オビ コラム

未回収の売掛金を回収する方法

◆文:新日本パートナーズ法律事務所/初澤寛成

 

 

【事例】

当社は、特殊な機械部品を製造販売している会社です。当社の販売先の一つの会社が、当社の売掛金の支払いを遅延しています。早く支払ってくれるようお願いしているのですが、待って欲しいの一点張りです。

販売先の会社とは長い付き合いですので、まずは、様子を見ようと思うのですが、今のうちにやっておくことはありますか。

また、万が一の場合に債権回収はどのようにすればいいでしょうか。

 

【ポイント】

1.未払いの売掛金を文書化しよう。

事例のように、取引先から売掛金の支払いが遅れた場合、皆様の会社ではどのような対応をしているのでしょうか。

まずは、電話で入金遅延の状況を確認したり、再度請求書を送ったりするのが通常です。

入金遅延を確認した直後であれば、このような対応でいいのですが、その後も、ただ、定期的に電話で入金を催促したり、毎月の請求書に未払金も記載して毎月請求しているだけという会社も多いのではないでしょうか。

 

しかし、実際には、電話や請求書を送っているだけでは、回収できないことが多いと思われます。

なぜなら、請求が来るだけだから後回しでも大丈夫だろうと思われてしまい、取引先が、他の支払先との関係で自社の支払いの優先順位を下げてしまいますので、いつまでも、回収できません。

 

そこで、まずは、取引先との間で、未払いになっている金額と支払期限をきちんと文書にしておくことが重要です。このような残額や支払期限が文書で明確にされることにより、取引先の支払いに対する意識も高まります。

文書化の方法は、自社と取引先の両社が記名押印する契約書のような形でもいいですし、取引先から記名押印した文書を貴社に一方的に提出させるだけでも構いません。ここまでが最低限です。

 

さらに、次の強制執行まで見据えると、公正証書により文書化しておくことが望ましいです。

公正証書というのは、法律の専門家である公証人が法律に従って作成する文書のことをいい、全国各地にある公証役場で作成することができます。そして、この公正証書の一番のメリットは、訴訟をしなくても、強制執行をすることができるということです。

その際のポイントは以下の3点です。

 

①公証人が作成した公正証書

②金銭の支払いを目的とすること

③債務者が直ちに強制執行に服することを陳述したものであること

 

また、債権回収に向けて、文書化する際のポイントとして、担保が挙げられます。担保として、取引先の売掛債権(滞納している取引先の売掛先を第三債務者といいます)や取引先代表者個人に連帯保証してもらうなどが考えられます。

もっとも、取引先が自社に担保を提供することは義務ではなく交渉によるため、最終的に担保を取れないかもしれませんが、担保を要求するという行為自体が債権回収に向けた、取引先に対するプレッシャーとなります。

 

 

2.最後は強制的に回収

売掛金回収のための文書を作ったり、支払いスケジュールを調整したりと、辛抱強く待っていても、それでも、やはり支払われない場合には、強制的に回収する他ありません。ここでは、強制執行の方法について簡単に説明します。

 

強制執行というのは、支払いを遅延している取引先の預金口座の預金、売掛債権、不動産などの財産から金銭の回収を図る方法です。預金や売掛金は銀行や第三債務者から直接金銭を回収しますし、不動産であれば競売にかけて金銭に換えて回収することになります。

 

次に強制執行の方法ですが、裁判所に最初から強制執行をお願いしても、裁判所は強制執行してくれません(抵当権などがある場合は除きます)。強制執行をするには、債務名義というのが必要になります。

債務名義というのは、簡単にいうと、強制執行したい者が間違いなく債権を持っていることの証明書のようなものです。具体的には、判決や先ほど説明した公正証書などです。

判決は、裁判所に訴えを提起してから早くても半年はかかります。また、証拠などの準備が大変です。その点、公正証書は、そのような手続きを経ることなく、すぐに強制執行することができますので、上記1文書化の際にはできる限り、公正証書を作成しましょう。

 

もっとも、公正証書を作成していない場合でも、訴訟より短い期間で債務名義を取得できる手続きとして、支払督促という制度があります。支払督促は、書面審査だけですので、準備の手間もかかりませんし、コストもかかりません。

ただし、支払督促に対して、督促の相手から異議を申し立てられた場合には、通常の裁判手続きに移行します。

 

 

3.時効の管理

未回収の売掛金は、消滅時効にも注意する必要があります。

消滅時効とは、一定期間が経過すると権利(売掛金)が消滅してしまうという制度のことです。気がついたときに電話で催促している、催促書を送っているなど、売掛金がきちんと管理されていない場合は特に注意が必要です。

 

消滅するまでの一定期間は、原則、商取引から生じた債権ですので5年間です。しかし、例外的に「生産者、卸売商人又は小売商人が売却した産物又は商品の代価に係る債権」(売掛金債権)であれば2年間で時効消滅してしまいますので、ご注意ください。

このように売掛金債権が時効にかかってしまうことを防ぐためには次の手段を採らなければなりません。

 

①請求

②差押え、仮差押え又は仮処分

③承認

 

①「請求」は、単に請求書を送るだけでは足りず、裁判所に訴え提起する必要があります。

②「差押え、仮差押え又は仮処分」も①と同様、裁判所を通じた手続きが必要となります。

③「承認」は、①や②と異なり、裁判所で何かしら手続きが必要となるわけではなく、取引先が債務を承認するだけで足ります。承認の書式は問われませんので、日付、債務額、債務を承認する旨、記名押印があれば足ります。

請求書の末尾に、日付、「上記債務があることを承認します。」とだけ記載し、記名押印をもらうだけでも足ります。

 

 

いかがでしたでしょうか。

売掛金を回収することは、企業として利益を確保することになりますし、企業を存続させるために必要不可欠な行為です。

今回は、未回収の売掛金を回収するための基本的な方法をお話させて頂きましたので、ぜひ参考にされてみて下さい。

オビ コラム

●筆者プロフィール/初澤寛成

〈経歴〉平成19年 弁護士登録/平成29年 新日本パートナーズ法律事務所 開設

〈所属事務所〉新日本パートナーズ法律事務所

〈事務所住所〉東京都千代田区麹町4-5 KSビル2階

〈連絡先〉03-6261-6263

〈ホームページ〉http://www.shinnihon-law.jp

〈著書〉「会社を守る!社長だったら知っておくべきビジネス法務」などビジネス法務に関する執筆多数

 

 

◆2017年06月号の記事より◆

WEBでは公開されていない記事や情報満載の雑誌版は毎号500円!

雑誌版の購入はこちらから