オビ コラム

イマドキのビジネスはだいたいそんな感じだ! その25

「逆メンター」とは?社員からちゃんと学べない社長は、生き残れないらしい……

◆文:佐藤さとる (本誌副編集長)

 

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ワタシはこう見えても(どう見えてるかは知らないが…)、ビジネス系雑誌に長年関わってきているので、それなりにさまざまな業界の会社のトップと接していて、その経営観とか生き様とか、好きな食べ物とか、好みのタレントとかを聞いている。

その経験から伸びる会社には共通項があることが分かった。

 

それは、「社員が勉強熱心である」ということだ。当然そういう会社のトップは、人財教育に投資を惜しまない。外部のセミナーや研修に行かせスキルや人間力などを上げている。短期間の研修やセミナーだけでなく、大学や大学院などに一定期間通わせて、技術士やMBAとかを取らせたり、特定の研究機関に出向させて、共同開発を担当させるというのもある。

 

人財教育に対する投資は必ず返ってくる。ただその率は人それぞれである。100を投資して200、300のリターンとなって返ってくる場合もあるし、1000以上になることもある。その効果がすぐ現れる場合もあるが、だいぶ経ってからじわりと実感できる場合もある。

 

だから多くの中小企業経営者は人財への教育投資を躊躇う。だって人に投資をするより、工場を建てたり、新しい機械を入れたほうが、効果が見えやすいもの…。もちろん、設備投資は事業の場面場面で必要である。しかしそうするとキャッシュを持っている企業に勝てないことになる。

 

ある調査機関によれば、日本の企業の社員研修費用は1人あたり年間約5万円とのこと(中小企業はさらに低い)。これに対してアメリカは10万円だという。かの世界的大企業GEは年間1人あたり30万円を注ぎ込む。

だからもしアナタが中小企業の経営者で会社を成長させたいのであれば、社員に対する教育投資を積極的に進めなければならない。

 

そうワタシが力説すると「いや〜、ウチはそんな余裕はない。無理っす!」と眉根を寄せて、顔の前で左右に手を振る中小企業の経営者の姿が浮かんでくる。

 

そんな経営者でも導入しやすい教育方法がある。それが社内メンター制である。メンターとは仕事や人生の指導者、助言者を表す。OJTなどで新入社員につく先輩社員なんかがそうだ。

新入社員は会社のことを知らない。知っていても社歴の長い社員には敵わない(たまに例外もあるが…)。だから先輩や上司が「教える」のだ。

 

すでにこのメンター制度は大方の企業で採用されている。営業であれば先輩が新人に新規顧客の開拓方法やライバル企業の分析術などを教える。財務であれば、金融機関との交渉術や調達法を教えるのだ。問題はそれを段階的にどこまで展開できるかだろう。先輩が後輩を教えるだけでなく、中間職や幹部まで展開できれば、若手、中堅がどんどん伸びる。

 

しかもメンター制度は、メンターとなる上司や先輩にとってもメリットが大きい。教えるという体験を積むことで、知識や知恵がしっかり本人に定着することになるからだ。

かように、メンター制度は低廉でかつ双方にとってメリットの大きい教育システムなのである。

 

ところが欲深な人間は、昨今「メンター制度の活用がまだまだ不十分で、とくに若手の知識や能力が引き出せていない」と声を上げるようになった。

確かにいかに若手とは言え、それなりに専門分野の知識や体験を持って入社しているはずである。それを活用しようというのである。

 

そこで前出のGEやP&Gなどは、「逆メンター(リバースメンターなどとも言う)」という仕組みを取り入れた。若い社員が年配の上司や経営陣をサポートするのである。専門化が進み、進化の激しい現代ビジネスでは、最新の理論や知識を身につけるのは難儀だ。年を取ればなおさらだ。ワタシなどはIT系のことは若者には敵わないと自覚していて、隙あらば教えてもらいたいと希求している。

 

それは世界の頭脳が集まるGEでも同じなようで、GEでは幹部でも最新のITを使えるように若手のメンターから学んでいるのだという。一方P&Gでは、商材がそうであるのと、女性社員が多いこともあって、「子育て中の部下の仕事への本音」などが分かって、マーケティングと生産性向上に貢献しているという。

イケてる企業のイケてる社長とは、社員を師と仰ぎ、学ぶ姿勢を持ち続ける社長なのである。

イマドキのビジネスはだいたいそんな感じだ。

 

 

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