(写真=写真AC)

 

2015年の訪日中国人による「爆買い」現象によって一気に重要キーワードとなったインバウンド。その市場拡大の勢いは凄まじく、政府が「観光立国」を打ち立て始めた頃の当初目標「2020年に訪日外客数2000万」を昨年軽々突破し、今年も右肩上がりで成長しています。

 

このペースで行けば、東京オリンピック・パラリンピックが開かれる2020年には政府が新たに打ち出した目標「2020年に4000万人」は達成可能と見られています。そのため、日本側の受け入れ体制の未整備やオリンピック・パラリンピックの開催なども相まって、インバウンドは観光業界のみならず、日本のビジネス全体に影響するものとなりつつあります。

 

そんなインバウンド業界のなかで、訪日外国人の行動を掴む上で最重要とも言える3つのキーワードが基礎用語として普及しつつあります。そのキーワードとは、「旅マエ」・「旅ナカ」・「旅アト」。インバウンドについて知る上で必ずおさえておくべきこれらのキーワードについて解説しましょう。

 

旅マエ・旅ナカ・旅アトとは

インバウンドの3つのフェーズ「旅マエ、旅ナカ、旅アト」

旅マエ・旅ナカ・旅アトとは、訪日外国人の行動の段階を表しています。すなわち 「旅マエ=訪日旅行前」「旅ナカ=訪日旅行中」「旅アト=訪日旅行後」を意味しており、それぞれのフェーズごとにカスタマージャーニーを分析することが昨今のインバウンドマーケティングでは必須となっています。それぞれをより詳しく解説しましょう。

 

「旅マエ」とは、訪日旅行前に、どこの観光名所に訪問しようか、どこで買い物をしようかを検討する時期のことを表します。期間としては訪日旅行の1〜4カ月前です。

 

「旅ナカ」とは、訪日旅行中の、観光地を巡り、ショッピングを楽しんでいる時期のことを表します。期間としては訪日旅行中の5〜10日間程度になります。

 

そして最後「旅アト」とは母国に帰国後に、お土産を配り歩いたり、SNSに旅の感想を投稿したりして、旅の余韻に浸る期間のことを表します。期間としては訪日旅行後1カ月間程度になります。

 

なぜフェーズ分けすることが重要なのか

 

それでは、なぜ、このように「旅マエ」「旅ナカ」「旅アト」といったフェーズに分けることが重要なのでしょうか。それは、それぞれのフェーズごとによって 訪日外国人の行動や思考が異なり、それらのカスタマージャーニーに則った適切なプロモーションやアプローチが必要になるためです。

 

例えばイメージが湧きやすい「旅ナカ」を例にとってみましょう。前述の通り「旅ナカ」とは、訪日旅行中の期間でした。この期間にプロモーションや集客に注力すべきは、現地で手配できる業種、例えば飲食店などです。みなさん自身の海外旅行などのご経験を思い出せばわかりやすいですが、3食全ての飲食店を事前に調べて決めておく、ということはなかなかないのではないでしょうか。一方、例えば旅館やホテルといった宿泊施設は、この「旅マエ」期間にプロモーションしたのでは遅すぎて意味がありません。

 

このように見ていただければ、それぞれのフェーズごとに適切なプロモーションや施策を打っていくことが如何に重要なのかがわかるのではないでしょうか。
フェーズ分けするようになった背景には訪日中国人の消費行動の変化が

では、なぜこの旅マエ・旅ナカ・旅アトというマーケティング手法がインバウンド業界で定着したのでしょうか。その背景には2015年から2016年にかけての訪日中国人の消費行動の急激な変化があります。

 

従来、訪日中国人は団体旅行での訪日がほとんどでした。団体旅行では、ツアー会社によってスケジュールが決められており、ゆっくりショッピングを楽しむ時間や、自由時間に制限がありました。そのため、限られた自由な時間で超効率的に買い物をしていくために、「旅マエ」の段階で入念な調査、買い物リストの作成をしていました。このような背景があったため、「旅マエ」の準備・調査段階でいかに中国人に認知してもらうか、買い物リストに入るかが重要課題とされていました。

 

しかしながら、中国でもFIT(個人旅行)の比率が上がってきたことにより、

①自由な時間が増えた≒日本の現地でしらべたり悩んだりすることができるようになった、

②日本の情報を提供するサービスの続出&NS上上での情報の増加、

③インバウンドビジネスにおいて「リピーター化」の重要性が上がってきたこと&それに伴う満足度向上施策の重要性の高まり、といった要素により、旅ナカでのプロモーションや対策も重要視されるようになってきています。

 

主な施策となっているのはO2Oや多言語対応といった、旅ナカの満足度を上げたり、行動を促進するための施策です。それに応じてSIMやレンタルWi―Fiなどの通信環境の整備も必要になってきます。こういった旅ナカの施策を充実させることが、旅アトの施策にもつながっていきます。購入後の満足度が高ければ越境ECにつながるかもしれませんし、口コミで周りの人に商品をすすめてくれるかもしれません。

 

購買行動にかかわるマーケティングは、古くは「AIDMA(消費行動は注意、興味、欲求、記憶、行動のプロセスを経るという考え方)」、そして「AISAS(注意、興味、検索、行動、共有)」、最近では「SIPS(共感、確認、参加、共有拡散)」などに代表されるように、消費者の行動の変化に伴い、その手法・分析方法も変化していきます。

 

従来のインバウンドマーケティングでは、例えば多言語対応やSNS広告に終始しているなど、総合的に訪日外国人を分析する考え方はほとんどありませんでした。しかしながら、現在では旅マエ・旅ナカ・旅アトという概念の登場により、インバウンドマーケティング手法がますます洗練されてきているのです。

 

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