少子化の影響で学校の統廃合が顕在化しているなか、生き残りをかけて、各校はさまざまな取り組みを行っている。その流れは、工業という専門知識を教える工業高校へも及んでいる。2014年1月号で取り上げた東京都立田無工業高等学校(東京都西東京市、池上信幸校長)に再度お話をお聞きして同校が取り組むインターンシップの現状を見ていく。
高田馬場駅から歩くこと10分、新目白通りの裏路地にある、高田馬場スタジオへ。
田無工業高校建築科の2年生、杉山京(みやこ)さんが働いていた。仕事は……
イベント用ボードの作成。学校の図工の授業が、そのまま仕事になったような楽しそうな職場だ。
さらに、イベントで使用される幕にアイロンをかけて、シワをとる仕事に。
その仕事が終わった後、インターンシップの感想を聞かせて頂いた。
……ということで、
(写真左から 杉山京さん、株式会社シミズオクト人事部山野井由貴さん、山崎宏美さん)
杉山 モノづくりが好きだったのと、父が建築の仕事をしているのに影響を受けて、建築科に入りました。入学当初は、インターンシップにあまり関心はありませんでした。でも、講習会でいろいろな会社の方々から仕事や会社のことをお聞きしたり、先生と進路の話をするうちに、「会社の様子を知るためにインターンシップはいいかも?」と思うようになりました。
シミズオクトさんにお世話になった決め手は「大道具」に関係する職種であったこと。インターンシップの受け入れ先リストを見ていたら、以前から興味のあった舞台などの大道具を作っていると書いてありましたので、お願いしました。
1回目(昨年7月末の3日間)はイベント会場で使う幕の縫いしろを作る作業を、2回目(昨年12月中旬の5日間)はボードの作製を手伝わせていただきました。インターンシップはアルバイトの延長みたいなものかなと思っていましたが、アルバイトで味わう緊張感とは全然違いますね。大人の世界に入っているなぁと。でも、自分が手伝った小さなモノや、そのほかのいろいろなものが組み合わさって最後は大きな会場になっていくと思うと、すごく楽しかったです。
将来は、進学するという道もありますが、建築科の実習で学んだことを生かして、大道具を作る仕事に就きたいと思っています。
山野井 当社の業務は、舞台などの会場の設営および運営管理、警備、清掃などを行う、エンターテインメント業界の裏方の仕事です。
売り上げ300億円従業員数1000人以上(グループ会社を含む)の業界最大手で、2002年のFIFAワールドカップなども手掛けました。
山崎 インターンシップの受け入れは、大学や専門学校からの実績はありますが、高校生はここ数年になります。昨年、田無工業高校の卒業生が当社の大道具の部署に入社したのがご縁で、今後も若い人たちに就業経験の場をご提供していきたいと考えて受け入れました。
インターンシップはいろいろな部署で受け入れていますが、受け入れ実績が多く、危険な作業が少ないサイン・テキスタイル部に入ってもらいました。教えてもらうという受け身のスタンスの実習生が多い中、杉山さんは自分から聞かないとやることが見つけられないことをわかっているので、積極的に先輩に質問していました。
生徒さんの要望に近い部署に受け入れるように調整しています。でも、短い期間での仕事が多く、仕事を覚えるというよりも、現場の雰囲気に触れるという感じでしょう。その点、工業高校の生徒さんは、普通科の生徒さんよりも基礎的な知識を持っているので、現場の雰囲気に馴染みやすいと思います。インターンシップは今後も積極的に受け入れていく予定です。
工事自体は終わり、道幅を測定中だった(写真左:池田建設株式会社工事部 竹内健策さん、右:小形さん)。
そして、先ほどと同じように、インターンシップの感想を聞かせて頂く。
小形 今回、池田建設さんを志望した理由は、仕事内容が興味のある道路関係だったからです。実際の仕事の内容は現場監督のサポートでした。カメラで現場を撮影したり、工事の際に騒音が出るので、近所にチラシを配って事前に告知したり、色々な仕事を体験させてもらいました。
建設業は外で体を動かすので、ちょっと間違えば命にかかわる仕事で危ないかもしれません。でも、夏休みには父が働いている建設会社で手伝ってもいるので、自分には向いていると思います。
やりたかった仕事なので、池田建設さんでのインターンシップは本当に楽しかったです。先輩たちが土ならしの作業をしているのを見ていて、「ああ、いいなぁ。自分もやりたいなぁ」と思いました。体力とガッツには自信があるので、チャンスがあればやってみたいです。
卒業後は就職したいと思っていますが、どういう会社があって、どういう仕事があるのか、まだわからない状況です。就職までには、多くの会社を見てみたいと思っています。就職で今後の人生が決まるので、父と相談して決めたいと思っています。
竹内 インターンシップの受け入れは今回が初めてのことです。建設業はきつい仕事なので、あまり人気のある仕事ではないかもしれませんが、とてもやりがいがあると自負しています。インターンシップで仕事を肌で感じて、若い人たちに建設業に興味を持っていただければ嬉しい。
建設業は危険が伴う作業が多いので、重機に近寄らない仕事をと考え、小形君を現場監督補佐として受け入れさせてもらいました。現場監督がどういうことをするのかを近くて見ることで、建設業の仕事を知ってもらいたかったからという意図もあります。
小形君は、わからないことは何でも質問はしてくれ、とても意欲的でした。道路に興味があると言ってくれたのですが、そういう若い人とはなかなか出会わないので、非常に嬉しかったです。興味を持って仕事をするのはとてもいいことですから。インターンシップを通して建設業の素晴らしさを知り、小形君のように建設業に興味を持つ若い人たちがもっと増えてくれることを切に願っています。
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【取材後】 杉山さんと小形さんが、しっかりとした就職観を既に持っていることに驚いた。やはり、校舎の外に出なければ学べない勉強があるのだろう。剥き出しの個として、初めて実社会に触れる機会。そうした経験を早くに持つことで培われるものの大きさを感じた。 かつて、ある進学校の先生はこう言った。「高校生に社会勉強が必要なのもわかるが、そんな余裕が一時間でも有るならば、学校としては大学受験のための英語や国語を勉強させたい」、と。 有名大学への合格実績という評価方法を重視する社会の制度設計上、それもわかる。だが、大学に入った先に、目的意識を見出だせない子が多々いる現状(筆者加藤もそうだった)を想うと、高校の間に少しぐらい企業で学ばせる時間を設ければよいのに、と思う。ここで強調したいのは、高校という時期。早いうちに経験するインターンシップにこそ、勉強という観点で大きな意味がでる。なぜか。社会人になるまでに時間が有るから、体験したことを素直に受け止める余裕というか、混じり気のない学びや気付きを得やすいと思っている。逆に言えば、大学でのインターンシップは性質上、どうしても就職を意識したものになりがちだ。 実際、その子の人生という視座に立ったら、数時間、数日分の英語や国語より、ずっと益する点があるだろう。というのも、杉山さんと小形さんが本当に良い表情をしていたのだ。進学校の先生に、それこそ意地悪く聞いてみたい。貴校の生徒と見比べてどうですか?
東京都立田無工業高等学校
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