニティーを一つにします。アイデアは人をときめきかせる。情熱は人を惹きつけていく。人間は理性、感性、感情を備えています。

PositiveChangeを齎すためには、周囲が共感賛同し、共に動きだすことが大切なのです。 そんな人財になってもらいたいという願いを込めて選考に臨んでいます。

 

OYWを通じて地球がまるで一つのブランドになれば理想ですね。一つのブランドである以上、そのブランドの価値を最大化するために、例え多様な意見が出てきても、同じVisionのもとで建設的な意見交換が可能になる、互いを敬い信頼する人間関係が生まれてくる。

「地球は一つのブランド、そこに生きる我々は同じ地球人(グローバルシチズン)」と意識を持つことで、現代社会が抱える多くの問題も解決の糸口が見えるのではないでしょうか。 日本は国際社会の中で重要な役割を担っており、日本の存在価値や考え方が国際社会に大きな影響を与えるはずです。

 

だからこそ世界のトップリーダーと会うことは大切ですし、文化、宗教、歴史、価値観等の異なる190カ国以上から集まる同世代と交流し、刺激し合い、学びあうことは、多くの気づきを与えてくれるものと思います。「世界の今」は日本にいるとニュースの一面でしか伝わってこない。これでは、どこまでいっても真のグローバル人財にはなれません。

地球という枠組みの中で、日本とは、日本人とは、自分とは、といった問題意識が高まるはずです。

 

OYWでの経験は学校で教えるものではないし、普段の社会環境の中で得られるものでもありません。私はOYWというのは人生にとっての本当に自分たちの人生を変えるくらいの大きなきっかけ、気づきの場だと思っています。

人間というのは、気付きがあることによって、次に自分がどうしていこうか、どういうビジョンを持っていこうか、どういうアクションをしていこうか、というように必ず一人ひとりの生き方に活かされるはずです。そして、OYWを通じて出会った世界の人脈は必ずや人生の財産となるでしょう。

 

One Young World

報告会の様子

今回、福島の若い学生たちに来てもらったのも、もちろん福島で起きたディザスター(災害)は彼たちにとって大変な苦労であったし、それに対して日本が如何に復興対策を講じていくのか、その教訓を世界に伝えていくことは大切だと思います。

同時に、人種問題、宗教問題、政治・経済課題等の様々な問題に直面し、その解決に取り組んでいる世界の同世代と時間も空間を共有する意義は彼らにとって貴重な体験であったことと感じます。

地域目線や国家目線と共に、地球目線で事態を見た時に、自分の人としての価値や、地域や社会のあり方などが改めて見えてくるというものです。

 

 

―OYWを通して育った人が、日本をどういう風に変えていけるのか改めてお聞かせください。

一言でいえば、やはりPositive Changeを齎すこと。将来のために、今、行動すること。そのChangeの具体性は多種多様です。地元に帰ったときに、地域社会に貢献できる人物。学校に帰ったときに教育の在り方に提言できる人物。

企業に戻った際に、企業の将来価値を向上するためにケミストリーやカルチャー、プラクティスを改善するためのアイデアやアクションがとれる人物。

イノベーションを起こすということは、単に現状否定することでなく、既存のパラダイムをより価値ある方向に変えられる人です。そういう人物たちがOYWを通じて育てば良いですね。価値とは何かを見出し、その価値をどう最大化するかということに使命と情熱を抱く。もちろん、いかなる変革も一人では困難でしょうから、全てのステークホルダーを取り纏めていく、リーダーシップも発揮してほしいです。

 

 

―日本企業に何を伝えたいですか

日本国も日本企業も、もっとOYWの価値を利用して頂ければと感じます。これだけのスケールのサミットは日本初では作れないものです。世界的なこの動きやモメンタムをどう活用するか。

これは生意気な物言いですが、日本の未来がかかっているとさえ思います。日本の次世代を育成する戦略として、OYWの価値を理解頂ける企業、組織、社会がうまくこれを戦略的に活用して頂きたいと感じます。

企業にとっては、単なるCSRという発想でなく、グローバル・ブランディングや国際市場での有能な人材確保(リクルーティング)、社内のグローバル人材育成、世界ネットワーキングづくりとなるはずです。

 

繰り返しですが、OYWを通して、各国の人がボーダーを意識しなくなり、地球人として「One Planet」という意識に変われば、現社会の多くの問題、より建設的に解決されるであろうことを願っています。 OYWはそれだけの可能性を持っていると信じています。

 

―ありがとうございました。

 

オビ インタビュー

大久保公人(おおくぼ・きみひと)…One Young World日本委員長。40社以上のグローバル企業における世界戦略及びブランディング・コミュニケーションに関与。ヨーロッパをはじめ、北米、アジア等、30カ国との国際的プロジェクトに従事。世界とのネットワークを活用し、現在は、日本企業のためのグローバル人材育成のアドバイザー、地域自治体のブランディングやインバウンド事業、海外市場向けブランド・商品開発、など「日本の価値を世界の価値へ」をVisionに活動している。

 

組織概要

One Young World Japan Committee

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