外資系企業から見るブラック企業とは?

◆取材・文:加藤俊

佐々木宏(ささき・ひろし)氏…経営&ビジネスコンサルタント。早稲田大学大学院生産情報システム研究科博士課程後期中退。早稲田大学在学中に、シンガポール国立大学MBA課程に派遣留学。日系シンクタンク及び外資系コンサルティング会社を経て、2004年、(株)テリーズ社設立、代表取締役に就任。中堅・中小企業向けの経営コンサルティング、ビジネスコンサルティングを数多く手掛け、中期経営計画策定、資金調達、各種プロジェクトマネジメント、システム導入など経営全般に関わる支援サービスを展開している。


都市銀行系シンクタンクを皮切りに、監査系コンサルティング会社、ITコンサルティング会社といった外資系コンサル畑を歩んで、2004年に株式会社テリーズ社を設立というキャリアを歩んできた。その私なりに、ブラック企業のブラックとは何を意味するのかを考えてみる。

そもそも、この言葉には幾つかの定義があると思う。人によってその定義は異なり、かなり主観的な解釈で捉えられるが、私は、何故働くのかという問いに対しての=食べるためや、=自己実現を果たすためという理由が、どちらかでも満たされない環境は、当人にとっては、ブラック企業と映る可能性が高い、と思っている。
つまり、=食べるためが満たされない言い逃れようのないブラックとして、法的、社会的に決められたルールを守らない会社が根底に有り、例えば、最低賃金を下回る、またはサービス残業の強要、あるいは、強要こそしないが、従業員に過度な無理を強いる空気が社風などと呼ばれ常態化している会社等がここに位置づけられ、これらは淘汰されて然るべきものと思う。

しかし、一方では、社会的に決められたルールは遵守してはいるが、=自己実現を果たすため、というレイヤーが満たされない環境もある。例えば、働いても将来の希望や見込みが立たない会社であり、私はこれもブラック企業と考える。希望が見出だせない状態で働き続けなければならない辛さは、経験した者にしかわからない。

 

マネージメントとしてのポリシーがない環境

佐々木宏 (2)

その意味で言うと、私の最初の職場もホワイト企業とは言い難かった。銀行系のシンクタンクだったが、マネージメントとしてのポリシーがない環境だった。会社が向かう方向性が明示されないことに加えて、自由に動く裁量も与えられなかったので、苦しんだ。

言われることは、ハンコが曲がっているとか、そんなことばかりで、会社からのメッセージも制度も体制もないなかで、ただ、知的付加価値をつけろといった言葉が投げ交わされていた(肝心の知的付加価値の中身とは何なのかを問うても、納得できる解答が得られることがなかった。当時、上長の「お前が30歳になればわかる」、といった答えばかりが印象的だった)。

 

しかも実際に忙しかった。仮眠室があったので、時々休むのだが、レポート締め切り前はとても忙しく、日を跨いだ2時3時に寝転がりに行くと、警備員に「今日は早いね」と言われる、そんな環境だった。

そもそも私は、経営者から従業員までの気持ちがひと通り理解できるコンサルになりたかった。その会社にこの先20年いて、経営者の気持ちがわかるようになるかを自問した時に、答えが否だったため、入社から4年を経て、退社した。確かにブラック企業か否かはかなり主観に左右されるだろうが、最終的に、数十人いた同期のうち残ったのはほんの数人になったことを考えると、多くの人にとって良い環境ではなかったと言ってよいのではないだろうか。

 

監査系コンサルティング会社はホワイトだった

次は監査系で外資のコンサルティング会社に行った。ここはホワイト企業だった(笑)。もちろん外資系コンサルだから労働時間は長い。夕方5時頃になって、明日名古屋に行って来い、それで翌日の20時には会議があるから戻って来いとか、そんな毎日だった。

では、ホワイト企業たる所以は何かというと、結局、自分が成りたいと思える理想像に繋がるプロセスが、会社にいて得られるという確信が持てたことなのだと思う。端的に言えば、自己の成長を感じることが出来た。これは最初の会社にはなかった。そういえば、あの頃、マイクロソフトのキャッチフレーズで「月曜日が待ち遠しい」というのがあったが、正にそれだった。仕事が心底楽しいと思えた。

 

労働時間は超ブラック、IT系コンサルティング会社

佐々木宏 (1)

ここは業界でもハードで有名なコンサル会社だったので、覚悟はしていたが、いざ入ってみたら想像以上に過酷な環境だった。まず、労働時間だけを見れば、超ブラックというか、休む時間が殆どない(笑)。本当に酷い時は、1週間で7時間しか寝ていないなんてこともあった。

 

例えば、9:00から仕事が始まるとして、数時間は顧客対応に終始で、昼食を食べる余裕はまずない。食べることができたとしても、吉牛を食べに行くぐらいのもので、それも15分後にはMTGに戻らないといけない場合が多かった。それで戻って、19:00頃まで仕事をして、顧客が帰って、ところがそこからMTGがまた3つぐらいあって。深夜、日を跨いだ頃にやっと仕事が終わるのだが、そこですんなり帰れない。急遽明日までにレポートを仕上げろ、と指示される。

