◆取材:綿抜幹夫

 

欧米型の株式資本主義も、中国型の国家資本主義も、格差社会や争いを生み出してしまう。本来あるべき資本主義の姿は、江戸時代の「商人道」や渋沢栄一の『論語と算盤』のような日本古来の精神を取り入れた「公益資本主義」であるとする考え方がある。提唱者は実業家・ベンチャーコーディネーターで内閣府本府参与も務めた原丈人氏だ。

本誌2014年12月号では、原氏に「公益資本主義」について語っていただいたが、今回は公益資本主義社会の実現に向けた具体的な取り組みの模様をご紹介しよう。

原丈人氏・特別インタビュー 日本再生の鍵を担う「公益資本主義」

原氏が代表理事を務める公益資本主義推進協議会の顔とも言える存在が、日々講演活動に飛び回る同協議会理事・会長、株式会社フォーバル取締役会長の大久保秀夫氏。別枠囲み記事にて「『公益資本主義』とは何か」について、大久保氏の言葉を掲載するので、まずはそちらをご一読いただきたい。

 

【公益資本主義とは何か】

公益資本主義推進協議会/会長 大久保秀夫

公益資本主義推進協議会/会長 大久保秀夫

バブル崩壊以降、日本人・日本企業に元気が無いのは、皆さん違和感を覚えながらも米国型資本主義のルールで経営をしているからです。それは言うまでもなく、本来の在り方を忘れ、マネー・ゲームに陥ってしまっている、いろいろな面で限界が見えつつある資本主義だからです。また、アメリカを猛追する中国の「国家資本主義」に対しても、儲けるためならなりふり構わずというスタンスに、非常に大きな危惧を抱いています。

では、この経済を支える会社というのは、本当は誰のものなのでしょうか?

私は会社というものは、「社会の公器」であると考えています。すなわち「社員」のものであり、「顧客」のものであり、そして「株主」のものであり、「取引先」のものであり、「地域」のものなのです。

このようにステークホルダー全てを、社会全体を大事にすることによってのみ、企業は利益を永続的に得ることができ、結果として出資をしてくれた株主にも利益を返すことができるのです。

日本では古来、こうした考えに則って商売が行われていました。私はそういう本来あるべき経営の在り方にもう一度、しっかりと目を向けていくことが、いまこそ必要であると確信しています。

これから世界経済の中心となるべきは、米国型の株主資本主義でも中国型の国家資本主義でもありません。むしろ日本が発する、社会全体の利益を考える資本主義、「公益資本主義」であると考えます。

私は、こうした考えを日本、そして世界を変えていくための力としていくためには、「公益資本主義推進協議会」という組織を作り、公益資本主義に関することは全てこの場で議論をし、この場から発信するという仕組み作りをしていくことが必要であると考えます。

ご協力、よろしくお願いいたします。

 

道徳教育・倫理経営・公益資本主義『日本創生シンポジウム』

倫理経営・公益資本主義に触れる絶好の機会として、5月16日(土)、2000人弱を収容できる文京シビック大ホールにて、東京都倫理法人会の主催による『日本創生シンポジウム』が開催される(問い合わせ先:東京都倫理法人会事務局)。道徳教育・倫理経営・公益資本主義で日本・アジア・世界創生を目指すこのイベントの主旨ならびに、各パネリストの講演概要をご紹介しよう。

〈5月16日「日本創生シンポジウム」開催にあたり〉

この度、東京都倫理法人会が主催となり、公益資本主義推進協議会・倫理研究所が後援し「日本創生シンポジウム」を来たる5月16日に開催する運びとなりました。このシンポジウムでは今後の資本主義の在り方を4名のパネルディスカッションを通じて協議し、新たな経営スタンスを学ぶ機会としてご参加いただければ幸いと存じます。

 

◉基調講演

文部科学大臣、教育再生担当大臣、東京オリンピック・パラリンピック担当大臣

下村博文氏

〈講演概要〉学校現場での道徳教育の現状と今後の教育改革

下村博文氏

現在、日本は子供たちが生きる力を失い、無気力、希望が持てないなど諸外国に比べて著しく悪い結果になっています。

漸く第一次安倍内閣で戦後容易に改革できなかった教育基本法を改正、「国を愛する心」を組み込みました。また、昨年四月から特別教科化された道徳教育が開始され「わたしたちの道徳」教材が各小中学校に配布されましたが、残念ながら副教材で、使用義務がないのです。国民大多数が道徳教育を願っているにも関わらず、学校現場では道徳教育が行われておりません。

