不眠に始まる負の連鎖

〝間違いだらけの眠り方〟に警鐘を鳴らす ─医学博士 近藤陽一氏

自殺者が後を絶たない。

 

1998年以来、13年連続しての3万人突破だ。自殺者率(人口10万人当たりの自殺者数)は実に25・1。先進国では断トツの1位である。原因は何か。健康的、経済的、職場的、家庭的悩みや不安など、さまざまな要因が複合的に作用しているとは思われるが、コレ!とひとつに絞り切れないために、政府も有効打を放てないでいるのが実情だ。

 

しかし専門家の話によると、多くの自殺者には共通するひとつの傾向が見て取れるという。不眠→うつ病→自殺と辿る〝負の連鎖〟である。そういえばあるデータによると、日本で何らかの睡眠障害に悩む人は今や成人の約23%、4人に1人近くいるとされる。

 

また、先ごろ日本睡眠学会がまとめた「自殺総合対策大綱改正に向けてのレビュー報告書」によると、慢性の不眠症と診断された人の6人に1人がうつ病を誘発し、さらにうつ病の人はそうでない人に比べて、自殺する危険性が120倍も高くなると推計しているのだ。不安から不眠に陥るケースも少なくないが、逆に不眠から不安になり、その不安が不眠をさらに増幅させ、うつ病に至る、というケースもよく見られるという。いずれにしても〝不眠〟がひとつのキーワードであることに違いはあるまい。

 

となると、ドキッとする向きは多いだろう。ましてやこの不安だらけのご時世だ。ことに中小モノづくり経営者にとっては六重苦、七重苦ともいわれる受難の季節である。

 

そこで睡眠の専門家に話を聞いた。日本人の間違いだらけの眠り方に警鐘を鳴らす、医学博士の近藤陽一氏(新渡戸文化短期大学教授・副学長)である。身に覚えのある諸兄諸姉、まずはこの人の話をよ~っく聴け!

 

睡眠は入眠時がすべて

自殺も何も、極端に言うとその前に死んじゃいますよ、間違った睡眠をとると。分かりやすい例が北国でよく見られる酔っ払いの凍死です。うっかり外で寝て、暑いからって洋服を脱ぐじゃないですか。そうすると体温が急激に奪われて、発見されたときは凍え死んでたってやつです。本人はとくに苦しむこともなく、スーッと眠りに入ってるんですけどね。他にもほら、映画でよく見るじゃないですか。冬山で遭難して「眠るな、眠るな」って仲間の頬を叩くシーンが。あれですよ。要するに人間は、体温が28度以下に落ちると死んでしまうんです。

 

じゃあ暖かい部屋で布団をいっぱい掛けたらよく眠れるかというと、これも実はろくな睡眠にはならないんです。それが証拠に、炬燵の中で寝ても疲れは取れないでしょ?それどころか汗ばかりかいて、脱水症状から思わぬ余計な病気にかかっちゃいますよ。それでなくても眠りが浅いですから、そんなことを繰り返していたらやがて何らかの睡眠障害に陥ります。要するに、睡眠とはかようにデリケートで、かつ重要な生命活動のひとつなんですよ。ナメてかかったら酷い目に遭いますよ、ということです。

 

そこでいい眠り、正しい睡眠をとるにはどうするかですが、これには幾つかのアプローチがあります。ひとつは誰でもすることですが、寝室の照明を落とすことですね。あとは音楽、香りといった、いわゆるヒーリング(癒し)効果です。メラトニンの分泌やα(アルファ)波を促すことで、脳をリラックスさせて眠りに入りやすくしてくれるんです。睡眠はこの入眠時がすべてといっていいくらい大切で、これがスムーズだとよく眠れるんですよ。ただちょっと難しいのは、それらには体質とか好みとか個人差があることですよね。中には暗いと怖くて逆に眠れないとか。

 

コア温度を優しくスピーディーに落とす

 

そこで生理学的見地からいって、誰にも共通するいい方法があります。寝る前に少し持ち上げてスッと落としてやるんですよ。体温というかとくに頭の温度を。ほら、さっき酔っ払いが凍死するプロセスを話しましたよね。いわばあれの応用です。体温が上がって落ち始めると、それに合わせて自然に眠りに入ることができるんです。風呂上りに縁側で涼んでるとウトウトしますが、それと同じ理屈です。サーカディアンリズムといって、現に人間の体温は明け方から夕方にかけて上昇し、夕方から明け方にかけて低下するようにできているんです(図参照)。

 

ちょっと専門的な話になって申し訳ないですが、人間の体温にはコア(深部)温度とシェル(表面)温度の2つがありましてね、ざっくりいうとコアが37度でシェルは30度かそれ以下です。それが入浴するとシェルが上がってコアのそれに近づき、皮膚がほんのり赤くなります。これが眠りの準備段階で、そこで涼しいところへ出るなりしてコア温度を奪ってやれば、はっきりいって程度の差こそありますが、誰でもスッと眠りに入れます。これは夏だけじゃなく秋でも冬でも同じです。人間の体温は季節に関わりありませんから。むしろ部屋を暖めている分、これからの季節こそ積極的に実践したほうがいいと思いますよ。寒くって無理ですって?ハハハ。それもそうですね。

 

でも今はほら、先日NHKの番組でも紹介していましたが、そのメカニズムをそっくりそのまま取り入れた「ゆ~みん」というハイテク枕があります。あれはかなり効果的だと思いますよ。とにかく〝いい睡眠〟のためのポイントはひとつ。寝る前に少し体温を上げて優しくスピーディーに落としてやることです。もっとも風邪を引くほど無茶をしては元も子もありませんけどね(笑い)。    【談】

 

 

近藤陽一(こんどう よういち)

医学博士。新渡戸文化短大教授、副学長。1948年愛知県生まれ。北里大学(衛生学部)から同大学院と進み、防衛医大で特殊異常環境衛生生理学及びスポーツ医学の研究に勤しむ(21年間奉職)。〝眠り〟の大家、鳥居鎮夫博士(東邦大)の指導の下で医博を取得するとともに、オリンピック選手らの時差ボケのメカニズムを解明、予防するなど、正しい睡眠のあり方の啓蒙に広く貢献する。退官後は山野美容芸術短大(教授~副学長)を経て、2010年、新渡戸文化短大(旧東京文化短大)に転身、現在に至る。

※取材協力=市原清二氏 ~ねむりのみかた~癒眠(ゆーみん)の開発者。健盛社(埼玉県川口市)代表取締役社長。