昭和32年(1957年)に誕生した日本電子工業株式会社は、設立当初、現在扱う様々な技術のうち「高周波焼入れ」の受託加工を行っていた。 「高周波焼入れ」は、鉄鋼材料を1000度近くまで高温にし、水や油などの冷却剤で急冷して焼きを入れる技術だが、素材が持つカーボンや合金の量によって焼きを入れる温度範囲が異なる。母材に合わせて調整し、表面のみ硬く、中は柔らかいままの状態に仕上げることで、疲労強度や耐摩耗性を向上させることができるという。 瞬間的に温度を上げるため、省エネルギーや省資源にも繋がる優れた技術だ。適用できる素材が決まっているほか、カーボン量が多すぎると焼き割れを起こしてしまうなど、同社で請け負う加工の全てに活用できるわけではないが、自動車部品のネジのような小さいものから、10t、20tという大きなロール関係の製品まで、幅広い製品を焼入れることができるという。 熱処理加工には様々な技術があるが、その技術の殆どは、全体を加熱する必要があるものだ。それらに比べて「高周波焼入れ」は部分的に加熱するため遥かに省エネであり、省資源・省エネルギーの技術として、幅広く利用されている。省エネルギーの観点からも、同社が誇るプラズマテクノロジーには大きな可能性がある。 「高周波焼入れ」の受託加工を全国的な規模で行っているのは、同社を含めて数社ほどあるが、技術的にはトップレベルにあるという。また、パイオニアとして長年の経験を持つ「プラズマ窒化」に関してはナンバーワンの技術力を持っているほか、設備販売についても、国内で使われているプラズマ窒化装置の9割以上が同社の製品だ。JIN-20SB型イオン窒化装置 新時代の熱処理としてイオン窒化法にいち早く着目した同社は、独自で研究開発を行い、昭和48年に国産第一号機を完成させる。イオン窒化装置の製造及び受託加工を開始したのは、日本では同社が初となる。
同社が加工する製品は主に自動車産業や建設機械産業に使われているため、同社の業績はこれらの産業の景気に影響される。 昭和48年(1973年)、第四次中東戦争の勃発によって第一次オイルショックが起こる。トイレットペーパーが無くなった光景で知られるが、昭和28年(1953年)生まれの同氏はこのとき関西大学工学部で金属工学を学ぶ学生だった。この5年後の昭和53年(1978年)に、イラン革命が第二次オイルショックを引き起こすが、同氏の日本電子工業株式会社への入社は二度のオイルショックの間の昭和52年(1977年)、まさに自動車産業が低迷の最中にあった時代だ。 業界内に限らず日本経済自体が不景気に喘いでおり、同氏らの世代も就職難を味わったという。 この昭和52年(1977年)、同氏入社時の日本電子工業株式会社もその波に飲み込まれており、厳しい状況であった。その後、バブル期や平成20年(2008年)のリーマンショック後の円高を乗り越え現在に至っている。H-100D型高周波発振機 高周波電流による電磁誘導現象を応用した高周波加熱技術。局部加熱が可能なことや、短時間での表面焼入れ、均一で良質な焼入れなどが行える。
受託加工という業態である以上、機械の生産台数が増えない限り仕事は増えない。仕事が増えなければ、自ずとコスト競争になる。加えて、「高周波焼入れ」はインラインで流せるためメーカーが内製化しやすい技術であり、受託企業間での競争になる以前の段階で、メーカーから仕事が外に出ないケースも多い。また、内製化と外注を部品によって使い分けている企業もあれば、完全に内製化している企業もあるという。 他社との差別化を図り、競争力を高めるためには、「品質」「納期」「コスト」をいかにクライアントに提供していくかが鍵となるが、このうち品質について同氏は「高品質であることが重要です」と語る。品質を高めるほどコストも嵩むが、低コストで高品質に仕上げる努力を日々重ねているのだ。 「社員には、『お客様からの要求の、上限と下限よりさらに厳しく縮めた範囲内の品質で納めるようにしなさい』と言っています。範囲を縮めた中で品質を確保していれば、大きな問題に繋がるような製品にはなりませんし、安定した品質が得られるからです」 この条件を設けて長年、仕事を行ってきたことで、「日本電子工業に頼めば安心できる」という信頼を築いたのだという。「低コスト、短納期、高品質」をひたすら追い求めてきたことが今日の同社がある所以だが、この「良い塩梅」を見極めるバランス感覚は理論だけでは得られず、実践の中で身に付けてきたものだ。同氏は「やはりベテランの社員には貴重な価値があります」と語る。ラジカル窒化装置(JRN-6060VS-E) 新しい理論に基づくプラズマ表面改質法である、ラジカル窒化法。従来のガス窒化などの窒化法とは異なり、化合物層のない窒化処理を可能にしている。
JPC-3000S型プラズマCVD装置 低温プラズマの熱処理法への応用により開発されたプラズマCVD法。次世代の成膜技術として、様々な産業分野から期待されている。
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平成24年(2012年)に6代目社長に就任した同氏。リーマンショックからの業績回復途上、なおかつ東日本大震災の翌年でもあり、難しい舵取りを求められるタイミングでの就任だったが、今回の日刊工業新聞社からの「優秀経営者顕彰・研究開発者賞」受賞を例に挙げるまでもなく、その経営手腕は確かなようだ。