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2019年10月17日
[異議あり! 何か変だぞ。]

日本企業の海外M&Aラッシュ

目先の利害に囚われた一時の便法

大手食品、薬品、家電メーカーを中心に、このところ日本企業による海外M&A(合併・買収)が〝過熱〟気味だ。東日本大震災の直後こそ幾分沈静化したものの、昨年来ずっと活発で、今年は8月までに4兆円弱、件数も300件超と、過去最高を記録する勢いなのだ。

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一方、国内企業同士のそれはというと、ここ数年はむしろ減少傾向にある。

 

これはいったい何を意味しているのか。何もかも要約してひと言でいうと、知恵も体力もある国内の主要企業が、その〝主戦場〟を海外にシフトし始めたということである。言い換えれば、20世紀後半の世界をリードしてきた日本というこの市場に、当の日本企業がいよいよ、それも公然と、見切りをつけたということだ。

 

となると小欄としても、さっそく異議を申し立てねばならない。

 

そもそも国際競争力をつけるためにだとか、資源やその権益の獲得のためにだとか、円高メリットの活用だとか、さまざまな屁理屈をコネて政府も後押ししているようだが、とどの詰まりはこの国の、産業空洞化の促進である。もちろん皆がみんなそうだとは言わないが、国内の大多数の中小・零細企業を置き去りにした、いわば〝国を亡ぼす〟愚行愚策といっても言い過ぎではない。

 

なるほど、大企業には大企業の理屈がある。俗に〝経営の合理性〟というやつだ。しかしその合理性とやらも、よくよく考えれば分るが、目先の利害だけに囚われた一時の便法、紛れもない屁理屈である。

 

以下、現状に対する小欄としての診立てと見解、主張を率直に申し述べたい。

 

かつてのアメリカと二重写し?

 

政府はもちろん、大企業のお歴々も実はとっくに承知の上だ。何を。この海外M&Aラッシュによって、早晩、日本の製造業が壊滅状態に陥るということを、である。

 

何故か。恰好の見本がそこにあるからだ。言うまでもない。アメリカである。自動車ビッグ3をはじめ、アメリカの多くの製造業は、戦後一貫して、強いドルを武器に、世界を股にかけ、これでもかとばかりに荒稼ぎをしてきた。それによって生まれたのは自国産業の空洞化だ。中小企業の連鎖倒産だ。失業者の激増だ。それでも稼げるうちは、自国に利益を還流させられるからまだいい。その分、国の財政も潤い、社会保障などに回せるからだ。しかし相手国(この場合は日本やヨーロッパ)もバカではない。いいように利用されながらも徐々に力をつけて、やがてGDPは上がり、賃金も物価も上がり、いつの間にかインフレが進み、売り先、投資先を海外に求めるようになる。その結果1970年代から80年代にかけてアメリカを苦しめたのが、膨大な貿易赤字と財政赤字、いわゆる〝双子の赤字〟である。

 

85年のプラザ合意(円高・ドル安容認)で一旦は持ち直したかに見えたが、一度空洞化した自国産業は、もはや元に戻ることはない。ちなみに現在のアメリカの基幹産業は金融と流通と農業。製造業は軍需と情報通信だけといって過言ではない。きわめて脆弱だ。この夏、アメリカ国債のデフォルト(債務不履行)騒ぎが世界を震撼させたが、あれも単なる政局のもつれではない。アメリカという国の、これが今の実力なのである。

 

かつてのアメリカを今の日本に、かつての日本を今のアジアの新興国に置き換えて、じっくりと俯瞰されたい。

 

高い円を武器に、ややもすればまったく畑違いの企業でも見境なく買収し、おまけに安い労働力を使い、ついでにできれば将来の市場争奪戦を見据えて今からツバを付けておく、という構図である。まるで二重写しではないか。

 

出でよ、平成の佐橋滋

ちなみにこんなことをいうと、桟敷から「今さら何を言ってるんだ」と半畳のひとつも打たれそうだが、小欄とて、何が何でも海外M&Aが悪いと言ってるわけではけっしてない。本来のM&Aの目的は、単独では成しえない事業を成しえるようにする、またはスケールメリットを利用し、世界的市場戦略を優位に進めるなど、新たな企業価値を創造することにある。そのためのM&Aであれば、国内に致命的な空洞化を招くとは、必ずしもいえないだろう。というわけで何ら異議を唱えることもない。

 

しかし実際はどうか。くどいようだが、目先の利益のためだけに、一時の便法としてM&Aを仕掛けているケースが多々見られるのだ。これはダメと言うしかない。ダメ出しの理由は3つある。1つは2年前なら95円もした会社が今なら76円で買える、と臆面もなくいうさもしさだ。今1つは、本業の赤字=つまりは経営者の無能と怠慢=を数字のマジックで弥縫(びほう)せんとする姑息さだ。そしてあとの1つが、他人が金も時間もいっぱいかけて開拓した市場を、札ビラで頬を引っ叩いて分捕る(もちろん売る側にも相応の理由はあるだろうが)悪徳不動産業者紛いの手口である。

 

これらはどう贔屓目に見ても、この国の美風に反する。それだけでも噴飯モノだが、200兆円を超える内部留保があるにもかかわらず、高い法人実効税率や人件費を口実に、生産拠点まで海外に移しているのだ。この先おそらく、数年のうちに日本の中小・零細企業はバタバタと倒れていくだろう。

 

ではどうするか。残念ながらそれらの大企業に自制を求めるのは、何の効果も期待できまい。となるとここは政令だ。たとえば国内の生産量を一定のレベルから下げたら罰する。また先ごろ政府は、円高対策として海外M&Aを支援する1000億ドル規模の基金を創設すると発表したが、その信用供与の際に何らかのシバリを設ける。ほかにもやりようは幾らでもあるだろう。

 

当然、内外を問わず猛反発が予想される。しかし日本の中小企業と雇用を守るためである。この国の伝統芸、モノづくりを守るためである。大義名分は十分過ぎるほどだ。

 

そこで思い出すのが、あの「官僚たちの夏」(原作・城山三郎氏)のモデルにもなった、通産官僚の佐橋滋氏である。

 

もちろん氏が海外M&Aに反対するとは思わないが、しかし何が何でも国内産業、それも町工場を守るために、死に物狂いで政令発動に働くのではないだろうか。ありとあらゆる手段を講じて、何が何でも世論を喚起し、政治を動かし、この国らしい強靭で高潔、思いやりと美風に富んだ新しい道を示してくれるのではないだろうか。

 

平成の佐橋滋を、待望してやまない。

投稿者support@sacco.co.jp
カテゴリー:M&A, コラム
12:00 PM

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