プリント

貸出プラスαの支援で地元を元気に!合理性だけでは測れない中小企業・小規模事業者の存在意義

富山県信用組合/理事長 荒木 勝氏

◆取材:綿祓幹夫

オビ 特集

「中小企業・小規模事業者は存在そのものが地域にとって元気の源なんです」。

そう語るのは昨年6月、富山県信用組合(本部、富山県砺波市。本店、富山市)の理事長に着任した荒木勝氏だ。

多くの金融機関がひしめき合う富山県で同組合では預金・貸出業務の枠を超えた企業支援に力を入れ始めている。

今回はそんな同組合の取り組みを掘り下げながら、真の地方創生成功へのヒントを探る。

 

 

信組だからできる、きめ細かな対応

資金需要の低迷やマイナス金利政策を背景に金融業界では低金利競争が激化している。レッドオーシャンとも呼ぶべきそうした世界から一線を画し、独自の戦略で躍進する信用組合を本連載では取り上げてきた。

本部を富山県砺波市に、本店を富山市に構える富山県信用組合もそうした一歩を踏み出した信組である。

 

昨年の春まで富山県庁に勤めていた荒木勝氏が同組合の理事長に就任したのは退職後の6月のこと。そのとき、同氏はある思いを抱いたという。

 

「私が想像していたよりも当組合では預金や融資などの信用業務に力を入れている印象を受けました。もちろん、それは大切な仕事です。ただ、当組合は地域密着型の協同組織金融機関です。銀行と違い、お客様一人一人にきめ細かな対応ができるからこそ、貸出以外の支援活動にももっと力を入れたほうがいいのではないか、そんなことを思ったのです」

 

 

多くの金融機関がひしめく富山県

同組合は1951年に中越信用組合として発足したのが始まりだ。その後、4つの信組が合併したことを機に1988年、富山県信用組合となった。現在、15の支店を有し、営業エリアは富山県全域におよぶ。預金残高に対する貸出残高の比率である預貸率は43%前後で、これは50%と言われる全国の信組平均を下回る数字である。

 

「以前は70%を超える時期もありましたが、不良債権問題などで査定が厳しくなり、徐々に下がっていきました。地域社会の発展に繋がる融資をすることが私たちの役割の1つです。だから、協同組織金融機関を名乗る以上は6割、7割くらいの預貸率を維持したいのですが、なかなか実現できない状況があります」と同氏は歯噛みする。

 

富山県は北アルプスや飛騨山脈から得られる豊富な水資源を活かし、古くから農業や工業が盛んな地域である。

特に水力発電によって供給される安価な電力は医薬品、アルミ建材などの金属製品、一般機械、電気機械といった産業を支え、同県は戦後、「モノづくり県」として栄えてきた歴史を持つ。そして、それらの産業とともに県内の金融業も発展を遂げてきたのである。

そのため、同県には地方銀行の中でも全国屈指の規模を誇る北陸銀行のほか、2つの地方銀行が本店を構えるなど、金融機関の数が多く、それゆえ、低金利競争も激しい地域として知られる。

 

「隣県からも地銀さんが進出し、貸出先の獲得競争が激しくなる中で、それに対抗しようと私たちも努力してきました。しかし、信用組合は銀行と比較すると知名度が低く、組織的な体力もありません。銀行と同じ土俵で低金利競争を挑んでも分が悪いのです。だからこそ、当組合にしかできないことで地域に貢献できる方法を理事長に着任して以来、模索してきました」

 

 

地方創生の一番の命題とは?

けんしんビル外観

信用組合にとって「組合員」は「顧客」に当たる。

組合員になるための条件は事業者の場合、根拠法により「従業員300人以下または資本金3億円以下」と定められており、同じ協同組織金融機関である信用金庫のそれと比較して小規模となる。

同氏は「小規模事業者に活力がなければ、地方経済が豊かになるはずがありません」と力を込める。

 

「地域で生活する人々や地域で活動する事業所に活気があるからこそ、県全体だって元気になるんです。だから、地方創生の一番の命題は地域に根ざした中小企業・小規模事業者を元気にすることだと考えています。

当組合には長い歴史の中で信頼関係を築いてきたお客様がたくさんいらっしゃいます。

そうした方たちを元気にするには、信用業務とは別の視点でサポートすることも必要なのではないか、そんなことを考え、昨年10月、顧客サポートチームを発足させました」

 

同チームの主な業務は創業支援と助成金・公的資金の活用支援だ。中小企業診断協会など外部の専門家との協力態勢を築き、外部リソースの活用も積極的に行う。

そして、同チームをさらに発展させた形として、今年4月に誕生したのが地域支援部である。その狙いを同氏は次のように語る。

 

「組合員の方々の生産性が少しでも高くなるようなサポートができたらと考えています。また、県外から人を呼び込むための観光PRも大きな柱です。さらには経営改善が必要な事業所に対する支援にも積極的に取り組んでいきたいと思っています」

 

 

連携協力にかける期待

第一勧業信用組合(東京都新宿区)が推進する地方連携事業に賛同して連携協力の協定を結んだ信組は、この1年半で18組合にも上る。富山県信組は今年4月、信用組合として17番目に第一勧業信組との協定を締結させた。これが地域支援部の最初の取り組みでもあった。

 