この国を変える、再生するには抜本的教育改革が必要であると思います。教育の仕組みが依然として画一的であり、教育の多様性が必須であり、国民の幸福度や価値観が多様化する時代の中で、一人一人の子供がもつ様々な能力や才能を引き出し、生かしていく教育が求められます。

文部科学大臣として何としても教育改革を成し遂げる事が私の責務だと思います。

 

一般社団法人倫理研究所

丸山敏秋理事長

〈講演概要〉大転換期時代到来と倫理経営

丸山敏秋理事長

人類文明の大転換期をわれわれが生きています。経済システムの転換も例外ではありません。グローバル化した資本主義は、マネーゲームの狂乱と著しい格差社会を生み、画一化による文化の破壊をもたらしました。

近代経済学の父と呼ばれるアダム・スミスは、道徳哲学者として人間を深く探究しました。しかしその後の世界経済は、人間の在り方や真の豊かさを問うことなく、功利・効率ばかりを追い求める方向で展開してきたのではないでしょうか。

その方向転換が求められているのです。「人の喜びを我が喜びとする」自他共尊の精神に立ち、あらゆる課活動が地球の安泰に結びつく経済システムへと。道は近きにあります。日本で育まれた公益を重んじる精神文化と自己革新に基づく倫理経営を探究し実践することが、未来を拓く鍵になるでしょう。志のある人の輪の広がりを願うばかりです。

 

 

株式会社フォーバル

公益資本主義推進協議会

大久保秀夫会長

〈講演概要〉公益資本主義

公益資本主義推進協議会/会長 大久保秀夫

私は会社というのは、「社会の公器」であると考えています。すなわち「社員」のものであり「顧客」のものであり、そして「株主」のものであり、「取引先」のものであり、「地域」のものなのです。このようにステークホルダー全てを、社会全体を大事にすることによってのみ、企業は利益を永続的に得ることができ、結果として出資してくれた株主に利益を返すことができるのです。

日本では古来、こうした考えに則って商売が行われていました。私はそういう本来あるべき経営の在り方にもう一度、しっかりと目を向けていくことが、今こそ必要であると確信しています。

これから世界経済の中心となるべきは、米国型の株主資本主義でも中国型の国家資本主義でもありません。むしろ日本が発する、社会全体の利益を考える資本主義、「公益資本主義」であると考えます。

今後、経営者としてどのようにあるべきかのヒントをお伝えしますので、是非この機会に公益資本主義とは何かを掴み、学んでください。

 

 

イカリ消毒株式会社

黒澤眞次会長

〈講演概要〉社得が社格を創る「心の経営」

イカリ消毒株式会社 黒澤眞次会長

昭和15年、満州(現中国東北部)生まれ。昭和34年、創設のイカリ消毒株式会社入社。昭和37年、創業者急逝、兄弟で事業承継。昭和38年、戦後最大の百貨店火災事故を引き起こす。当時のオーナー堤清二社長の大恩に救われ、逆境をバネに一念発起、倫理との出会いから、朝飯前の時間を活用、82の資格取得。全社では4500の資格を有する専門家集団を創る。

①創業精神、兄弟愛和、社員家族を大切にする、「ファミリービジネス経営」の実践。

②倫理の教えをイカリの道標・指針として学び、〝社徳が社格を創る〟「心の経営」の実践。

③人の喜びを我が喜びとする人財を育て、「損得より善悪を先に考える経営」の実践。

④桜ふるさと運動など、地球環境・地域社会の発展に貢献する「社会の公器経営」の実践。

⑤常にお客様に、最先端技術・最新情報・まごころを提供する「変化適応の経営」の実践。

⑥「美しい街づくり」の具現化に向け、全社一丸で取り組む「環境事業経営」の実践。

 

 

日本からアジア、さらに世界へ21世紀の資本主義『アジア平和フォーラム』

韓国・朴大統領も参加予定!
平成27年5月20日(水)〜5月22日(金)韓国済州島にて開催
共催:韓国人間開発研究院/公益資本主義推進協議会

福田康夫(日本元首相)、クラーク(カナダ元首相)、ギラード(オーストラリア元首相)、シュレーダー(ドイツ元首相)、ユドヨノ(インドネシア元大統領)も参加!

