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糸魚川信用組合 ‐ 「街づくり」の看板を掲げて12年。生き残りを賭けた挑戦、その実りと未来

◆取材:綿抜幹雄

オビ 特集
OLYMPUS DIGITAL CAMERA糸魚川信用組合/理事長 黒石 孝
糸魚川信用組合が街づくりに特化した部署を立ち上げて12年になる。同組4代目理事長の黒石孝氏は地元出身の生え抜き職員として、当初からこの事業に深く関わってきた。

今年から始まった第一勧業信組との連携など、同組にとって新たな局面を迎えた街づくり事業の〝今〟を同氏にうかがった。

 

糸魚川市の繁栄と衰退

新潟県糸魚川市で販売されている地域発のギフトカタログ「いといがわ百選」が人気だ。2011年の刊行以来、2万冊が売れ、市内で行われる冠婚葬祭や企業の記念品などに利用されている。

このカタログは糸魚川信用組合の「まちづくり推進室」が呼びかけを行い、集まった地元商店の女性たちが企画・監修したもの。

同組の4代目理事長・黒石孝氏は「糸魚川のグルメやグッズが網羅され、1冊税込み5400円、累計1億円超の売り上げを出しています」と話す。

cs_itoigawa_hisui糸魚川ヒスイの日記念日登録(5月4日)を記念して作成されたロゴマーク

新潟県の最西端に位置する糸魚川市は地域資源が豊かである。紅ズワイガニなどの海の幸に加え、ヒスイの産出量は全国1位、ユネスコから日本で最初の世界ジオパークの認定を受け、温泉地としても人気が高い。

ならば、経済もそれだけ活発に動いているようにも思えるが、話はそう単純ではない。

 

「当信組の営業エリアは糸魚川市、上越市、妙高市で、人口は合わせて約30万人です。6つある支店のうち5つが糸魚川市にあり、糸魚川に根を張る信組として創業65年になります。

当地域はバブルの恩恵をほとんど受けず、バブル崩壊後の1990年代頃が経済的な絶頂期でした。高速道路が通り、大型商業店舗が次々に進出してくると、旧来からの商店街や個人商店は疲弊しました。

1990年代後半には倒産する中小企業が増え、その頃、当信組の不良債権比率も20%を超えました。以前から続いていた若い世代の人口流出もより顕著となり、近年では後継者がいないために廃業する事業者も増えています」

 

 

生き残りを賭けた挑戦が始まる

銀行の預貸率の全国平均は1990年代には100%に近い状況にあった。しかし、近年は60%後半を推移している。いっぽう、同組エリアでの全金融機関の預貸率は40%に満たない。

預貸率は預金残高に対する貸出残高の比率である。全国と比べても糸魚川周辺地域の貸出は低い水準であることが分かる。

 

「この辺りは産業が少ない地味な地域です。だから、私どもも派手なことはできません。特に信組のように地域との関わりが深い金融機関は、地域の経済が縮小すれば同じように縮小します。将来を考えると、このままでは我々もこの地域も生き残れない。

そうした危機感の中で、2004年、まちづくり推進室を開設しました」

 

同推進室には金融業務を一切やらない専属の職員を2名配置。〝まちの存亡はいとしんの存亡〟をモットーに新たなる業務をスタートさせた。

 

cs_itoigawa_yakisoba同信組の職員が多数参加している団体「応麺隊」(ブラック焼きそば販売ボランティアグループ)の活動の様子

「最初は街づくりに関する論文を募集しました。そして、その論文の内容を実践する会『まちづくりサポーターズ』を設立したり、各業種別団体との『まちづくり懇談会』やご当地グルメ・糸魚川ブラック焼きそばを支援する会に職員の多くを参加させるなど、さまざまな活動を今日まで展開しています」

 

こうした取り組みを推進する理由の1つに、協同組織金融機関ならではの思いがある。

 

「一昔前までは銀行に追いつこうと躍起になっていました。しかし、我々と銀行とでは規模も成り立ちも違います。株式会社である銀行にはできない、地域密着を極めたことをやる、そのためのまちづくり推進室であり、生き残りを賭けた挑戦でもありました」

