オビ コラム

契約書を締結する上での留意点

◆文:新日本パートナーズ法律事務所/初澤寛成

 

ビジネスを行う際に、様々な契約を締結することと思います。

口頭でも契約は成立しますが、「言った、言わない」などの水掛け論を防止するだけでなく、各々の権利と義務を書類にしておくことで、後々のあらぬ紛争を防ぐこともできます。

今回は、契約書を締結するうえでの留意点を事例でご説明したいと思います。

 

 

 

 

【事例】

当社は、ホームページの制作会社です。この間、新規のお客様から自社ページの発注を受けました。

打ち合わせをして、仕様などは確認して、「ホームページ制作 一式」として注文書を出してもらい、納品しようとしたところ、お願いしていたものと違うと言って、何度もやり直しさせられた挙句、注文通り作らないから解除すると言われてしまいました。

最初の打ち合わせで、仕様を確認しましたので、当社に非はないはずです。

 

1/契約をするってどういうこと? 契約書はなぜ必要?

第1回目は、契約を取り上げます。契約とはどういうことなのか、なぜ契約書を作成する必要があるのかということを説明した後、契約書を作成するときのポイントをお伝えします。

 

会社は、事業を行うにあたり、顧客や仕入先などと多数の取引をしています。この取引を法律的に言うと、契約ということになります。契約というのは、お互いの意思が一致することをいいます。

冒頭の事例であれば、

 

A「ホームページの制作は、いくらですか」

B「100万円です」

A「発注します」

B「受注します」

 

これで、100万円のホームページの契約が成立します。このように、契約の成立には、契約書や発注書・請け書は必要ありません。口約束だけで、契約は成立します。

 

しかし、多くの取引では、契約書を締結しないまでも、発注書など何らかの書面は作成しているのではないでしょうか。数量と金額といった取引の基本部分に間違いがないようお互いに確認するためですよね。契約書も考え方はこれと一緒です。つまり、間違いがないようお互いに確認し、後々のトラブルを防止しようということです。

 

ただ、簡潔な受発注書ですと、お互いに確認する事項が少ないので、事例のようなトラブルを防止することはできません。そのため、事例のように、発注者が求めていた内容と受注者が考えていた内容に食い違いが生じてしまうのです。

発注側からすれば、頼んでいたホームページと違うのにやり直してもらえない、逆に、受注側からすれば言われた通りのホームページを納品したのに何度もやり直しをさせられるといったトラブルに発展してしまいます。

そして、当事者同士の話し合いで解決しなければ、裁判となります。裁判となれば、訴訟費用や弁護士費用など余計なコストが発生し、取引の当初想定していた利益も減ってしまいます。

 

このようなトラブルを防ぐためにも、最初にきちんとした契約書を作成すること、途中で仕様や内容が変わった場合には、その変わった後の内容をきちんと書面にしておくことが重要です。

 

このような書面を交わすとき、覚書でもいいですか?という質問をよく受けます。「覚書」「合意書」「確認書」「発注書(注文書)」「請書」といった様々な書面がありますが、当事者間で合意した内容が書面になっていれば、「契約書」であろうが、「覚書」その他であろうが、効果は変わりません。

 

【ポイント】

◎契約書は、トラブル防止のために作成します。トラブルになりそうなところは、書面にしておきましょう。

◎契約書を作成して、余計なコスト発生を抑えましょう。

 

 

2/契約書のチェックポイント

ポイント①…取引の内容は明確にしましょう!

最も重要なのが、取引の内容に関わる部分です。ここがきちんと決められていないと、事例のように予定していた納品やサービスの提供と違うじゃないかという食い違いが生じ、やり直しや予定よりも大幅な追加作業の発生、反対に多額の追加費用発生ということになりかねません。

このような食い違いを生じさせないためにも、どのような物を納品しなければならないのか、どのようなサービスを提供しなければならないのかということについて、相手と協議して、可能な限り具体的な内容まで詰めて、きちんと書面化しておく必要があります。

契約の最初から具体的に決められない場合には、決まる都度、書面化しておくことが肝要です。

 

ポイント②…金銭の支払いを明確に!

対価を支払う発注側、対価の支払いを受ける受注側からしても、金銭の支払いは、非常に重要です。

金100万円を支払うといった金額が固定されている場合には、問題になることはあまり多くありません。これとは異なり、一定の計算式に基づいて金額を算定する場合には注意が必要です。

 

たとえば、作業代を1日あたり●円と定めたような場合、3時間しか作業していない場合でも1日分なのか、逆に12時間も作業をして1日分なのかなどトラブルになることがあります。あくまでも例ですが、1時間単位(切り捨て)で定めたりして回避するなどの工夫が必要です。

また、割引等の減額が発生する場合にも、トラブルになりがちですので、どのような場合にいくら減額するかを定めておく必要があります。

 

ポイント③…リスクに関する内容を正確に把握しましょう!

多くの場合、取引に伴う想定しがたいリスクを負うのは受注側になります。リスクというのは主に損害賠償です。

受注者側の責任で、取引の目的が達成できなかった場合には、発注者側は、損害の賠償を請求できるようになります。どこまでの範囲が損害賠償の対象となるのかについて、できる限り具体的に定めておく必要があります。

リスクの把握という観点からすると、何かあった場合の損害賠償の金額を固定して上限を定めておくこともあります。

 

 

3/契約書の作り方で注意すること

ポイント①…契約者には記名押印が必要です。

契約書は、双方が契約書の内容に同意していることを明らかにしなければ意味がありません。そこで、契約書の末尾に押印があれば、契約書の内容に同意していたということになります。

契約書を作成し押印する以外にも、双方が同意していたことを示す方法はあります。たとえば、メールです。メールの本文に発注内容を記載し、これに対して、先方が発注内容を確認したとの返信をすれば双方が契約の内容に同意していたことが示されます。

(この場合、返信する際には送られたメールも引用し、発注内容に同意したことが1つのメールでわかるようにしておくとより適切です)

 

ポイント②…契約書が複数枚になる場合には一体となるように!

契約書が複数枚になるときは、ページとページの間に押印するか、製本テープを利用して契約書を冊子の形にし、製本テープと本体にまたがるようにして表裏押印する必要があります。これは、途中のページが差替えられたりしたものではないことを明らかにするために行われます。

また、一体となっていればいいので、2ページの場合には、両面印刷にすれば末尾の押印だけで足りますし、4ページぐらいまでであれば、両面印刷で、表に2ページ(2-up)、裏に2ページ(2-up)とすることにより、一体とすることができます。

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●筆者プロフィール/初澤寛成

〈経歴〉平成19年 弁護士登録/平成29年 新日本パートナーズ法律事務所 開設

〈所属事務所〉新日本パートナーズ法律事務所

〈事務所住所〉東京都千代田区麹町4-5 KSビル2階

〈連絡先〉03-6261-6263

〈ホームページ〉http://www.shinnihon-law.jp

〈著書〉「会社を守る!社長だったら知っておくべきビジネス法務」などビジネス法務に関する執筆多数

 

 

◆2017年05月号の記事より◆

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