そしてもう一つ。「若い社員を預かる」ということに対して、ある行動をとっているのだが、これこそが若返り成功の最大の理由と思える。 「採用が決まった段階で、社員の実家へご挨拶することにしています。社員本人が新しい環境に入ることへの不安を抱えているのと同じように、その親御さんや御家族も、子供がどういった会社へ入るのか、同じだけの不安を抱えています。僕のような若造が説明に伺うことで、それが解消されるとも思えませんが、それでも自分の思いを精一杯お伝えするようにしています」 ここで実際にあったエピソードを紹介しよう。現在も同社で活躍中の、ある女性社員の実家は長野県の山村地域だそうだが、そこを訪問したときのことだ。 その日は雨が土砂降りで、成田氏が家を訪れると、雨脚の強い中、彼女のお父さんは家の外で傘をさして待っていたそうだ。 「その姿を見ただけで、これから受け入れる社員がどんな環境で育ってきたか、どれだけ大切に育てられてきたかが分かるじゃないですか。だから親御さんには、『当社に来て頂いた以上は、本気で育てます』とお伝えします」 さらに、そういった話の後、社員同席の上で、「1年以内に絶対に辞めたくなります」と伝えるのだという。 「どんな仕事でも、思い描いたものとのズレは生じるものです。そんなとき、『お子さんが辞めたいと言い出したら、お父さんお母さんで絶対に止めてください』と、そのようにもお伝えするんです」 仕事は3年続けないとわからないとはよく聞く話で、ビジネス環境が激変する昨今、賛否両論あるが、少なくとも「1年以内で辞めたら得るものが残らない」ということには、多くの人が同意できるだろう。事実、成田氏がこの話をすると「親御さんは必ず賛同してくださいます」とのこと。 成田氏がこうした話をするのには、実は自身の経験が関係しているのだという。「大切に育てられてきた社員をお預かりするからには、『本気で育てます』」。これが、同社が若返りに成功した最大の理由ともいえる(写真は同社で活躍中の若手社員たち)
「社会人1年目は、仕事が嫌いで転職サイトを頻繁に見ていました。あるときなんか、もう限界だと思って、先輩に『俺、鎌倉の人力車の車夫に転職しようかな』と言ったんです。そうしたら、『良いじゃん。向いてそう』って。おい、止めてくれないのかよと(笑い)。でも、かえって辞めてなるものかと、奮起できたわけですが。ただ、そんな環境も2年目になったら仕事の面白さが見えてきた。 そして、システムエンジニア時代の経験は現在のツクノの経営にも活きています。仕様書などを読めますから、そこらの生産管理ソフトの営業マンより詳しかったりする。おかげで無駄なパッケージソフトを購入することがありません。プログラムの上から下に流れるという考え方が、クレーム対応などにも活きている。原因は何かと仮説を立てて、検証し、対策を打つPDCAサイクルを回すことが自然にできるのです」 自身がこうした〝成長〟をしてきたからこそ、従業員にも、「仕事の面白さが見えるまでは続けて欲しい」と、本人のキャリアのためにも願うのだという。 実際のところ、過去に、曽祖父である釼治氏を慕った人たち同様に、現在の従業員は成田氏を慕っている。社員に話を聞くとそのことが伝わってくる。「副社長の話を聞いているとワクワクできる」「なんかこの人についていくと、凄いことになりそうだなって」。 そして、成田氏もこう話す。 「本当に良い人材がきてくれているなと思います。僕は人が好きなので、人を元気にする仕事がしたい。まずは社員に元気になってもらって、その次は世の中の人を元気にしたいですね」「良い人がいれば今すぐにでも採用したい。ただ、当社と価値観の合う人しか採用するつもりはない。そこはぶれないようにして、常に若い人を採用し、社内の活気を保って行く必要があると思っています」
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本稿のテーマである「町工場が若返った理由」。はたして腑に落ちただろうか。ツクノはオンリーワンの技術が有るわけではない。将来性のある業界の企業でもない。キャッシュ・フローも贅沢ではなさそうだ。 それでも若い人があつまる。色々と理由は語ってみた。でも一番の理由は、明確だ。あたり前すぎると言われればそれまでだが、やはりリーダーがパワフルなこと。従業員が夢を見られる環境にあること。これに尽きるのだと思う。 さて、社員を惹きつけるエネルギッシュさを、あなたはお持ちだろうか?
プロフィール
成田大輔(なりた・だいすけ)氏…明治大学卒業後、航空会社に入社。入社直後より米国最大手のデータベース会社が手がける最大のプロジェクトに参画し、システムエンジニアとして結果を出す。その後もERP・SCMソフトを大手メーカー向けに開発し実績を上げる。その後、大手半導体メーカーで車載向けのルート営業を担当。3年目で営業成績トップとなり、成果を上げる。8年前に株式会社ツクノへ入社し、現在に至る。
株式会社ツクノ
〒257-0031 神奈川県秦野市曽屋989-6
TEL 0463-85-4111
資本金:2,160万円
http://www.tsukuno.co.jp/index.html