倫理経営・公益資本主義の広がりは日本国内に留まらない。

「韓国のダボス会議」とも呼ばれ、韓国3大フォーラムのひとつに数えられる「平和と繁栄のための済州フォーラム」。10回目となる今回は、「信頼と和合の新アジアに向けて」というテーマで、ドイツ前総理及び高位官僚が参加し、東アジアの持続的平和と繁栄のための政治及び安保・経済等の多様な分野が議論されるほか、国内外の有数の研究機関と団体、世界的に著名な碩学及び専門家が参加して各々の経験と知識を共有し、慧眼を提示することでより発展したアジアの道を模索する内容だ。

多摩大学からの研修生も受け入れた昨年の4000人弱に続き、今回は世界60カ国から5000人の動員を見込んでいるという。なお、日本から経済人、学生150名(昨年70名)も参加。

同フォーラムの中日の5月21日(木)に開催されるセッションでは、日本から公益資本主義推進協議会会長の大久保秀夫氏、丸山敏秋氏も参加し、さらに韓国からトップ企業2社も参加して「21世紀の資本主義」をテーマにシンポジウムを開催する。

 

 

◉昨年の主な活動実績 

こうした大きなイベントの開催・参加への布石として、過去の活動の積み上げがある。昨年も、5月末の第9回済州フォーラム(韓国済州島)への参加に続いて、7月には公益資本主義推進協議会主催に東京都倫理法人会が連携する形で、下記シンポジウムが開催された。

 

「これからの教育の『在り方』」

2014年7月14日(月)

会場:渋谷公会堂

登壇者:下村博文(文部科学大臣)、田坂広志(多摩大学大学院教授/シンクタンク・ソフィアバンク代表)、坂東眞理子(昭和女子大学/理事長兼学長)、大久保秀夫(公益資本主義推進協議会会長/株式会社フォーバル代表取締役会長)

 

これを受けて、11月に開催された大久保氏の講演会は、東京都倫理法人会主催での開催となった。

 

「大久保流 100年続く企業をつくる3つの在り方」

従来型資本主義・経営の終焉─公益資本主義・日本的倫理経営の時代到来─

2014年11月13日(木)

会場:ホテルマリナーズコート東京

講演:大久保秀夫(公益資本主義推進協議会会長/株式会社フォーバル代表取締役会長)

 

 

 

日本からアジアへ、そして世界へ。倫理経営・公益資本主義への変革が止まらない。

株式会社リブラン 鈴木靜雄

取材協力/株式会社リブラン

鈴木靜雄会長

本稿作成にあたって、株式会社リブランの鈴木靜雄会長からお話を伺った。

いたばし倫理法人会の直前会長、東京都倫理法人会・社会貢献委員長でもある同氏は、倫理経営・公益資本主義の推進に向けて、志を同じくする人達と連携して、数々のイベントをプロデュースし、また後援・共催をはじめ様々な支援を行うなど、縁の下の中心人物として尽力している。

東京都板橋区の不動産デベロッパーである株式会社リブランは、自然素材を使った住宅(エコヴィレッジ)や、音楽家向け遮音マンション「ミュージション」などの住環境志向住まいづくりで好評を得ている。中小企業でありながら、創業から50年間業界の改革に取り組み、過酷な住宅産業界で今日の同社を築いたのは、経営に利益主義や上場志向ではなく、社会や環境への貢献という「思想」を持って臨んできたためだと振り返る。倫理経営・公益資本主義も、そんな同氏の思想の大きな一部となっている。

オビ 特集

『日本創生シンポジウム』

主催:東京都倫理法人会

後援:公益資本主義推進協議会

一般社団法人 倫理研究所

 

◎お問い合わせ先

東京都倫理法人会事務局

TEL:03-3239-4176

 

2015年3月号の記事より
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