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山形県立酒田光陵高等学校 統合校だからこそ可能になった多角的な教育!

◆取材:加藤俊

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山形県立 酒田光陵高等学校 校長 中山 英行氏

高校生という若い時期に、生涯にわたっての強固な基礎になるものを培ってあげたい

山形県の沿岸部にある庄内地域。江戸時代は庄内藩の領地であり、当時から灌漑技術が進んでいたことから、現在も日本有数の稲作地域として知られている。地域を代表する都市は、山形市に次いで人口第2位の鶴岡市と、第3位の酒田市。

 

山形県立酒田光陵高等学校は、県立酒田商業高等学校、同酒田工業高等学校、同酒田北高等学校、市立酒田中央高等学校が統合して2012年に開校したばかりの高校だ。複数科の高校が統合して誕生したという、全国でも珍しいケースに注目も高まっている。校長の中山氏に、酒田光陵ならではの特徴や教育方針について伺った。

全138科目にわたる豊富な選択科目

普通科高校と工業高校、そして商業高校の併合によって生まれた当校には、現在、普通科、工業科、商業科、そして情報科が開設されており、大規模な県立の統合校モデルとして山形県も期待をこめて開校に至った。

 

 

「現代社会では、個々人に柔軟性が要求される場面が多いです。統合校という特徴を活かすことで多角的な教育を展開できる当校は、まさに時代の要請に合致していると言えます。例えば、工業・商業のスペシャリストとしてだけではなく、財務諸表が読める旋盤工とか、ものづくりにも詳しい営業職、マーケティングにも長け情報発信力のある職人、そんな柔軟性を兼ね備えた生徒を育てることが、可能なのです」

 

生徒が学科の枠を超えて多様な科目群の中から、それぞれの興味や将来の目標に合わせて自由な科目選択ができる「総合選択制」。

 

具体的には、2年時には週6時間、3年時には週8時間の選択科目が履修でき、全138科目にのぼる学科横断的科目群と自学科科目群の中から選択が可能とのこと。例えば、普通科の生徒が、マーケティング、情報処理、自動車工学、土木構造設計といった科目も履修できるといった具合。

 

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「高等学校は完成教育を行う場ではありません。だからこそ、高校生という多感な時期に、豊富な科目群の中から興味・関心のある授業を選択させることが大切なのです。早い段階で自分の適性に気づく機会を用意できれば、延いてはそれが希望する就職や進学に繋がります」

 

開校間もないことから、卒業生を送り出したのは一度だけだが、約4割が進学、6割が就職という進路を選んでいるそうだ。就職先は製造業が62%と圧倒的に多い。やはりものづくりの楽しさに触れることで、製造業を選ぶ生徒は多いと言う。そのうえ、「当初から、製造業に行った生徒は定着率も高い」とのこと。

 

 

「働くことの意味」を生徒に繰り返し伝える

生徒には、常日頃から「働くことの意味」を語っていると言う中山校長。

「働くということは、当たり前ですが、生活を維持・発展させ、自立し、将来家庭を持った時のバックグラウンドを築くためになすべきこと。その上に、自分がやりたいこと、自己実現のためという目的が乗っかってくる。さらに一段上にいくと、社会の中で、自分の役割を自覚できるようになります。そうすると社会貢献という気持ちが芽生えるようになります。生徒には、この社会貢献を意識できるような人にまでなってくださいと、繰り返し話しています。社会に出れば、壁にもぶち当たり、辛いことも多々あるでしょう。しかし、その壁を乗り越え、苦しさに耐え抜くことで人生は豊かになります。社会に出て経験する様々な出来事、人生で起こることには何一つ無駄はありませんからね」

 

 

 

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酒田光陵 中山校長 (1280x838)

高校を卒業して就職を希望する生徒が行きたい企業とは? 教師たちが実感している生徒に行かせたい企業とは? そして、高校新卒者の円滑な雇用や、短期離職を避けるためには、どんなことが大切なのか? 中山校長の「直言」「直答」をどうぞ!

 

Q・生徒の就職先企業として、どのような企業を求めていますか?

