
「人と人との関係をつむぎ、子どもと保護者の明日をつむぐ」
名前にその意味が込められている一般社団法人明日へのつむぎは、大阪府茨木市で「発達サポートセンターつむぎ」を運営し、発達障害がある子どもたち向けに放課後等デイサービスを提供している。2014年の設立から、子どもたちとその家族、そして地域を支えてきた。
代表理事の東村剛志氏は、大学院で学んだシステムズアプロ―チを用いて、この業界では珍しい心理学的なアプローチで療育を行っている。独自に作られた療育のプログラムや立ち上げの背景、これから描く未来について、東村氏に伺った。
「安全で安心できる空間を用意し、子どもたちがのびやかに成長できる場を提供する」――そんな理念を掲げ、子どもたちやその家族の未来をつむいでいるのが、一般社団法人明日へのつむぎだ。大阪府茨木市で放課後等デイサービス「発達サポートセンターつむぎ(以下、つむぎ)」を運営し、現在約70名の子どもたちをサポートしている。
施設に通うのは自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠如・多動性障害(AD/HD)、限局性学習障害(SLD)など、高機能の発達障害がある小学1年生から高校3年生までの子どもたち。ただし、高機能の発達障害といっても、条件は「自分でトイレに行けること」「スタッフの指示である程度動けること」の2点。支援学校に通う子どもも対象だ。
同施設では、独自のプログラムを通じて「社会性」「コミュニケーション」「創造力」の3つの力を育むことを目指している。放課後等デイサービスの利用には、18歳という期限があるため、それまでに自立に役立つ生活能力を身につけるねらいだ。

つむぎの大きな特徴の一つが、設立以来続いてきた5つの枠組みだ。その5つを基本として、週ごとに多様なプログラムを子どもたちに提供している。
まずは「工作」だ。廃材を使った工作や、知的好奇心を刺激する理科工作などを通じて豊かな想像力を育み、指先の巧緻性や創造力を養う。そして、2つ目が「クッキング」だ。料理やお菓子を作りながら調理器具の正しい使い方を学び、パフェやケーキなどのデコレーションを楽しむことで自己表現力を養う。
3つ目は「セレクト活動」。自分の好きな活動を選択し、異なる年齢の子どもたちと交流しながら人間関係を育み、コミュニケーション能力を身につける。また、交流の中で人との約束や社会的ルールを守ること、上下関係などを学び、将来の対人関係に役立つ力も養う。
4つ目が「個別療育」だ。子ども一人ひとりに合わせたプログラムを用意し、手先の巧緻性や認知機能を高め、自分は出来るという自己肯定感を高めることで社会への自立、適応能力を養う。
5つ目が「自由活動」だ。子どもたちが遊んでいる中にスタッフが入り込み、その場で社会適応力を高めるためのトレーニングを行う。例えば、適切な言葉づかいを教えたり、感情のコントロールや感覚過敏などの問題に対して解決方法を見出し、再び同じ場面に遭遇した際に適切に振る舞えるトレーニングを行っている。発達障害がある子どもたちは、一人ひとりペースが違う。そのため、一人ひとりの様子を見ながら、ペースに合わせて行うこの自由活動は特に重視しているという。
これらのプログラムは、大人の発達障害者の意見を参考に、独自に作り上げたものだという。
「今30代後半以上の発達障害がある方々が子どもの頃は、発達障害というものが世間でほとんど知られていなかった時代でした。そのため、それぞれの親の方針で育てられてきています。そういう方々に、『当時どういうプログラムがあったら、今の生きづらさがましになっていたと思うか』をヒアリングしてこれらの5つの枠組みを作りました」(東村氏)

つむぎには、もう一つ大きな特徴がある。それは、様々な方法を学んでいるスタッフが所属している点だ。東村氏は、大学院で学んだ臨床心理学や、精神科での心理士、スクールカウンセラーといった経験を療育に生かしている。福祉や保育出身の人が携わっていることが多いこの業界において、心理学的なアプローチをしているケースは珍しいという。
また、発達障害の研究をしている専門家の理事や、専門知識を持つ職員も揃っている。理事の一人は発達検査の分野で造詣が深く、専門用語を使用せずに保護者様に対して分かりやすく検査結果を伝えてくれるという。様々な知見から、子どもやその家族までサポートできるのはつむぎの強みだ。