「2年前に北陸新幹線が開通し、東京へのアクセスがよくなりました。首都圏で販路開拓をしたい、あるいは首都圏でビジネスマッチングの場を設けることはできないか、組合員の方からそんな相談を受けることが増え、何かいい手立てはないかと思案していたとき、第一勧信さんの取り組みを新聞や雑誌で知りました。これはぜひ、第一勧信さんとお話がしたい、お話をしなければいけないと感じました」

 

協定では両信組の取引先同士による販路拡大、あるいはビジネスマッチングのための拠点として第一勧業信組のオフィスを活用することなどが取り決められた。また、9月に第一勧業信組の店舗で開催される物産展への参加も決まった。

さらに同氏が期待するのは富山県から首都圏に進学した学生を地元企業で採用するためのきっかけ作りである。就職活動をする学生に対して企業PRの場として第一勧業信組の店舗を活用するという。

 

「富山県は大学進学率が非常に高いのですが、県外大学への進学志向も強いのです。いったい何人が地元に戻って来てくれるのかと、地元事業者の間では昔から話題に上っています。ただ、地元就職を希望する学生が多いのも富山県の特徴です。これまでそうしたニーズに応えられないもどかしさが地元の事業者にはあったのですが、今回の連携を機に若手人材を獲得する機会が増えればと考えています」

 

 

中小企業・小規模事業者こそ、多様な人材の受け皿になれる

少子高齢化が進む日本において生産年齢人口の減少は避けられない現実である。そこで近年、注目されているのが多様な働き方、多様な人材の活躍を実現するダイバーシティ経営による雇用の創出だ。それは同氏にとっても大きなテーマとなっている。

 

「これからの時代、65歳以上の方や女性の方も活躍できる、あるいは短時間勤務などさまざまな働き方が実践できる、そうした場をいかに創出できるかが地方経済の活性には大事だと思っています。大手企業がそれに応えられるかと言えば、必ずしもそうではありません。むしろ、小規模ながら多種多様な業態が存在する中小企業・小規模事業者のほうが、多様な人材の受け皿になりうるのではないでしょうか」

 

 

合理性だけでは測れない、中小企業・小規模事業者の存在意義とは?

ところで、どんな金融機関であれ、融資の際には経済的な合理性が1つの判断基準となる。しかし、同氏は合理性だけで中小企業・小規模事業者を見てはいけないという。それはどういうことか。

 

「私は中小企業・小規模事業者は存在そのものが地域にとって元気の源であると思っているんです。一時期、アメリカ型の合理主義経営が多くの企業に導入され、成果主義がもてはやされました。効率の悪い事業所は淘汰され、その結果、何が残ったでしょうか。

日本人の雇用の7割は中小企業・小規模事業者が担っています。その数は3000万人以上に上り、さらにその後ろには地域社会で生活する家族がいます。そうした大勢の人々を支えているのが中小企業・小規模事業者です。だから、効率の良し悪しは二の次であり、まずは存続することが何よりも大切なんです。

そして、存続するからには少しでも生産性の高い、効率性のある事業を行っていく。それをサポートし、一生懸命応援する。究極のところ、それが信用組合の最大の役割であると思っています。

今まで当組合では資金面でのサポートに比重を置いてきました。今後はそこにプラスアルファして、人材の確保や育成、情報提供、販路開拓、マッチング、そうした資金面以外でのサポートも積極的に行っていきたいと考えています」

 

 

同氏は県庁時代に中小企業振興に関する業務に携わった経験がある。そのとき、小規模事業者が担う役割の大きさを痛感し、中小企業・小規模事業者への関心を強めていった。それが遠因となり、同組合の理事長に就任することとなったという。

 

「東日本大震災のときにも注目されましたが、小さな事業所が生産する部品が供給できなくなるだけで、大手自動車メーカーの生産もストップしてしまいます。それだけ中小企業・小規模事業者が担う役割は大きいんです。県庁に勤めていたころは間接的なお手伝いしかできませんでしたが、今は直接的に支援ができるということで大きなやり甲斐を感じています」

 

地元で活動する中小企業・小規模事業者へ注ぐ同氏の情熱が地方創生の種子となり、芽となることに期待したい。同組合の本部がある砺波市は有名なチューリップの産地だ。その芽はやがてチューリップの如く、明るく元気な花を咲かせてくれるだろう。

 

砺波市はチューリップの産地として有名

 

オビ 特集

◉プロフィール

荒木勝(あらき・まさる)氏…1953年、京都府舞鶴市生まれ。父親の仕事の関係で富山県へ移り、小中高と富山県で過ごす。1976年、金沢大学法文学部卒業後、富山県に入職。中小企業振興や金融に関わる業務に携わり、以後、商工労働部長、知事政策局長、公営企業管理者などを歴任し、2016年に退職。同年6月に富山県信用組合の理事長に就任、現在に至る。

 

◉富山県信用組合

http://www.toyama-kenshin.co.jp

(本店) 〒930-8681 富山市大手町3番5号 TEL 076-421-5541

(本部) 〒939-1371 砺波市栄町5番26号 TEL 0763-33-3351

 

 

◆2017年7月号の記事より◆

WEBでは公開されていない記事や情報満載の雑誌版は毎号500円!

雑誌版の購入はこちらから