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コラム諏訪坂特許商標事務所②

特許を取得するための2つのハードル

◆文:伊藤 信和

 

「今までにない良い製品ができたから、特許を取りたい。」というご依頼が稀にあります。

特許庁の審査官に特許に値する発明であることを認識してもらって特許を取得するためには、少なくとも2つのハードルを越えていることを特許庁審査官に納得してもらわなければなりません。

 

1つ目のハードルは、〝新規性〟というハードルです。新規性とは、文字通り今までにない又は世の中にない新しいものである必要を指しています。発明者は、他社が同じような製品を未だ販売していなかったりすると、世の中にない等とおっしゃることがあります。しかし、製品として世の中に出ていないだけで論文や雑誌に出ていたり、特許公開公報に出ていたりすることは多々あります。

特許出願するためには、実際に試作品さえも作る必要がないため、製品化されていない発明も多々あリます。そのため特許出願の依頼を受けると、まずは特許庁のデーターベース(IPDL)などで調査して、新規性があるかをチェックする必要があるのです。

 

2つ目のハードルは、〝進歩性〟というハードルです。進歩性とは、その技術分野のプロが簡単に創り出せない発明であることが求められています。

例えば、ラジオとカセットレコーダとが販売されており、ラジカセがまだ発明されていないと仮定します。発明者がラジオとカセットレコーダとを組み合わせてラジカセを発明した場合は、新規性はあるが、その技術分野のプロが簡単に創り出せる発明、進歩性のない発明と判断される可能性があるのです。ラジオもカセットレコーダも同じ電気機器業界の製品であり、その業界の発明者であれば、単にラジオとカセットレコーダとを組み合わせることは容易とされます。

つまり、進歩性のある発明にするには、1+1=2+αにしなくていけません。例えば+αとして、ラジオからの電波が強くても弱くても一定の音量でカセットに録音できる発明などがあると、進歩性ありと判断される大きな材料になるでしょう。

 

 

異なる技術分野であれば、単に2つを組み合わせただけでも進歩性が認められることがあります。以下は、犬のサークル(家)の発明で、犬にトイレを覚えさせるために居住スペースとトイレスペースとを開閉可能な仕切扉を有する仕切り板で区分けした発明です。

 

特許 犬小屋1 特許 犬小屋2

 

この犬のサークルの発明の前に、以下の犬のサークルの特許公開公報がありました。扉の無い仕切り板を使って、トイレトレーニング(しつけ)をする際には仕切り板をサークル内に配置する発明です。上記発明との違いは、仕切り板が開閉可能な仕切できる扉を有するか有さないかの違いです。

 

とっきょ 犬小屋3 特許 犬小屋4

 

上記の発明は、特許庁でも知的財産高等裁判所でも進歩性ありと判断されました。犬等のペットのサークル類では、開閉可能な仕切扉を有する仕切り板を使った特許公開公報がなかったのです。人間の家では引き戸タイプの仕切扉は誰もがよく見慣れています。でも、人の家と犬のサークル(家)とは異なる技術分野であるため、人間の家で使われる仕切扉の特許公開公報を組み合わせることができないのです。上記の発明は製品化されており、トイレトレーニングのサークルとして販売も上々とのことです。

 

以上説明した、新規性と進歩性とを有する発明になるように、弁理士は発明者と相談しています。世の中にない新しい製品であっても、特許を取ることができるとは限りません。2つのハードル新規性と進歩性とを有しているかなという観点から、貴社に埋もれている発明を発掘してはいかがでしょうか。

 

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●プロフィール
伊藤 信和氏(いとう・のぶかず)
金沢大学工学部機械科卒業 平成6年 弁理士試験合格
ワシントン大学法学部CASRIP終了(2006年)
工作機械メーカー 機械設計
国内・外資企業の知的財産部勤務(経験16年)
特許事務所を開設(2006年~)

●諏訪坂特許商標事務所
〒102-0083 東京都千代田区麹町3-5-2 BUREX麹町
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町工場・中小企業を応援する雑誌 BigLife21のコラムより