コラム

Gohoubi Laboが描く廃棄ゼロの未来 パイナップルケーキとチチャモラーダが生む地域循環

2026.02.09
パイナップルケーキ
画像出典:Gohoubi Labo プレスリリース

神奈川県大和市、小田急江ノ島線高座渋谷駅。その西口から徒歩2分の場所に、甘く芳しい香りを漂わせながら、食品ロスという現代社会の難問に静かに、しかし確かな答えを提示する店がある。パイナップルケーキ専門店「Gohoubi Labo(ゴホウビラボ)」だ。代表を務める畠山浩一氏は、菓子職人歴28年のベテランである。彼がたどり着いたのは、単なる菓子の販売にとどまらない、地域と自然を繋ぐ「完全循環型」の経営モデルであった。

職人歴28年、畠山浩一氏が直面した洋菓子業界の「大量廃棄」という構造的課題

Gohoubi Laboが発表した資料によると、畠山氏が菓子の世界に足を踏み入れたのは1998年のことだという。当時の日本は、まさに大量生産・大量消費の全盛期。華やかなショーケースの裏側では、売れ残った菓子が毎日大量に廃棄されるのが「当たり前」の光景として広がっていた。
4つの名店を渡り歩き、腕を磨いた畠山氏だが、その胸中には常に澱(おり)のような違和感があった。「丹精込めて作った菓子を、なぜ捨てなければならないのか」。職人としての誇りと、現実の経済システムの狭間で抱いた葛藤が、後の起業への原動力となったようだ。
「この業界の仕組みを、どうにかして変えなければならない」
畠山氏は当時をそう振り返る。彼が求めていたのは、作り手の情熱が無駄にならず、かつ経営としても成り立つ持続可能なモデルだった。

救世主は「日持ち」―Gohoubi Laboが開業以来達成した商品廃棄ゼロの実績

転機は友人からの土産物、パイナップルケーキとの出会いだった。その味わい深さはもとより、畠山氏が着目したのは「日持ち」という機能性である。
生菓子を中心とする一般的な洋菓子店にとって、天候による客足の増減は死活問題だ。雨が降れば客足は遠のき、準備したケーキは廃棄となる。しかし、賞味期限の長いパイナップルケーキであれば、このリスクを劇的に軽減できる。「僕が求めていたものは、これだ」と、畠山氏は確信したという。
2ヶ月に及ぶ試行錯誤の末、納得のいく味を完成させた畠山氏は、2021年にシェアキッチンと一台の自転車で「Gohoubi Labo」を始動させた。驚くべきは、大和市高座渋谷に店舗を構えた現在に至るまで、開業以来「商品の廃棄を一度も出していない」という事実だ。これは、フードロス削減が叫ばれる昨今において、極めて稀有な成功事例と言えるだろう。

ペルーの国民的飲料「チチャモラーダ」と地元農家をつなぐ循環型サイクルの構築

畠山氏の挑戦は、単に「捨てない」だけでは終わらない。Gohoubi Laboによると、現在はさらなる資源循環(サイクル)の構築に取り組んでいるという。
その鍵となるのが、南米ペルーの伝統飲料「チチャモラーダ」だ。マルシェでの出会いから着想を得た畠山氏は、パイナップルケーキの製造過程で出る「皮」や「芯」を活用し、この滋味深い飲料を作り出した。通常であれば生ゴミとして処理される部分が、新たな商品価値を持って生まれ変わったのである。
さらに、飲料を作った後の残渣(ざんさ)さえも無駄にはしない。これらは地元の無農薬農家へと渡り、堆肥として土に還る。その土で育った作物がまた地域の人々の口に入る。材料の廃棄ゼロを実現し、地域内で資源が循環する。これこそが、畠山氏が目指した「環境に優しく、心から美味しいと言えるお菓子」のあり方なのだろう。
一人の職人の「もったいない」という良心から始まった小さな店は今、地域社会を巻き込みながら、持続可能な経営の新たなスタンダードを示している。

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