 

 

地元消費促進運動の提唱

こうした新たな活動は同組の金融機関としての信頼性も高めることとなった。街づくりの看板を掲げてからの10年あまりで預金残高は100億円ほど伸び、現在、同組の不良債権比率は4%台にまで下がったという。

そして、「いとしんは地域のことを考えてくれる」と評判を呼び、多くの街づくりに関する相談が同推進室に舞い込むようになった。

昨年には、地方創生の一環として政府が全国の自治体に求めた「地方版総合戦略」の策定にも糸魚川市からの要請を受けて参加。同組にとって、いつしか街づくりは同組を語る上で欠かせない「看板」となっていた。

 

cs_itoigawa_catalogギフトカタログ「いといがわ百選」。2011年の刊行以来2万冊が売れ、累計1億円超の売上を出している

「数年前から私どもでは地元で得た所得を地元で消費する地域好循環型経済の確立を目指し、『地元消費促進運動』を提唱しています。その成果として誕生したのがギフトカタログでした」

 

この運動は昨年、糸魚川市と市内の経済団体とが連携した「糸魚川市地元消費促進協議会」の設立へと繋がり、同氏はこの協議会の会長に就任する。

 

「人口減少や都市間競争の激化、大手資本の攻勢など、当地域の経済環境は厳しく、将来の展望も見えづらい状態です。『地元で調達できるものは、なるべく地元で』という消極的な考え方ではありますが、行政、産業界、市民が一体となり、地域産業の振興や経済のかさ上げを目指せればと思っています」

 

 

連携協力の成果とこれからの期待

地方版総合戦略は人口や産業の東京一極集中を是正し、地方の人口減少を食い止めるための施策である。近年、どこの地方においても人口流出は急務の課題であるが、そうした中、U・Iターンに関心を持つ若い世代が増えている。

 

「ただ、新潟県は雪の問題もあり、定住や移住を望む人たちへのPRが立ち遅れているのが現状で、市としても頭を抱えていました。そうしたタイミングで第一勧信さんから連携協力の話をいただき、渡りに船という思いでした」

 

同氏はさっそく糸魚川市役所の職員とともに第一勧業信用組合を訪れ、U・Iターン希望者向けのPR窓口を第一勧業信用組合の店舗内に開設した。

 

「こうしたPRが東京圏でできる機会は滅多にありません。少しでも多くの人が新しく入って来るなり、帰って来るなりしてくれたら嬉しいですね」

 

第一勧業信用組合と連携してから、まだ半年弱であるが、すでに表れている成果もある。

 

cs_itoigawa_gaikan本店外観

「第一勧信さんのお客さんがこちらの温泉宿に宿泊したり、私どものお客さんが東京観光へ行ったり、そうした観光交流の動きが始まっています。

また、都内の料亭などに糸魚川の産品を仕入れていただけるようにもなりました。地元での消費促進とともに、対外的な情報発信も今回の連携を機に、積極的に取り組んでいきたいと思っています。

私どもは地味な金融機関ではありますが、地域とともに歩み、新たな地域経済を創造していく、それが我々にとっての地方創生だと思っています」

 

 

同氏は同組で初めて誕生したプロパーの理事長である。糸魚川市で生まれ育ち、この町の繁栄も衰退もつぶさに体感してきた。

そんな同氏は、現在、同組を「地域になくてはならない金融機関にしたい」と奔走する。その思いの裏には、街づくりを他人任せにはせず、自分たちの課題として主体的に取り組もうとする地元民ならではの地域愛がある。

そして、その愛情こそが、地方創生を成功へと導くエネルギーに他あるまい。

 

 

オビ 特集

●プロフィール

黒石孝(くろいし・たかし)氏…1952年、新潟県糸魚川市生まれ。1970年、県立糸魚川高等学校卒業後、糸魚川信用組合に入組。2008年、同組の理事長に就任、現在に至る。

 

●糸魚川信用組合

〒941-0057 新潟県糸魚川市南寺町1丁目8番41号

TEL 025-552-9880

http://itoigawa-shinkumi.co.jp/

 

 

 

◆2016年8月号の記事より◆

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