第一勧業信用組合×城南信用金庫

全国の信用組合をはじめ大学や行政、証券会社など、多様な業種と連携して地方創生に取り組む第一勧業信用組合は、都内信金の中で最大規模の預金量を持つ大手信用金庫・城南信用金庫と「地域経済の活性化における連携協力に関する協定」を結ぶことを発表。2018年3月22日に、城南信用金庫本店10階で調印式が行われた。

 

信用組合と信用金庫は同じ協同組織の金融機関ではあるが、業界の枠を超えて両者が提携するのは全国でも初めての試みだ。

そこにはどういう狙いがあるのか。第一勧業信用組合・新田信行理事長(=写真左)と城南信用金庫・渡辺泰志理事長(=写真右)の話を軸に、連携に至った経緯や今後の展望について紹介したい。

 

 

書籍と先人の言葉が繋いだ両者の縁

今回の第一勧業信用組合と城南信用金庫の提携は、一言で言えば、両者が共に力を入れる地方創生や創業支援、町づくりなどの分野で協力することで、地域社会の発展、延いては日本全体の活性化により大きなプラスの効果をもたらそうというものだ。

 

第一勧業信用組合は、これまで本誌でも「地方創生プロジェクト」と題したシリーズでお伝えしてきた地方と東京を結ぶプロジェクトの数々、革新的なビジネスの共創をめざした起業家支援「TOKYOアクセラレータプログラム」、地域の中小企業の事業拡大を支える「かんしん未来ファンド」、「コミュニティローン」、「かんしん未来ローン」など、多彩な方法で地域活性化を促す「人とコミュニティの金融」と「育てる金融」を実践してきた。

 

一方の城南信用金庫はといえば、「人を大切にし、思いやりを大切にし、コミュニティを大切にする」協同組合の理念をベースとする地域密着型の金融機関。

売上や販路の拡大から創業・企業、事業承継、税務まで顧客のどんな悩み相談にも応じる「城南なんでも相談プラザ」や全国から400以上の出展者が集まるビジネスフェアである「〝よい仕事おこし〟フェア」などを開催し、こちらも預金・貸付業務に止まらない幅広い取り組みで、東京・神奈川エリアの地域社会・地域経済の発展を支えている。

 

これだけその理念や経営方針に共通性がある両者なら出会うのも必然かと思えるが、実はごく最近まで特に交流はなかったという。

 

それが連携へと進む直接のきっかけになったのは、2017年5月に新田氏が第一勧業信用組合理事長としての取り組みをまとめた書籍『よみがえる金融—協同組織金融機関の未来(ダイヤモンド社)』を出版したことだ。

この本を読み、感銘を受けた渡辺氏らが新田氏を訪問。信用組合と信用金庫と業態は違うものの、目指すところは同じであることを確認し、訪問から約2カ月での調印式となった。

 

第一勧業信用組合理事長
新田信行氏

そんな今回の提携を、新田氏は「一言でいうなら“ご縁”ですね。私にとっても感慨深い調印式です」と話し、その理由を次のように語っている。

「私が、第一勧業信用組合に来てまる5年近くになります。

その間、協同組織金融機関のあるべき姿を自分なりに模索し、実践してきたのですが、その中で城南信用金庫さんの先輩理事長である小原鐵五郎さんの言葉は、私の中に結構いろいろな意味で刺さっています。

例えば〝貸したお金が先方のお役に立ち、感謝されて返って来るような、生きたお金を貸さなければいけない〟とか〝人柄に貸す〟などですね。

だから城南信用金庫さんは私にとってすごく親近感があったし、訪問を受けた時もこの話なんかを通じてすぐ意気投合できて、正直嬉しかったです。

これまで約40ぐらいの連携を行ってきましたが、どれもが人の縁から生まれたもの。そのつながりを大切にするのが協同組織なんじゃないかな、というつもりで即断させていただきました」

 

 

共通するのは「人」を大事にする姿勢

戦後のモノ不足の時代から高度経済成長、バブル期とその崩壊を経て、現在の日本はモノ・金・サービスが溢れかえっており、量より質、モノから人への転換が進んでいる。

そんな中、第一勧業信用組合と城南信用金庫の両者に共通するのは、徹底して人を大切にする姿勢を貫き、金融機関という枠にとらわれず「人」の支援に焦点をあてた事業を行っていることだ。

 

近年の金融界は、融資審査におけるビッグデータの活用や融資型クラウドファンディングなど、フィンテック(金融とITの融合)を利用したサービスも増えており、地域の金融機関のあり方にも影響が出ていると言われている。

 

だが、「我々は金融機関である前に町の信用金庫であり、金融機能を持った協同組織。道具であるフィンテックとはまったく分野が違うので、フィンテックがどれだけ発達してもその必要性は変わらない」と渡辺氏は言う。

城南信用金庫理事長
渡辺泰志氏

 