 

将来的なビジョンがきちんとあり、長期的な経営展望がはっきりしている企業ですね。そのような企業であれば、高校を卒業したばかりの社員を、どのように育てていこうかという指針もしっかりと据えられていると思います。また、ビジョンや経営展望を明確に示すことで、「この会社に就職してよかった」と、新卒社員が、将来の展望など、それぞれに感じ取れるものがあるはずです。

 

また、入社したばかりの社員でも、仕事に携わりながら、達成感や「自分も成長している」「自分で自分の力が伸ばせている」と実感できる企業、そんな企業に期待しています。

 

Q・高卒新卒者を雇用する経営者には、何を大切にしてほしいですか?

 

新卒者に、さっそく即戦力として働いてもらうというのは無理な話だと理解してほしいですね。とはいえ、頑張らない者でも面倒をみてほしいという意味ではありません。

 

新人なりに役割を担わせて、知識や技術を少しずつ身に付けさせ、成長していく実感が味わえるような職場づくりをお願いしたいです。経営者のみなさんも、どなたにも若い頃、社会に出たばかりの頃があったわけで、その当時、どんなことに触発されたか、どんな先輩に、どのように学んで成長できたか、どんな時に自分も役立っていると実感したか、ご自身が若かった頃のことを思い出して、新卒者に思いやりの目を向けて接していただきたいですね。また、そのように接していただくことで、離職というケースも少なくなると思います。

 

Q・現代の若い人を、どのように捉えてあげると、より能力を発揮してくれるでしょうか? 日頃から高校生に接している先生の経験から教えてください。

 

よく言われる「最近の若者は…」と十把一絡げに捉えるのではなく、個々の個性や特性、仕事をする上での適正を、じっくり見てほしいですね。ただ、現代の若い人たちは、全般的にコミュニケーション能力が不足していることは私も感じています。自分自身を、そして、自分が考えていることを、うまく表現できないことも多いと感じます。ただそうは言っても、誰しも、それぞれに別の良さを備えています。たとえば、口下手でも、ものすごい集中力が備わっていたり、細かい作業は多少苦手でも、人間関係がうまく築け、ヒューマンリレーションに長けているなど、それぞれの長所に注目して育てていただくことを願っています。

 

Q・どのようなことに力を注ぐと、中小企業への若い人材、高校新卒者の雇用が円滑になると思いますか?

 

 

私ども、高校教師としての立場で考えますと、やはり、学校とのコミュニケーションがうまくとれていて、信頼関係が築けている企業には安心して生徒を送り込むことができます。

今から10年ほど前のことですが、当時、高校新卒者の就職は大氷河期と言われていました。しかし、「こんな時代でも、貴校の生徒だったら、ぜひうちに来てほしい」と採用してくださった企業もあります。そのような企業は、日頃から深いコミュニケーションがとれており、強い信頼関係で結ばれている企業なんですよね。

 

Q・生徒の就職や進学のために、先生方は、どのような努力をされていますか?

 

繰り返しになりますが、やはり、様々な企業に足を運び、当校のことを理解いただいて、関係性を高めていくことでしょうか。とくに生徒が就職した企業には、たとえ遠方であっても訪問するようにしています。旧4校当時から、毎年5月から6月にかけては関東地方の企業に赴いて、卒業生の様子見と励ましを含めて、職場で経営者や上司に働きぶりを伺うようにしています。

 

生徒に接する教師の資質も大切ですね。当校は、工業高校と商業高校、普通科高校が統合して開校したという経緯から、普通科でだけ教鞭をとってきた教師が赴任するケースもあります。工業・商業は初めてという教師からは、実習の多い工業や商業といった専門科高校と、一般科目に絞って学習する普通科高校との違いを如実に感じるという声をよく聞きます。教師自身が、その違いを体験しながら生徒の指導に臨めるということは、その教師の資質を高めることにも繋がります。それが、複数科、多くの専門的な科目がある当校の強みと言えますね。

 

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酒田光陵校舎 (1280x853)

山形県立酒田光陵高等学校

山形県酒田市北千日堂前字松境7−3

TEL 0234−28−8833

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