「既にもう明日なんですけど…」、なんて愚痴を零しながらプロジェクトメンバー3人ぐらいで半ベソかいて、数枚のレポートを書きあげたら、4:00。とりあえず仕上げたものをmailで送る。そうすると4:15には返事が返ってきて、大抵ダメ出しをされて、また書き直すことに。で、結局6:30ぐらいにやっと仕事が終わる。そこから家に帰って、少し横になって休み、それで8:00ぐらいには目覚め、会社に行って、9:00には、顧客に昨日のレポートを涼しい顔をしながら渡す、と。そんな仕事が月~土曜までという生活だった。

 

確かに高い給料

でも、外資系コンサルなので、その分給料は良いのだろうと思われがちだが、確かに高いは高いが、実際には、世間の2,3割高い程度のことだ。それで、パートナーは「お前らは、お客様より良い給料をとっているのだから3倍働け」なんてメッセージを飛ばしてくる。実際なんかおかしいなと思いながらも3倍働いて応えようとするものなのだが。まぁ、実際、世間より多く給料を貰うということが、自分の自尊心を満たしもしていた……。

そういった意味では、パートナーの言葉も制度も何から何までIT系コンサルティング会社は一貫していた。ただ、『パフォーマンスを出せ。クライアントファーストだ』と。そして、それは「クライアントにバリューを出せる仕事さえしていれば、後は全部会社が面倒を見ます」というメッセージでもあった。

例えば、Job Secretary(主にプロジェクトの庶務系作業を担当してくれる本当に有難い存在)の存在。これは本当に極端な話だが、仕事が忙しく着替えを買いに行く暇もないから、「Yシャツを洗濯して、パンツを買ってこい」と指示すると、その要望にきちんと応えるジョブセクがいた。

 

こうした意味でIT系コンサルティング会社には、自分が期待されていることが見えていたし、皆が顧客に対してバリューを出すため、200人のプロジェクトを一丸になって頑張っているという一体感もあった。そして、自分が成長しているという確かな実感もあった。そのため、過酷な長時間労働ではあったが、ブラックな環境だなどと感じることはなかった。

要するに、自己実現を果たせる環境であれば、それがどんなに過酷な環境でも、プロアクティブに肯定できるものなのだろう。例えば、自衛隊に入って、上官に毎日殴られるような過酷な環境でも、自分の身体を強くした、といった思いや日本の防衛のために役立ちたいと思うことができれば、堪えられるキャパは増えるのと同じなのだ。

 

ブラック企業という悪評を立てられたら……

さて、私のキャリアの話はここらへんにして、最後に、中小企業がブラック企業と悪評を立てられた際に取るべき対応を考えてみたい。結局、一番良いのは無視することだ。なぜなら、自社の価値に関係することでは無いからだ。ブラック企業か否かなんて、サービスの価値や製品とは直接的に関係ないことである。

そんなことに対応するコストをかけること自体、株主と顧客に余計なコストを転化することに繋がるのだから愚かしい。基本的に噂なんて75日で消えるものと構えていれば良いのだ。まぁ、もしかしたら、噂を見て、労基署の方が調査に入るかもしれないが、それは単年度のギブと思って諦めて頂く、と(笑)。

地方の企業なら地域が狭いので、一度悪評が出ると支障が大きいと危惧するかもしれないが、ネットはその地域の人が書き込んだかどうかさえわからない性質のものだ。あたふたして得るものは何もない。書き込みに反応して、キャンペーンや制度を変えるなどはくだらないことと思う。

地域社会の中できちんと価値や存在する意味を日頃の活動の中で出していれば、ブラック企業という悪評を立てられても、その地域の中で必ず守ってくれる声は上がってくるものだし、そもそもダメージを受けてもリカバリーが早いだろう。

つまり、自社がブラック企業と指摘されないためには、自社が地域の中でどう貢献するかを考えて日頃から行動することが、最大の防御策になる。

【取材のセッティングにあたり、創光技術事務所筒井潔氏に尽力頂いた。】

 

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佐々木(ささき・ひろし)氏…経営&ビジネスコンサルタント。早稲田大学大学院生産情報システム研究科博士課程後期中退。早稲田大学在学中に、シンガポール国立大学MBA課程に派遣留学。日系シンクタンク及び外資系コンサルティング会社を経て、2004年、(株)テリーズ社設立、代表取締役に就任。中堅・中小企業向けの経営コンサルティング、ビジネスコンサルティングを数多く手掛け、中期経営計画策定、資金調達、各種プロジェクトマネジメント、システム導入など経営全般に関わる支援サービスを展開している。

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℡ 03-5546-1071
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2015年2月号の記事より
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