そんな同施設が子どもたちをサポートする上で大切にしているのが、自己肯定感を高めることだという。
「ただでさえ、発達障害がある子どもたちは自己肯定感が低い傾向にあります。私たちは、日々子どもたちと関わる中で、誰かに褒められて一人ひとりが成長していることを確かに感じています。また、自己肯定感が高まって積極的になると、できることが増えたり、周囲の方々の彼らへの関わり方にも変化が出てきたりすると思うんです。だから、自己肯定感を高めることが、子どもたちの将来にとって重要なことだと考えています」(東村氏)
そのために、プログラムやコミュニケーションでサポートしているだけでなく、子どもたちを取り巻く周囲の環境へも目を向けている。例えば、施設の入口や事業所内には「放課後等デイサービス」という文字は使わないようにしているという。告知を受けていない子どもがインターネットで調べ、「そこに通っている自分は障害児なのか」と悲しむケースもあるからだ。
子どもたちや家族のことを考え、細部まで配慮の行き届いた一つひとつの取り組みが子どもたちや保護者、地域を支えてきた。その姿勢と取り組みは外部からも評価され、2016年には内閣府から内閣府特命担当大臣表彰を贈られている。
現在、子どもたちをサポートしている東村氏だが、「最初から子どものことが好きで、子どものために何かしようと思っていたわけではないんです」と話す。
もともと理系の大学で農学を学んでいた東村氏。大学生だった当時、地球温暖化対策のための国際的な取り決めである「京都議定書」が採択された頃で、地球温暖化をテーマに大学院に進むことも考えたことがあったという。
そんな中、卒業論文では屋上緑化をテーマにし、屋上緑化された場所を人はどう感じているかの調査をしていた。その中で、「やっぱり、僕は人にすごく興味を持っているんだ」と改めて気が付いたのだという。そこで、緑で人の心を癒したいと考え、造園会社に就職した。
しかし、造園会社というだけあって想像よりも緑の比重が重く、もっと人に関わりたいと思うように。仕事を辞め、大学院へ入学して臨床心理学を学ぶことにした。

卒業後、個人クリニックの精神科で心理士として働いていた中、父親が倒れたことを機に地元である大阪へ戻ることに。仕事を探していると、かつてボランティアで関わっていた青少年センターの所長の誘いがあり、子どもたちを放課後に預かる施設で非常勤の嘱託員として働き始めた。そこが、発達障害がある子どもたちとの出会いとなり、大きな転機となったという。
「当時はとにかくカウンセラーの仕事をしたいと思っていました。でも、いざ働き始めたら大きな衝撃を受けることがあったんです。職員の一人が、発達障害がある子にもない子にも、とても上手に接していたんですよ。心理学や発達障害などを専門的に学んでいるわけではないのに、その人柄でどんどん楽しませていく姿を見た時に『いくら勉強しても、子どもたちとの関わりはこの人にはかなわない』と思ったんです。それなら、私にできることは何だろうと考えるようになりました」(東村氏)
そこで、大学院時代に発達障害がある子どもの保護者と面談した経験を活かし、発達障害を持つ大人の会「北摂ほっとサロン」を立ち上げた。その背景について、こう話す。
「当時、発達障害という言葉が世に出てきた頃で、今のように特別支援教育も根付いておらず、学校の先生たちもどう取り組んでいいか分からない時期でした。でも、子どもたちがこれから大人になっていくことは揺るぎようのない事実。そんな中で、子どもや保護者が集える場があったらと思ったんです」
その後、NPOに移ることとなったが、サロンの運営を続けながら発達障害がある子どもをサポートする活動を続けていた。東村氏は「この仕事をしているうちに、どんどん子どもたちのことが好きになっていって、この子たちの将来に少しでも貢献したいと思うようになっていきました」と話す。
そのNPOでは事務局長に就任していたが、子どもから高齢者までのあらゆる分野を対象としていたため、「どうしても子どもに特化して関わりたい」と思い、独立。一般社団法人「明日へのつむぎ」を立ち上げた。
その名前には、人と人との関係をつむぎ、お子様と保護者様の明日をつむぐ。私たちの想いを未来に向けてつむいでいきたい―。そんな想いが込められている。
ー働く中で、どんなところにやりがいを感じていますか?