「僕らは金融機関である前に、人とコミュニティの組織。町のゴミ掃除をしたり、御輿を担いだりは、単なる手伝いではなく、町の協同組織である僕らの本業です。

でも町内会や商店会を運営するには、必ずお金が付いて回ります。

だから、金融機能を持った協同組織であるのであって、その点が都市銀行やコーポレートバンキングとの最も大きな違いです。創業支援ではただ融資するのではない、地域の中小企業と一緒に未来を作っていくのが僕らの使命。

これからの日本社会で重要になるのは、むしろフィンテックよりそういうものだと思っています」

 

 

城南信用金庫の営業エリアは東京・神奈川だが、この地域の経済活性化のためには、全国規模で地方と東京を結ぶことが必要不可欠と考えているのも、両者に共通する大事な視点だ。

日本の人口は2015年の国勢調査から減少に転じているのは周知の事実だが、東京については地方からの人口流入があるため、今後も数年間は増加が続くと言われている。

それだけ人や物が集まる東京が「ハブの役割を果たしていないと地方が死んでしまう。ハブの機能を最大限に活用して、地域を維持し、守っていくことが重要だと考えています」と渡辺氏は言う。

 

新田氏も「自身の生産品がない東京の魅力は、地方とつながっていること。東京が輝いていくためには、日本全体を考えることが不可欠だと思います。

東京を訪れる世界一流の方々に文化的に何を発信できるかは、東京だけの問題だけでなく日本の問題であり、人口の問題ではなく生産性や人、付加価値の問題。

その課題に応えられるのは、量の経済の株式会社である銀行ではなく、町の一つひとつの町内会、商店会を見ている協同組織の役割ではないかと思います」と話し、調印式に続く質疑応答の中で、改めて地方創生の重要性を強調している。

 

 

地方創生、創業支援、人的交流など7分野で連携

今回の「地域経済の活性化における連携協力に関する協定」では具体的な連携分野として、「地方創生に関わることや東京と地方を結ぶこと」「安定した雇用を創出し、維持すること」「地域及び暮らしの安心・安全を守ること」「商品開発に関すること」「職員の教育・交流に関すること」など7つが明記されている。

一部を除いて実際に動き出すのはこれからだが、特に期待が大きいのは地方創生、雇用の創出、人的交流の3つの分野だ。

 

まず東京と地方を結ぶ取り組みとしては、共同でのイベント開催が考えられているほか、「〝よい仕事おこし〟フェア」の出展でも協力していく方向。

 

また、雇用の創出については「雇用は創業からしか生まれない」との真理から、創業支援に力を入れたいと新田氏は言う。

「私どもはインキュベーション施設(創業者支援のための施設)を持っていませんから、城南信用金庫さんが立ち上げられるインキュベーション施設には非常に興味があります。一方、私どもは起業・創業を目指す方や創業後間もない事業者を支援する〝かんしん未来ファンド〟を運営しており、併せて私どものアドバイザーや評議員としてファンドを持っているお客様もいらっしゃいます。

もし城南信用金庫さんがこの辺の創業支援周りで、ファンドにも踏み込んでインキュベーション施設を運営されたいというのであれば、ここについては全面的にノウハウを提供する準備はあります」と、非常に前向きだ。

 

人的交流についても、渡辺氏は「職員の出向はいろいろな連携先と行っており、ぜひ学ばせてほしいと思います。同時に、私どものいろんな施設がありますから、そういうものも使っていただきたい」と積極的な人事交流への期待を覗かせている。

これに対して、新田氏も「人的交流は、実は当社の今年のテーマの1つ」とした上で、「若い職員にとっては、外に出て違う所を見るのは非常に勉強になると思います。行政を含めていろいろな連携先に職員を行かせたいと思っているので、渡辺理事長のご提案はたいへん嬉しい」と返答。

「逆にうちで勉強したいと言われるなら、双方向でやりますよと申し上げています」とも述べて、すぐにでも交流が始まりそうだ。

 

 

進歩は常に変化から生まれる。

業界の枠を超えた連携により、東京から地方、そして日本全体へと「人を大切にし、地域コミュニティを大切にする」地方創生の取り組みの波が広まることを期待したい。

 

 

 

新田信行(にった・のぶゆき)

1956年千葉県生まれ。1981年一橋大学卒業。第一勧業銀行(現・みずほ銀行)入行。2013年第一勧業信用組合理事長。

 

第一勧業信用組合(本店)

〒160-0004東京都新宿区四谷2-13

TEL:03-3358-0811

URL:http://www.daiichikanshin.com/

 

 

渡辺泰志(わたなべ・やすし)

東京都出身。1983年横浜市立大商卒、城南信用金庫入庫。

2004年に理事、08年に常任理事、17年からは理事長を務める。

 

城南信用金庫(本店)

〒141-8710

東京都品川区西五反田7-2-3

Tel:03-3493-8110

URL:http://www.jsbank.co.jp