
株式会社NIPPON PAY/代表取締役社長 續 仁(つづき・じん)氏
昨年10月に設立した株式会社NIPPON PAYは、中国モバイル決済システムのサービスを中心とした決済代行ソリューション事業と、インバウンド向けマルチ決済サービスの提供を行うベンチャー企業だ。
設立と同時にECショップ向けの中国三大決済サービスを開始し、今年1月11日には中国二大スマホ決済「WeChatPay」と「Alipay」を、ひとつのアプリで対応可能にしたマルチ決済サービスを始めた。
中国二大スマホ決済システムは、アジア圏からの訪日観光客の利便性を高めることができ、訪日外国人の集客効果が期待できるとして、精力的に展開している。
なぜ、中国の決済システムの導入推進を最初に始めたのか。それは、日本に来る多くの外国人の割合が中国・韓国・台湾や香港などのアジア圏であり、そのほとんどが電子マネーによるスマホ決済を利用していることに起因する。
「中国やインドでは、現金を使わないスマホ決済がほとんどです。しかし、日本ではスマホ決済が出来ないところが多く、訪日外国人は不便を強いられています。彼らが日本の決済システムに合わせるのではなく、自国で日常使っているお金の払い方、サービスの受け方をそのまま日本で利用できるようにと開発しました」と、同社代表取締役・續仁氏は語る。
「日本に観光に来る外国人で一番多いのは、日本でお金を使いたがっている中国人です。消費力のある彼らが日頃使っているスマホ決済を導入することで、消費をさらに促すことができます。システムを導入することで、日本のキャッシュレス化も進むと考えています」。
同社の訪日外国人向け決済サービス事業は、これから行っていく事業のごく一部だ。「最終的には、現金が存在しない社会にすることが目標です」と同氏は語る。なぜ、同氏は日本のキャッシュレス化社会を目指すのか。そのルーツは、同氏が創業メンバーと共に体験した出来事にある。
「創業メンバーのひとりであった彼は、海外で今何が起きているのか知りたいと様々な国へ行き、見たことを報告してくれていました。その中で本当に驚かされたのが、世界で進められているキャッシュレスの実情です」
彼が報告するところによると、アフリカのケニアでは、現金を使わずにスマホでの支払いや送金が日常的に行われているという。「山奥にいるマサイ族も現金を使いません。彼らは中東へ出稼ぎに出ていて、雇用主からの給料は瞬時にスマホで送金されます。彼らは給料をマサイ族の村にいる母親にスマホで送金し、受け取った母親はナイロビにいる息子にやはりスマホで送金しているというのです。まさかと思いました」。
同氏が自ら現地へ確認しに行ってみると、確かに彼らは目の前でスマホでのお金のやり取りを普通に行っていた。さらに調べていくと、中国などアジア新興国の多くが、スマホ送金や決済を日常的に行っていることがわかった。中国ではホームレスですら、QRコードを掲げて物乞いをしている。
「アフリカ人はくしゃくしゃの紙幣で支払っている、中国人は銀聯カードを使っていると思い込んでいるのは日本人だけなのです」
また、キャッシュレス化には意外なメリットがあることもわかった。「現金を持ち歩かないので、アジアの新興国では強盗が減り、治安が良くなりました。紙幣やコインを触ることがなくなったので、疫病が減りました。さらに、決済のデータが残るため、賄賂や脱税がなくなります」。現金がなくなることで、世界が平和に進んでいくというのだ。
同氏の見解によると、キャッシュレス化を推進する国はこれからもっと増えるという。実際、インドではブラックマネー対策のために高額紙幣が廃止され、欧州中央銀行では500ユーロ札の発行を取りやめる。ケニヤやナイジェリアでも、既に50%がキャッシュレス化されている。
日本の常識はこんなにも遅れていたのか。「日本に広まっていないことにビジネスのチャンスがあるのではないかと考え、NIPPON PAYの設立に踏み切ったのです」。
世界中でこれだけキャッシュレス化が進んでいてもなお、日本で現金第一主義の思想は根強く、キャッシュレス化への進みは遅い。その原因について同氏は、日本の国民性によるものだと考えている。
「総中流化社会の弊害とも言えるかも知れません。自分たちはものすごく進化していると思い込んだまま、ある程度にまで達すると満足してしまう。進化することをやめてしまうんですね」
かつて、ソニーはウォークマンという画期的な商品を生み出した。しかしそれは、ウォークマンに電話機能をつけたiPhoneに抜かれてしまった。docomoがiモードを生み出した時は、世界中のビジネススクールがそのビジネスモデルを研究した。その画期的なシステムもまた、スマートフォンに取って代わられてしまった。
日本のキャッシュレス化が進まない原因は、業界の最低限の利益を守るために、競争を避け進化をやめてしまう国民性にあるのではないか。護送船団方式が蔓延する日本を同氏は憂いている。
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キャッシュレス化が進む国はGDP成長率も伸びているという説がある。キャッシュレス化が急速に進むアジア新興国ではGDPが好調な伸びを見せているが、現金使用率が未だ高い日本のGDP成長率は横ばいのままだ。通貨や貨幣の概念がボーダーレスとなったとき、日本は眠りから覚め、経済は再成長へと向かうのか。NIPPON PAYが仕掛ける貨幣革命に期待が高まる。
プロフィール
續 仁(つづき・じん)氏…主に通信業界に数社勤務。2017年2月に東証1部上場の通信事業会社の子会社役員を退職し、株式会社NIPPON PAYの代表取締役社長に就任。
株式会社NIPPON PAY
〒104-0061 東京都中央区銀座1-14-5 銀座ウィング南3F
TEL 03-4546-1766
http://nippon-pay.com