新しい考え方を教えてもらったり、パワーをもらえたり、子どもたちからいろいろなものをもらうんですよ。それは、この仕事を始めた時から今までずっと続いていて。他の職種ではなかなか味わえないことだと思いますし、この仕事の大きなやりがいだと感じています。
また、ご家族から嬉しい言葉をいただけることもやりがいの一つです。私が行っているシステムズアプローチにおいては、家族はもちろんのこと、それを取り巻く親戚、学校、地域まで考えてコミュニケーションを取ります。その中で、「家族関係が良くなった」「子どもとの関係性が変わってきた」といった言葉をいただけるのはとても嬉しいですね。
そして、同じ理念のもとで働いてくれているスタッフの存在も大きいです。2025年度は8名で運営しているのですが、そのうち私を含めた4名はほぼ立ち上げ当初から一緒に働いているんです。それぞれがやりがいを持って働いてくださっているのだと思いますし、私が先頭を切って子どもたちと無邪気に声掛けを行っているような雰囲気も好きでいてくれてるのかなと思います。
ーこれまでの仕事の中で、特に印象に残っているエピソードを教えてください。
「発達サポートセンターつむぎ」を立ち上げた頃から、つむぎのお休みの日に発達障害がある子どもの家庭教師をしていて、その時に出会った子のことをよく覚えています。出会いは彼が中学生の頃で、当時はいじめなどもあって不登校になりつつあるような子でした。
その子が車好きで、たまたま私の知り合いの息子さんが、ある大学の自動車部の主将をしていたんですよ。ご厚意で見学させていただいたら、その子が「絶対に大学に行く!」とすごく熱心に勉強をするようになって。その後、高校入学後もサポートしていたのですが、高校でいい友達に出会って「高校生活が楽しい」と言うようになって。さらに、推薦で関西大学に入学したんですよ。彼の人生に関わらせていただく中で、このように成長する姿を観られたことが本当に嬉しくて、今でも忘れられないです。
発達障害がある子どもと、その保護者に寄り添い、サポートする明日へのつむぎ。今後の展望についてこう語った。
「立ち上げてすぐの頃は入所待ちが多くて、もう一つ拠点を作ることも考えていました。でも、私は子どもだけじゃなく、その家族の顔まで見て一緒に取り組んでいきたい。それに、私もスタッフも子どもたち一人ひとりに丁寧に向き合っているので、これ以上規模を大きくするのは厳しいと思っていて。それなら、小さくてもいいから、今の状態を長く続けていくことが大事だと思っています。
また、人と人とをつなげていきたいと考えています。障害の有無にかかわらず、子どもを地域で育てる時代に戻っているのではないかと思うんです。そこに向けて、同じような熱量を持った人たちと繋がって、みんなで子どもを見ていきたい。今は地域のこども食堂とつながって、そこで子どもたちが他校の子どもと繋がったりアルバイトさせて頂いた子どももいるんですよ。そうやって、みんなで子どもたちを育てていきたい。
そんな、人と人とがつながるハブのような役割を果たせたらと思っています」(東村氏)
◎法人情報
法人名:一般社団法人 明日へのつむぎ
施設名:発達サポートセンター つむぎ
URL:https://www.asuhenotsumugi.or.jp/
代表理事:東村 剛志
所在地:〒567-0888 大阪府茨木市駅前1-8-20
◎インタビュイー
一般社団法人 明日へのつむぎ 代表理事
東村 剛志
※本記事はcokiに掲載しているこちらの記事からの転載です。